INTERVIEW
インタビュー
移住という人生の大きな決断をサポートする「福が満開、福しま暮らし情報センター」
新妻稚子さん
佐藤晋さん
認定NPO法人「ふるさと回帰支援センター」は、全国45道府県の地域情報が揃う移住相談センター。東京都・有楽町駅前の東京交通会館には常設の窓口が設置され、センター内では、各道府県の移住相談員に直接問い合わせをすることができる。また、それぞれが各道府県の自治体と連携しているため、全国のローカル情報がリアルタイムに得られるのが特徴だ。
今回お話を伺ったのは福島県の窓口である「福が満開、福しま暮らし情報センター」にてサポート業務を行う相談員の新妻稚子(にいつま・わかこ)さんと佐藤晋(さとう・すすむ)さん。お二人の役割と、最近の移住動向について話を聞いた。
20〜40代の移住相談者は右肩上がりで増加中
ー「福が満開、福しま暮らし情報センター」ではどのような支援を受けることができるのでしょうか?
佐藤さん:基本的には現地の情報の提供が支援の中心になります。相談者様からは、住まいや移住先での子育て環境に関するお問い合わせをいただくことが特に多いですね。
福島県内でも市町村によって支援制度が異なりますので、相談者様の描く移住後の生活イメージに合わせてヒアリングを行い、現地の情報をお渡ししています。やはりローカルな情報となりますとインターネットには掲載されていないことも多いんですね。そのため、こちらから情報を提供するほか、現地の移住コーディネーターや市町村の移住担当職員を紹介したり、窓口でオンラインでお話を伺えるようにサポートを行っています。
ー 窓口へお越しになる方の中で、世代や相談内容などの傾向はありますか?
新妻さん:実家がある、親族が県内にいるなど福島と地縁のある方が多いですね。いつかは福島に帰りたいと考えていた方や、福島に魅力を感じていなかったような方が東日本大震災などをきっかけに地元での暮らしに目を向け始めたケースも少なくないです。最近では比較的若い世代の方がお越しになることも増えてきています。
また、今年は新型コロナウイルスの影響を受けてワークライフバランスを見直した結果として移住を検討し始めた方も多いですね。震災前は団塊の世代が多く、いわゆる「リタイア後の田舎暮らし」を求めている方が多かったんですよ。
福島県はふるさと回帰支援センターが発表している「移住希望地ランキング」で1位に上るほど人気だったのですが、震災後は大きく順位を落としてしまいました。それでもここ数年は徐々に相談件数が増え、2018年からは窓口の人員を増やすほど多くのお問い合わせをいただいています。働き手の世代に興味を持ってもらえることは嬉しいですね。
佐藤さん:仕事重視で住む場所を決める傾向が高まっているようにも感じますね。私の世代は東京に出て、東京で働いて稼ぐ、ということが当たり前の価値観でしたが、今の世代はもっと多様な選択肢があるのだと、若い方々と話していると感じます。
移住前に時間をかけて生活をイメージすること
ー 移住を検討する際は何から取り組むのが良いのでしょうか。窓口に来る前にやっておくべきことなどはありますか?
新妻さん:これは皆様にお伝えしているのですが、移住後の生活のイメージを描くことですね。現在の生活をどのように変化させ、移住した先でどんな生活を送りたいのか。窓口ではそうした相談者様の価値観を確かめるところからお話させていただいています。理想に近づくことができないのならば、そもそも移住をしてもミスマッチになってしまいますから。その上で、窓口にお越し頂ければ、イメージする生活が実現できそうな地域を一緒に探していくことをお手伝いできます。また、物件情報を紹介することはできないのですが、住まいの探し方や空き家バンクを持っている市町村などをご案内できます。
ー 移住相談でよくある失敗、それらを防ぐためにすべきことはありますか?
佐藤さん:やはりイメージができていないままですとミスマッチになりますので、気になっている地域と関わりを深めたり、もっと地域のことを知る時間を持つことでしょうか。各市町村のウェブサイトの情報を見て、比較するだけでも、地域の「色」がわかってくると思います。最近はインターネットで情報が得られることから、自分の情報だけで移住を決め、すぐに実行してしまう傾向にあります。しかし「理想と違った」なんてことにならないよう、各地域の方とコミュニケーションを取りながら、ある程度時間をかけて検討することをおすすめしています。
福が満開、福しま暮らし情報センターでは福島県全域の移住支援を行っており、イベントも盛んに行われている。
ー お二人はどういった経緯でふるさと回帰支援センターで働くことになったのでしょう?
新妻さん:私は福島県富岡町出身で大学進学のために上京し、卒業後もそのまま都内で働いていました。教育関係の広告会社に勤務し、高校生を対象とした進路ガイダンスを企画運営する仕事に没頭する。震災が起きたのは、そんな仕事中心の生活を送っている時でした。地元の富岡町が大変な状況で、家族もそれまでとは異なる環境下での生活を強いられているなか、私だけがそこに留まっている状況に後ろめたさのようなものを感じていました。通勤していても普段と変わらない満員電車に違和感を感じたり、イヤホンから流れる音楽が耳にうまく入って来なかったりしてしまって。その後、転職を経ながらも福島に貢献したいなという思いを持っていました。そして、2018年にご縁があって、福が満開、福しま暮らし情報センターに就職をしました。
これまでも教育や不動産といった人生の大きな決断に関わる仕事に就いてきましたので、人の間に立って、そうしたサポートを行っていくことにやりがいを感じています。
佐藤さん:私は長年百貨店で働いてきましたが、会社を退職する直前は「コンシェルジュ」といって店内や館内だけでなく、まちを含めた近隣地域を案内するサービスを行っていたんです。コンシェルジュの仕事は困っている お客様の真のニーズを見つけ出し、お客様と一緒になって解決策を見つけ出すという仕事でした。それが自分にあっていたんですね。
それで、この仕事の求人を見た時に興味を持ってすぐに応募しました。福島には59市町村があり、それぞれに良いところがある。それを移住者の方に伝えるというのは、これまでの経験を生かした働きができるんじゃないかと思っています。
ー それでは最後の質問になりますが、ずばり、福島県の魅力とは何でしょうか。
佐藤さん:やはり「人」でしょうか。福島の実家には両親が住んでいるのですが、隣の方が買い物や通院に連れて行ってくれたりと気にかけてくださる。そういう距離感と、人の温かさはやはり田舎の良さですよね。
新妻さん:打ち解けるまでには時間がかかるような奥ゆかしさがありますが、一度打ち解けたら、長く付き合っていける心根の熱さがありますよね。県民性といってもいいと思うぐらいみなさんに当てはまると思います。
佐藤さん:そうですね。もう一つは自然が豊富なことでしょうか。山も海もあれば、雪が降る所もある。そうした選択肢が多いのが、暮らす場所としての魅力です。先日は初めて桧枝岐村を訪れて山に登ったのですが、別荘地のような素敵な場所でした。また、県内には温泉も回りきれないほどたくさん湧いています。ぜひ、お越しになってみてください。
(2020/10/14取材)
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取材:高橋直貴、宗形悠希
執筆:高橋直貴
写真撮影:高橋直貴 -
ふるさと回帰支援センター
https://www.furusatokaiki.net/about/
福が満開、福しま暮らし情報センター
https://www.facebook.com/fukushima.furusato
福島県移住ポータルサイト「ふくしまぐらし。」
http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/fui/#wide/1