INTERVIEW
インタビュー
クリエイティブで地域の活性を。飯舘村で移住促進を行う「Bound for IITATE」の目指すもの
松本奈々
「Bound for IITATE」は村内の空き施設を活用しクリエイターの活動拠点、村内外の人々の交流拠点をつくり出すプロジェクト。過疎化が進む飯舘村で、クリエイティブによる移住促進を行うことが目的だ。発起人である松本奈々(まつもと・なな)さんは、飯舘村の地域おこし協力隊として活躍する福島へのUターン移住者。東京でシステムエンジニアとして働いていた彼女がなぜこのようなプロジェクトを立ち上げるに至ったのだろうか?
いま、地方ではクリエイターが求められている
2011年、東日本大震災直後に東京の大学へ入学した松本さん。大学時代は飯舘村役場が臨時で出張所を置いていた飯野町へと訪れ、子供向けのワークショップを行うボランティアを継続して行っていた。しかし、地域おこし協力隊のメンバーになるまでは一度も飯舘村に訪れたことがなかったという。福島に戻ることは考えていなかったものの偶然と縁が重なり、福島へと帰ってきた。
「他人にあまり干渉しない東京の暮らしは心地よかった反面、信頼関係を築くことの難しさに虚しさを感じてもいました。そんなときに飯舘村で地域おこし協力隊の募集を知り、足を運んでみたんです。直感的にしっくりくるものがあり、移住を決意しました。飯舘村の人口は1500人ほどですが、そのうちの100人くらいが知り合いです。自分を常に気にかけてくれる人、家族でもないのに助けてくれる人がいる。自分が窮屈に感じていた田舎での人間関係にしっかり向き合ってみて世界が広がりました」
東京ではシステムエンジニアとして働いていたが、移住後は職種も働き方も一変。企画提案、メンバー集め、実行までを少人数のメンバーと一気通貫で行っている。現在Bound for IITATEで取り組んでいるのは、飯館村内外の空き施設を活用したクリエイターのための活動拠点の立ち上げだ。東京などの都市部と比較すると、地方を拠点にするクリエイターはまだまだ少ない。しかし、場所に縛られずに働くことの出来る職種であれば地方に拠点を持つことはむしろメリットにもなると松本さんは話す。
「村には魅力的な方、魅力あるものが沢山ありますがそれを発信していける人が少ないことが課題です。なので若い方を巻きこんでいきながら、クリエイティブ、販路開拓までをコーディネートできる体制をつくりたいと思っています。今後、Bound for IITATEでは空き施設の活用に加え、一軒家をリノベーションしてシェアハウスを立ち上げる予定です。二拠点居住のための拠点を作ることで、クリエイターが往来しやすい環境をつくりたいと考えています」
アートを通じて地域の文化・歴史を未来に繋いでいく
ここ数年、飯舘村への移住者は増加傾向にあり、彼女の周りには同世代の方々が徐々に集まってきているという。昨年プロジェクトに関わるクリエイターの募集をオンラインで行った際には30人ほどが参加した。YouTuberや音楽家の方が飯舘村への移住を検討し、実際に移住につながったケースもある。今は新型コロナウイルスの影響でリモートワークが普及し、場所にとらわれずに働けるようになった。1か所に留まることに違和感を覚えはじめた人も少なくない。特にクリエイターはものづくりの拠点さえあればフットワーク軽く動くことができる。時流が追い風となっている形だ。
しかし、なぜアートやクリエイティブにフォーカスを当てているのだろうか? 実は彼女は大学時代にメディア学を専攻し、公共空間とアートの関わりを研究していたという。
「目には見えない価値を顕在化させ伝えることがクリエイティブや芸術の力であり、地域における役割」そう考える松本さんは、地域の文化や歴史を、クリエイティブの力やアート作品を通じて伝えていくことを目指している。それこそが飯館の魅力であり、飯館でしか作れないものだからだ。
「最近は神社や石の並び、祠などを調べて回り、どこにも載っていない話を聞いて回っています。飯舘村には本などには記録されず口承で伝えられている文化や歴史があるみたいです。例えばそれらを題材に映画がつくれたりしたら、飯舘に興味を持ってもらえるきっかけになるんじゃないかと思うんです。アートはあくまで手段の1つ。クリエイターと共にそうした未来に繋がる活動をしていきたいです」
何者でもない。だからこそ出来ることがある。
飯舘村は原発事故の影響もあり、過疎化の問題にいち早く直面した地域。しかし、2017年3月31日の避難指示解除以降、飯舘村への移住者は増加しており昨年9月には100人を超えたというニュースもあった。約1500人という人口を考えると、それが驚くべき数字だということがわかる。
松本さんは福島県出身とはいえ、あくまで移住者である。村の未来を思ったとき「よそもの」の立場から新しい視点を投げかけることが自身の役割なのだと考えている。
「地域おこし協力隊として復興支援活動に関わる中で、何より大事にしているのは村の資源や人の想いを未来に繋げていくこと。この村に新しい視点を提供し、ポジティブな変化を生み出していきたいです」
地域おこし協力隊の任期は3年間。これまで2年間地域おこし協力隊として活動し、目標を達成するための基盤が整ってきたところだ。2021年の任期終了後は引き続き飯舘村に拠点に置き、新たに立ち上げたローカルプロデュース会社「MARBLiNG, Inc.」として活動を行っていく。
「飯舘村に来て仕事の幅はぐんと広がりました。時々、自分が何者なのかわからなくなることもあるぐらいです。ただ、それは決して悪いことではありません。自分は何者でもない。そう自覚して、周りの人が求めることに丁寧に応えていきたい。経験や肩書きに縛られず、やりたいことに挑戦していく。そんなこれからの世代の生き方を実践していきます」
(2020/12/16取材)
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取材:高橋直貴、宗形悠希
執筆:高橋直貴 -
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