INTERVIEW
インタビュー
離れて芽生えた地元への想い。Uターンしてスタートした第二のキャリア
小川有哉さん
高校卒業を機に地元南相馬を離れた小川有哉(おがわゆうや)さん。仙台の大学を卒業後はアパレル会社で働き岩手・長野・愛知と転々とするなかで芽生えた地元への想い。新しく開業した道の駅に転職しスタートした新しい生活。6年間地元を離れた後に南相馬へUターンした小川さんにお話を伺った。
自分は何をしているんだろう
「何もないし、楽しいものもない。早く抜け出したい。」そう思い地元南相馬の高校を卒業した後は仙台の大学へ進学した小川さん。
「大学2年生になる前の春休み。ちょうど実家に帰ったときに震災がありました。大変な思いもしましたけど、大学の生活が始まってしまえばそれはそれで楽しいし。大学のある仙台からはいつでも帰れる距離でしたし。当時は地元に何かしたいと考えたことはなく、あっという間に過ぎた大学生活でした。」
もともとは歴史が好きで学校の先生になろうと思っていたそうだが、学生時代に始めたアパレルのアルバイトで接客の面白さを覚え、大学卒業後は全国規模のアパレル会社に就職。岩手、長野、愛知と各地の店舗を転々としていた。
「好きで始めた仕事でしたから楽しかったですよ。各地でいろんな現場を経験して刺激ももらっていましたし、充実していました。でも社会人2年目、愛知にいた時ですね。被災地として映し出される地元の様子をテレビで観て"自分は何をしているんだろう"と、ふとそんなことを思いました。」
小川さんの心境に変化があったのは2015年。震災から4年の月日が経った頃だった。
大変な状況でも前向きに頑張っている人たちの姿をみて感化された。一度沸き上がった思いは徐々に膨らんでいき、遠く離れた愛知で何もできないことに歯痒さを募らせていったという。
少しでも、微力でも地元の役に立ちたい
資格も何もない、特に秀でているものもない。それでも大学生の頃から培った接客の経験なら地元でも活かせるかもしれない。そう考えて転職活動を始めたのが2015年の春。同じ頃に南相馬でオープンしたのが、復興をコンセプトにした道の駅「セデッテかしま」だった。
「ここなら自分の経験を活かせるかもしれないと思って応募しました。もしセデッテが駄目だったとしても、地元に帰って腰を据えて転職活動をするつもりでした。少しでも、微力でも地元の役に立ちたい。そんな想いが当時の自分を動かしていましたね。」
小川さんの覚悟と想いが伝わったのだろう。見事に選考を突破して2015年7月からセデッテかしまの一員として新しいキャリアをスタートさせた。
新しい仕事、新しい繋がり
セデッテかしまは地元の食品を中心に扱う物産コーナーと食堂を構え、県内外から多くの方が憩いの場所として利用している。小川さんが扱う商品は洋服から食品に変わっていった。
「全く無知の状態でしたから食品管理について勉強しました。地元の生産者や小売店の方とのやり取りも増えていき、地元ですけど普通に生活しているだけでは関わらなかった方とも仕事を通じて新しい繋がりが増えてきています。」
社内外の方とのやり取りも担当し、現在は事務の仕事やスタッフのシフト管理までも担当している。接客に関してはアパレルで経験したことが活きているそうだ。
副店長という立場上、大変なことも多いのでは?
ちょっと答えにくい質問だっただろうか。苦笑いをしていた小川さんの様子をみて、少し離れた席でこっそりインタビューを聞いていた店長の佐藤さんが来てくれた。
彼と働きたいと思った
近い立場で働く小川さんのことを佐藤店長はどのように見ているのだろうか。入社当時の印象から現在の働きぶりを教えてもらった。
「まず履歴書を見て、イケメンだなと(笑)求人募集をしていた当時、数名から応募が来ていたのですが、私は彼と働きたいと思ったんですよね。一回りくらい歳が違いますけど、変に気を遣うことはなさそうだし、いいかなと。地元への想いが強いのもわかっていたし、半年かけて一人前に育てようと思って彼を採用しました。」
実はこの二人、地元も通っていた仙台の大学も同じ。似たような境遇に何か感じるものがあったのかもしれない。
「ポテンシャルがもともと高かった。色々気づいて仕事をしてくれているし、大変な仕事だって率先してやってくれる。慣れるまでは大変なことがたくさんあったと思うけど、いまは右腕どころか、それ以上に頼れる存在です。地元を盛り上げるには若い力が必要。彼がここを選んで来てくれてほんとうに良かったです。あとは勝手に頑張ってくれると思っています(笑)」
立ち上げの大変な時期を一緒に乗り越え、率先して働く小川さんに対する信頼感と期待が伝わってくるお話だった。
地元ならではの安心感
オープンから4年。セデッテかしまの利用者数は年々増加している。スタッフも増え、小川さんが担当する業務も増えていく。忙しい毎日のなかで、どんなところにやりがいを感じているのだろうか。
「ゴールデンウイークやお盆の時期はクラクラするくらい本当に忙しいです…(笑)でも、皆で乗り切って前年の売上を超えた時は達成感がありますね。前の職場では時間に追われて気持ちも体力も一杯いっぱいだったのですが、地元だからですかね、安心感があって気持ちの余裕も生まれました。」
忙しさを思い出して苦笑いする顔には充実感が滲んでいた。
私は帰ってきて良かった
最後にどうしても聞きたいことがあった。
小川さん、地元に戻ってきて良かったですか?
「復興にも少なからず貢献ができていると思っています。結果としてセデッテの利用者数も年々上がっているので、この地域の良さをアピールできているのかなと感じます。40代、50代になった時に何を残せるか。前職にいた時には考えなかったことも、この仕事を通して考えるようになりました。私は帰ってきて良かったです。」
メディアで報じられる南相馬は、どこかネガティブな側面を切り取られることが多い印象が強かったそうだ。でも、地元に帰ってくると一生懸命頑張っている人がいて、復興が少しずつ進んでいると肌で感じることができたという。「メディアでは伝わらない部分がある。地域の魅力を発信し、より多くの方に足を運んでもらって南相馬を見てもらいたい。」
今後の目標をそう語ってくれた小川さん。終始穏やかで丁寧な語り口だったが、一つ一つの言葉には芯の通った強い想いが感じられた。
「何もないし、楽しいものもない。早く抜け出したい。」地元を離れる当時に抱いていた想いは大きく変化した。一度離れたからこそ見えることも、気づけることも多くあるだろう。復興が進んでいく南相馬。まだ知らない魅力をきっと多くの人に伝えていってくれるはずだ。
(2019/7/1取材)
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取材・執筆:宗形悠希、高嶋亮太
撮影:古澤麻美
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セデッテかしま
詳細:http://www.sedette.jp/