INTERVIEW

インタビュー

自分を変えてくれた町に恩返しを。25歳の青年が楢葉町に移住を決めた理由

森雄一朗さん

出身地:群馬県
勤務先:一般社団法人ならはみらい
勤務期間:2018年〜
年齢:25歳

たったひとつの出会い、たったひとつの言葉が、人生を大きく左右することもある。一般社団法人ならはみらいで働く森雄一朗(もり・ゆういちろう)さんも、そんな出会いに導かれた一人だ。

森さんは立命館大学在学中に授業の一環で楢葉町へ訪れたことをきっかけに復興支援活動に取り組んできた。卒業後、地元群馬の銀行に就職はしたものの「やりたいことをやらずに後悔したくない」との思いから退職、楢葉町へ移住を決めた。「いつかこの町に恩返しをしたい」。町への思いがにじみ出る、彼の言葉をお届けします。

平凡な学生の人生を変えた、楢葉町との出会い

森さんがはじめて楢葉町に訪れたのは2015年7月。彼が大学生時代のことだ。東日本大震災の被災地に訪れフィールドワークを行うという授業の一環で岩手、宮城、福島と三県を縦断する視察ツアーを決行。その最終日に楢葉町を訪れた。そして、その晩に楢葉町役場で働く松本さんと知り合ったことが、森さんの人生に大きな影響を与えることとなる。

2015年7月といえば、楢葉町の避難指示が解除される直前。震災の爪痕が深く残っている時期だ。まだまだ復興もこれから、そんな中にあって松本さんは「震災があってよかったと言える生き方をしたい」と森さんに話したのだという。津波によって自宅も故郷の景色も失うという経験をしたにも関わらず、なぜこんなに前向きに生きることができるのだろうか。その言葉に「平凡な大学生活を送っていた」森さんは衝撃を受けたという。

「私は元々人付き合いが苦手で、なるべく人と関わらないアルバイトを選ぶような大学生でした。でも、楢葉の方はみんな腹を割って話すことを大事にしていて。それは当時の僕とは真逆の考えだったのですが、この場所で、ここに暮らす人にもっともっと関わってみたいと思いましたね」

その後、森さんは立命館大学の復興支援団体「そよ風届け隊」に所属。より復興支援活動に熱を上げていった。「大学卒業後は楢葉で働きたい」。大学の先輩であり、そよ風届け隊として活動していた西崎さん森亮太さんらが卒業後に楢葉へ移住したということもあり、森さんがそう考えるのは自然なことだった。

周囲からは引き留められた。それでも楢葉への移住を決めた理由。

大学卒業後すぐに移住はせずに、森さんは地元群馬の銀行に入行。今の自分には町に貢献できるスキルも経験もない。そう考えての決断だった。就職して数年働き、力をつけてから楢葉に戻る。当初はそんな未来を思い描いていた。しかし、その数年を待たずに、森さんは楢葉に移ることを決めた。なぜだろうか。

「銀行では配属先の人員や一緒に働く同僚の顔ぶれは数年で変わっていきますし、隣の席の人であってもコミュニケーションは希薄。そうした場に身を置いていると、1人の方と密接に関わり人間関係をつくる楢葉での経験がとても尊いもののように感じられたんです」

加えて2018年には「みんなの交流館ならはCANvas」「ここなら笑店街」がオープンし、Jヴィレッジが再開するという大きなニュースがあった。将来家庭を持つこと、親の介護が必要になることを考えると、今動くのが良いだろう。いや、今動かないときっと後悔する。

そうした自身の気持ちを確かめるように周囲の人に相談をしていった。同僚には引き止められ、最初から背中を押してくれた人は1人もいなかったという。その一方で、森さんの決心は揺るがないものになっていった。最終的には、職場の方もその熱意に圧倒され森さんの決断を応援してくれたという。そして2018年11月、一般社団法人ならはみらいに入社、楢葉町での新たな生活がスタートした。

自分を変えてくれた楢葉をよりよい町に

願い続けた楢葉町での生活だが、はじめから全てが順調に進むほど甘くはなかった。ならはみらいは2014年に立ち上がったばかりの組織で、基盤を固めていく真っ最中という時期。当時は正解が見えない中、もがく日々が続いていたという。

現在は、観光マップを作成したり、イベントカレンダーを作成したりとコミュニティを盛り上げるきっかけづくりに取り組んでいる。また町外から楢葉に視察にくる団体の案内なども行っているという。コミュニティデザインを学ぶ学生や、企業、団体が多いそうだが、特に学生の案内には熱が入る。そのほか、町民から寄せられる困りごとにも応える毎日だ。

森さんの仕事は町内18の行政区内の暮らしを良くするためのサポート役。いわば裏方だが、移住して数年が経ち、「裏方には裏方なりに出来ることがあるのでは」と視界が開けてきた。

「町民の方の多くが震災後、4年半の避難期間を経験しました。その時期があったからなのか、楢葉には自分たちの町を良くしようと創意工夫し、汗をかける方が多いと感じます。都会のように何でもある場所ではありません。しかし、目の前のものを大事にしながら楽しもうという心意気に溢れている。それはこの町の一番の魅力です。

僕はそんなこの町の人と何かを作り上げたいという思いで移住を決めました。いま担当している仕事と自分のやりたいことを繋げていけるよう、もっと町の人と会って、たくさん動いていきます」

はじめて楢葉に訪れた時のことを「学生という身分や大学の看板に守られていた」と振り返る森さん。ただ来てくれるだけで感謝された。しかし、今はそうではない。この町に貢献できなければ、楢葉に来た意味がない。ここからが本当のスタートラインだ。

「かつては『学生さん』でしたが、今はやっと『森雄一朗』として見てもらえるようになりました。同年代が少ないので、地域の方にも気にかけていただいているようで、本当にありがたいですね。僕自身、楢葉の方に出会って変われたことに感謝しています。『感謝は返謝して初めて完結する』という学生時代の恩師の言葉を今でも大切にしています。私はこの町を良くすることで、いつか恩返しが出来たらと思います」

(2020/12/21取材)

  • 取材:高橋直貴、宗形悠希
    執筆:高橋直貴
  • 一般社団法人ならはみらい
    https://narahamirai.com/