INTERVIEW

インタビュー

南相馬で英語教師として働くサラさんが見つけた日本の「ふるさと」

サラ・ジョーンズ

出身地:アメリカ合衆国テキサス州
勤務先:南相馬市立鹿島小学校
勤務期間:2012年〜
年齢:34歳

福島県南相馬市の小学校で英語教師として働くサラ・ジョーンズ(Sarah F Jones)さんはアニメ作品をきっかけに日本の文化に興味を持ち、2007年に来日。東日本大震災の後に一時的に母国であるアメリカへ帰国したものの、再び南相馬へ帰ってきた。

そんな彼女は南相馬を「ふるさと」と表現する。テキサス州生まれのサラさんには、日本、そして南相馬という地はどのように写っているのだろうか。

きっかけはジブリ。来日し、福島の四季に魅了された英語教師

好きなアニメは『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』をはじめとするスタジオジブリ作品。「アメリカの子ども向けアニメとは違い、安直なハッピーエンドにならないところに衝撃を受けた」。そう話すのは南相馬市の小学校で英語教師として働くサラさんだ。

2007年に来日したサラさんはアメリカで過ごした大学時代から日本のアニメや映画の鑑賞に没頭していた。また、兄弟で空手を習うなど日本文化には親しんでおり、大学卒業後に日本を訪れることに迷いはなかったという。

当初は勤務場所を選ぶことはできず、たまたま双葉町に派遣された。当然知り合いもおらず、インターネットで福島のことを色々と調べたが英語での情報は少なかった。

そんななかでも、福島で生活をしていて驚いたのは、自然の美しさだ。サラさんの出身地であるテキサスは平地が多く、夏は暑くて冬は雪を見ることもない。そんな場所で育った彼女にとって、福島の四季は新鮮に映った。特に田園風景と雪景色に魅了されたのだという。

来日後、高校で4年間英語教師として働く中で、東日本大震災を経験する。一時的にアメリカに避難したが、一年後の2012年には再び福島に戻ってきた。友人から南相馬市には英語の先生が不足していると聞き、双葉町から南相馬市の小学校に通い現在に至るまで英語を教えている。

手の届く範囲で「正しい」福島を伝えていきたい

震災後、サラさんと同じように外国から来て相双地域で働いていた方の多くは白河市や石川町など中通りに移り、帰国した人も多かった。それでも、サラさんは他の場所で暮らそうと思ったことはないという。

「アメリカの大使館からは原子力発電所の50㎞以内には行かないようにと通達がありました。実際、その頃は外国の方は目に見えて減ってしまいましたね。でも私は震災前はずっと双葉町で暮らしていたし、現地に友達も住んでいた。だから、ここが一番安心して暮らせる場所だったんです」

帰国後、店舗や公共交通機関が復旧するまでは不便があったものの、ほとんど以前と変わらずに過ごすことができた。勤務先の学校もしばらくは仮設校舎で授業を行っていたが、ほどなくして本校舎に戻ることができたという。住民たちの復興に向かっている様子に励まされ、前向きに過ごすこともできた。

こうした生活の様子をSNSで発信すると、アメリカに暮らす知人からは驚かれた。福島の情報に関しては現在もギャップが大きく、国外からでは正確な状況が掴めないのが実情。そのため「人が住んでいない」と思っている人も少なくないという。サラさんは、誤った情報を目にした時、可能な範囲で訂正するようにしているという。

「英語で福島のことを調べると、正しくない情報も多く出回っています。それこそ、福島県と福島市の違いもわかっていないひどいニュースもありますよ。そういった情報を目にすると、今福島に住んでいる立場としてはしっかり伝える責任があるなと感じます」

英語を通じて文化の多様性を伝えたい

サラさんが南相馬で授業を受け持っているのは小学校の全学年の生徒たち。また、幼稚園児のクラスを担当することもあるという。

小学校低学年のクラスではゲームや歌を織り交ぜ、英語に親しみを持ってもらえるよう工夫をしながら授業を行っている。その背景には、文化の違いに目を向けて欲しいとの思いがある。

「なるべく、友だちとの会話や日常生活の様子を伝えられるようにしています。海外の方と画面越しに話すこともあります。言語の上達よりも大事なのは知りたいと思うこと。子どもが英語を話せるようになればもっといろんなことに興味が持てるはずです。英語の授業を通じて、環境問題や日本よりも普及している外国のSDGsのことを学んで、海外に興味を持つ子どもを増やしたいですね 」

「言語と文化はセット」。それがサラさんの授業のモットーだ。言語だけを学んでも文化を知らねば本質的に理解し合うことは難しい。文化の違いを知っていくことは、コミュニケーションに必要なことなのだ。

サラさん自身は日本語学校には通わず独学で日本語を学んできた。日常会話ができるようになったことで更に日本語に興味を持ち、知人に個人レッスンを依頼して更に深く学ぶことにした。日本語を学ぶ中で好きになった言葉は?と聞くと、意外にも「よろしくおねがいします」だという。なぜだろうか。

「英語にはそういった表現がないんです。例えば「よろしくおねがいします」があるだけで表現がすこし柔らかくなります。英語だと要件のみの連絡になってしまう場合でも『よろしくおねがいします』があるだけで受け取る側の気持ちが変わる。いろんな場面で使える、とても優しい言葉です」

南相馬で知った「ふるさと」の意味

日本の文化や言葉に魅了されたサラさんは今年来日14年目を迎える。住む場所はどこでも良いという考えは、福島に暮らし始めてから徐々に変わっていった。あたたかく、居心地の良い南相馬が今は「ふるさと」のように思えるのだと話す。

「南相馬には本当にこの土地を愛している方が多いのだなと感じます。『ふるさと』というものがどんなものなのか今までわかりもしませんでしたが、その意味を、この場所で教えてもらいました。この先もずっと福島で暮らしていくつもりです」

福島県は自然が豊かで、趣味の登山をするにももってこい。そう話す彼女の口ぶりは、福島のことならなんでも知ってると言わんばかりだ。今は新型コロナウイルスの感染拡大により外出が制限されているが、また山に登れる日を心待ちにしている。

(2021/2/10取材)

  • 取材:高橋直貴、宗形悠希
    執筆:高橋直貴