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STORY|ブルーベリーから甘酒まで。豊富な受賞歴を誇る名物加工所の物語。

震災後の福島には、町を元気にするために新しいプロジェクトや商品開発に取り組んでいる人や企業の姿がある。このコラムではそうした挑戦の背景にある、物語にフォーカスする。今回は田村市の滝根町にIターンで就農した稲福和之(いなふく・かずゆき)さん・由梨(ゆり)さん夫妻が経営する6次化商品の加工所「福福堂」のストーリーを紹介する。

今までと同じやり方では選んでもらえない

「福福堂」の物語は、どうしても震災抜きには語れない。震災で福島の農業は大きな打撃を受けた。もちろん、稲福家も例外ではなかった。滝根町は原発事故による避難指示(※)区域には入らず、農作物からも基準値以上の放射性物質は検出されなかった。それでも、1年間は試験的な生産にとどまり、収入はほとんどなかったという。

「先行きが見えない不安のせいで、周囲の農家さんのやる気も減退しているように感じました。今までと違うやり方を考えなければ、福島産の米や野菜は選んでもらえないと思ったんです」。

由梨さんは当時をこう振り返る。農家として働く前は、管理栄養士の資格を持ち、学校給食をつくる仕事をしていた由梨さん。農作物を加工するアイデアはかなり早い時期から考えていたという。

第一号はブルーベリージャム

国の復興支援事業の援助を借りたり、不要になった学校の厨房器具を格安で手に入れたりしながら、稲福夫妻は2013年1月、「福福堂」を立ち上げる。

第一号の開発商品は自らの畑で採れたブルーベリー100%のジャム。管理栄養士の資格はあったが、加工商品を手掛けるのは初めてだった由梨さん。研修会に参加したり、先進加工所の視察にいったりしながら、試作を重ねたという。

さらに、商品開発に取り組むと同時に、立ち上げ当初から福福堂は地域の「加工所」としての役割も担っている。地元農家の依頼により、主にブルーベリーなど農作物の加工を受託しているのだ。

「同じ“ブルーベリージャム”でも、農家さんによって食感や甘さ、ジャムの硬さなど要望は様々です。それに応えるのは大変ですが、希望通りのものがつくれた時にはやりがいを感じます」。

次第に口コミで評判が広がり、年々商品開発や加工の依頼の数も種類も増えている。中には小学校からの委託でキュウリジャムを作ったり、地元の農家からの依頼ではトマトのジャムを作ったという。

黒米甘酒が大ヒット

「福福堂」のブレークスルーとなった商品が黒米甘酒だ。和之さんがこだわりの無農薬・無化学肥料栽培で育てたお米を糀にし、加工時に黒米を加えじっくり発酵させて作った甘酒は、砂糖を一切使っていないのに自然な甘みが感じられる。牛乳や豆乳で割るとさらに美味しいと評判だ。食品を対象とした各種のコンテストでも次々と受賞した。「美味しさはそのままに、常温で流通させる方法を1年がかりで編み出しました。苦労した分、評価されて本当に嬉しかったです」。

全国に広がる福福堂ブランド

現在、福福堂の6次化商品は地元の直売所や入浴施設の物販コーナーなど田村市各地で販売されている他、ネットショッピングで県外からも手軽に購入することができる。

また、稲福夫妻は県内外のマルシェや食のイベントがあれば積極的に参加し、消費者に直接福島の農業の素晴らしさやこだわりを伝えている。もし、福福堂の商品を手に取る機会があれば、ぜひその美味しさを味わうとともに、福島の農業に思いを馳せてみてほしい。

※東京電力福島第一原子力発電所事故に伴い、同原発から半径20㎞圏内と、圏外で放射線量が高い区域が設定され、国により立入りなどが制限された。

(2019/2/7取材)

  • 取材・執筆:七海賢司
    撮影:舟田憲一