INTERVIEW

インタビュー

人口ゼロを経験した南相馬市小高区に起業家が集まる理由とは? 小高ワーカーズベース代表・和田智行さんインタビュー

和田智行さん

出身地:福島県南相馬市
勤務先:株式会社小高ワーカーズベース
勤務期間:2014年5月〜
年齢:43歳

相双地域の中で、近年若い起業家が集まる地域がある。それが南相馬市小高区だ。その旗振り役となっているのが同区出身の和田智行(わだ・ともゆき)さん。彼は2014年、この地で株式会社小高ワーカーズベースを設立。HOOKでは過去に和田さんへインタビューを行い、立ち上げまでの経緯と「100の事業を立ち上げと、そのサポートを行う」という同社の目標を伺った。

あれから2年が経ち、和田さんが小高の地で立ち上げに携わった事業の数は15にのぼる(2021年1月現在)。なぜ小高に、とりわけ彼の元に起業家たちが集まるのか。そして、今この地域に求められていることとは?

移住と事業立ち上げを両面からサポートするNext Commons Lab南相馬

小高区は原発直後に避難指示区域に指定され、一度は人口がゼロになった地域。避難指示は2016年7月に解除されたものの、この地区に戻ってくる住民は決して多くはなく、いまも課題が山積みの状態が続いている。

そんな小高区で2014年に設立されたのが小高ワーカーズベースだ。同社が目指すのは「地域の抱える100の課題を解決する100のビジネスを立ち上げる」こと。これまで6年間で15の事業が立ち上がり、着実に目標へと進んでいるが「原発の廃炉までに」この目標を達成するにはさらにスピーディに事業づくりを行っていかなければならないと、同社の代表である和田さんは語る。

事業作りを加速させるためには、まず何よりも人材を集めること、つまり移住者を増やし、人口の絶対数を増やすことが必要だ。そうしたときに直面するのが住居不足の問題だ。起業支援を行うNext Commons Lab南相馬では、住居と起業の両面からサポートを行っているという。

「小高から避難された方々の中には、思い入れのある住宅をそのまま残したいという方が少なくなく、活用できない空き家が多数あります。そのため、移住を考えている人がいても住む場所が足りないという問題がある。こうした問題を解決するべくNext Commons Lab南相馬では地域おこし協力隊と協力し、移住と事業の立ち上げをセットでサポートしています。今後は、地域をあげて空き家活用のマッチングのような中間支援を厚くしてしくことが必要です」

挑戦しやすい風土、起業家のコミュニティが小高の魅力

慢性的な人手不足が課題としてあるものの、NCLの活動が徐々に成果を現し小高区への移住者は年々増えていると和田さんは続ける。また、小高ワーカーズベースが運営するコワーキングスペース、ゲストハウスの利用者は増え続け、現在は手狭になるほどの人気ぶり。それに比例するようにこの地域に継続的に訪れる関係人口も増加を続けている。

企業誘致、移住促進の取り組みは小高に限らず過疎化が進む多くの市町村で行われている。では、なぜこの小高という地に多くの起業家が集まるのだろうか。その理由の一つが「チャレンジしやすい条件が揃っている」ことだという。

「小高は同地域内での競合が少ないため事業立ち上げの際のハードルは比較的低いといえるでしょう。加えて、地域おこし協力隊の任期である3年間は生活費の心配もいらない。事業を行う上での心理的な不安を取りのぞけるよう私たちもサポートを行っていますし、周囲には起業家たちのコミュニティも出来上がってきており孤立することはありません。新しい事業を生み出す場としては、十分なポテンシャルがあります」

「真っ白なキャンパスにイメージ通りの絵を描く」。「予測のできない未来を楽しもう」。実務的なサポートに加え、NCLのウェブサイトに記載されているこうした言葉が、チャレンジ精神を持った起業家たちを奮い立たせるのだろう。なにもないということは、それだけ事業を行う余白があるということ。主体的に動ける人にとっては、確かにこれ以上ないフィールドだといえる。

補助金は使わない。現地での雇用を創出する。持続可能なビジネスのために和田さんが大事にしていること

こうした行き届いた支援体制が整えられている理由は、やはり和田さん自らが経験を重ねた起業家だからだろう。

小高ワーカーズべースでは前述したコワーキングスペース、ゲストハウスに加えてガラスアクセサリーの生産を行う「アトリエiriser-イリゼ-」の運営を行っている。自ら事業を行う上で大事にしているのは「自立した運用体制、持続可能なビジネスをつくること」。とりわけ、会社経営に関しては補助金などを使わず自己資金を基本としていると和田さんは話す。なぜだろうか。

「被災地には事業を後押しする補助金は多数存在しています。しかし、それはあくまで期限付きのもの。補助金頼りの会社運営が常態化することは、長い目で見たときに大きな弊害となります。あくまで地に足のついたビジネスでしっかりと収益を上げていくことに注力していく。そうして経済的な自立を果たすことが持続可能なビジネスへの第一歩です」

現地での雇用、働きやすい環境の創出もまた、持続可能なビジネスを作る上で欠かすことが出来ない要素だ。「アトリエiriser-イリゼ-」では事業の成長に加え、小高に暮らすお母さん世代の方々を職人へ育成することを目的にしている。

「雇用を確保するためには子育てや介護といった事情を抱えている人も無理なく働ける環境を作っていく必要があります。ここで働く5人の職人さんは全員が女性で、子育てを行う主婦の方もいます。ものづくりの仕事であれば時間は関係なく働けますし、仕事を通じて身につけた技術を今後のキャリアに活かしていくことも可能です。実際、副業で個人作家として活躍している方もいるんですよ。技術を一から学ぶには時間がかかりますが、ゆっくりと雇用を拡大していければと考えています」

小高ワーカーズベースの設立から6年が立ち、小高には起業家が集まる風土が醸成され、そこで生まれたコミュニティも強固になりつつある。しかし、和田さんいわく目標の達成度はまだ「30%程度」とのこと。100の事業を生み出していくために、今後も課題と向き合う日々が続いていく。

福島への移住を考えている方や起業を検討している方はぜひ和田さんのもとを訪れて欲しい。条件は整っている。踏み出す勇気さえあれば最高のスタートを切れる場所がそこにはあるのだから。

(2020/12/2取材)