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PLACE|若者でも気軽に。地域から愛される開業150年の鮮魚店「てつ魚店」

ひと足お先に移住した先輩が、「誰かが移住してきたらまず連れて行きたい!」と思う、とっておきの場所をご紹介。今回は、鮮度が自慢の歴史ある鮮魚店「てつ魚店」。

地域の人々に愛されて150年。南相馬市原町区でもっとも歴史ある鮮魚店「てつ魚店」。同店は開業150周年を機に、2019年1月にリニューアルオープンを果たした。

生まれ変わったお店に入ると、まず目に飛び込んでくるのが、中央に位置する作業スペースと、その周囲を囲うように並ぶ大きな水槽。ここでは新鮮な魚を捌く姿を間近に見ることができる。もちろん、買った魚をその場で捌いてもらうことも可能。新たに登場した、新・てつ魚店の名物だ。

変わったのは、店構えだけではない。お店の広さが2倍になると同時に、家族経営だった4名から若いスタッフを含む8名体制へと拡大。20代、30代の若いスタッフが増え、店内が活気づいた。

商品も大幅に増え、見た目にも一層賑やかになった。人気商品のエビフライに加えて、日替わりで具材が変わる大きなかきあげ、握り寿司、巻き寿司は新たな看板メニュー。そして、市場から買い付けたマグロや鮮魚の盛り合わせなどの豊富な刺身類。

「その日入った活きの良い魚を選んで造っている」というだけあって、足を運ぶごとに違った品揃えが楽しい。その他、お惣菜や粕漬け、西京漬けといった自家製の加工品は、周辺の住民はもちろん、遠方からの来客や観光客からもおみやげとして重宝されている。

鮮度の秘密は仕入れにある。毎朝いわきの中央卸売市場から買い付けているため、近隣の地方市場と比べて一日早く仕入れることができ、鮮度を保った状態で魚を提供できるのだという。「他の魚屋にはないような品質と豊富な種類を大事にしている」とは、てつ魚店の若大将・鈴木直樹さんの言葉。鈴木さんは高校卒業後いわきの魚屋での修行を経て、17年前にてつ魚店の先代の娘さんと結婚。魚屋として生きていくことを決めた。

鈴木さんは、リニューアルを行うにあたって「若い人でも入りやすいようなお店づくり」を意識したという。土地を購入するところから設計までを行ったというのだから、お店のすべてがこだわりのポイントと言ってもいいだろう。内装はすべて自分たちで考え、理想のお店が実現できるよう施工業者に詳細にオーダー。店の中央の作業スペースや大型水槽はもちろん特注だ。商品が目に入りやすいよう、店内全体が見渡せ、車椅子でも通れるほどの広い動線が確保されている。

浜通りの宿場町として栄えたこの原町では、スーパーではなく、今も魚屋で魚を買う文化が残っているのだという。

「一匹の魚がどうやって食材になるのか、お客さんにその場で捌いている姿を見て欲しいじゃないですか。みんなが知ってる魚ばっかり提供していても面白くないので、珍しい魚が入ったらお客さんに試食してもらったりもしてますよ」

こうしたサービス精神も繁盛の秘訣なのだろう。その甲斐あって、リニューアル後は若い人の来客も増えた。「綺麗になった」「品数も増えた」と評判も上々だ。近隣住民はもちろん、口コミが広がって、遠方からのお客さんも少なくないという。

「魚種は多種多様、同じ魚でもその顔つきは一匹一匹で違う。活きが良い魚が入ってきたら、こいつで晩酌したら、たまらないなとか想像しながら捌いてます」

鈴木さんの話を聞いていると、遠方からわざわざ足を運ぶお客さんがいるのも納得。この言葉からもわかるように、てつ魚店は「生粋の魚好きが営む魚屋」だ。地域の人に愛され150年。鈴木さんは将来てつ魚店の後継として店ののれんを守っていくという。200年、300年後もこの場所にあって欲しい。そう思わせるような名店がここにはあった。お近くの方も、魚好きの方も、そうでない方も、ぜひ足を運んでみて欲しい。

(2019/12/10取材)

  • 取材・執筆:高橋直貴
    撮影:小林茂太
  • てつ魚店
    〒975-0004
    福島県南相馬市原町区旭町1-53