INTERVIEW

インタビュー

NPOで福島の復興に携わる、自然体でのまちづくり

鈴木亮さん

年齢:46歳 
出身地:神奈川県鎌倉市
勤務先:一般社団法人ふたすけ、(任意団体) 東日本大震災支援全国ネットワーク(JCN) 
勤務地:富岡町  
勤務期間:2012年~

鎌倉で生まれ育ち、大学時代にはニュージーランドへの留学経験もあるという鈴木亮(すずき・りょう)さん。東日本大震災支援全国ネットワーク(JCN)※1の活動で2012年に福島市に移り、2016年には南相馬市小高区、2017年には富岡町へと拠点を移した。移住者でありながら、常に福島の復興の最前線に身を置く鈴木さんにお話を伺った。

NPO活動がきっかけで福島へ

「NPO活動」。鈴木さんの移住生活を紹介するのに欠かせないキーワードだ。小学生の頃から環境問題に関心を持ち、大学時代は当時の環境先進国であるニュージーランドに留学。卒業後は環境関連のNPOに20年間携わり、有機農業に関わる仕事をしていた。福島との縁は以前から深く、2009年の福島県有機農業ネットワーク設立にもかかわった。

「福島は全国的にも有機農業が盛んな県でした。震災の影響で農業は大きな打撃を受けましたが、僕が特に関わっていた二本松市の東和地区は土壌の放射能が恐れていたよりも検出されず、諦めるにはまだ早い状況でした」。

同時に、東日本大震災支援ネットワーク(JCN)に参加した。当時は東京で勤務していたため、東京にいながらでもできるSNSの団体アカウントの運用を手伝ったという。2012年JCNの福島担当となったことで福島県に移ることに。本格的に復興に関わることになる。

「10年は取り組む必要があると思って移住して来ました」。

地元へのリスペクトを忘れない

環境NPO・有機農業・JCN。3つのピースが揃い、環境、農業、原子力災害など多角的な形で鈴木さんの復興支援もスタートした。政府が定めた震災から5年間の集中復興期間は過ぎたが、相双地域の復興はようやく部分的に始まったばかりだった。

「富岡町に来たのは一部避難指示※2解除となった2017年の4月のことです。その頃、双葉郡には復興の中間支援も地域の中間支援もありませんでした。長年NPO活動でやってきたことを活かせないかと考えました。」。鈴木さんが取り組んだのは、個々に活動していた復興に取り組む民間団体の橋渡しを行うことと、復興の専門家と環境NPOや有機農業団体など立場の異なる人をつなぐことだった。

そんな鈴木さんが復興に携わる中で大切にしているのが地元の人へのリスペクトだという。

「たとえば、畑や田んぼの放射能の測定を行う際にも、農家さんとは放射能の話ではなく、その土地の伝統の文化や食べ物の話題を共通言語として向き合うようにしています。また、双葉郡での活動を本格的にするにあたり車の免許も取得しました」。地元の人の生活や文化を尊重しながら自らのライフスタイルを柔軟に変えられるのが、充実した移住生活のコツなのかもしれない。環境NPOに長く関わっていたことから、今では放射能に詳しい人材として地元の方からも頼ってもらえる機会も増えてきている。

移住生活を続けるために必要なお金のこと

実は今の鈴木さんの活動拠点は富岡町だけではない。東京や生まれ故郷の鎌倉、そして富岡町の3箇所を飛び回りながら忙しい毎日を送っている。
とはいえ、NPO活動で生活をしていくことは収入面の厳しさがあるのでは?気になる疑問を率直にぶつけてみた。
「NPO法人向けの助成金の中から、ある程度のお金は出ています。退職金も老後の保障もないのはNPO共通の課題ですが、生活する分には十分ですし、自由もあります。何よりいつでも人材不足ですから、人材でありさえすれば、やりがいある仕事を選ぶ事ができると思っています。」

この質問の最後に「移住者のお金の話はオープンに議論してほしいです」こう付け加えた鈴木さん。「住むところ、仕事、コミュニティがないと続きません」。思いだけでは続けられない現実をしっかり見据えているからこそ、鈴木さんはとても自然体に見えるのかもしれない。

頼れるスズメが町には必要

「相双地域の中にもネットワークはできてきています。交流人口の拡大だって、住民参加型のまちづくりだって地域の連携をしながらみんなで声を上げていけば、2021年からの「次の10年」にはきっと変わるはずです」。

今後をポジティブに見据える鈴木さんは、これまでの福島での生活を振り返ってこう話す。
「震災後の福島は課題があまりにも多すぎた分、出会いも本当に多くありました。時間を経れば一生の友になりうるような人と、それこそ毎月のように出会うのですが、悲しいかな、悩みが深すぎて余裕が全くない状態がずっと続いています。でも悩みがあるのは嫌ですが、悩まないのはもっと嫌。悩みあってこそ哲学が問われるのだと思います。」。

そう言ってのける鈴木さんの言葉は、自然体でちゃんと芯がある。鈴木さんのフェイスブックには約3,500名もの友達がいるそうだ。多くは震災後の活動の中で知り合った人たちだという。
座右の銘は『平々凡々』、自分のことをどこにでもいる平凡なスズメだという鈴木さん。だが、群れを引っ張るリーダーシップとみんなの気持ちを汲める協調性のある頼もしいスズメだと感じた。

※1 東日本大震災の被災者支援、復興支援活動や東京電力福島第一原子力発電所の避難者支援活動を行う、全国の組織・団体の民間ネットワーク。

※2東京電力福島第一原子力発電所事故に伴い、同原発から半径20㎞圏内と、圏外で放射線量が高い区域が設定され、国により立入りなどが制限された。

(2019/2/5取材)

  • 取材・執筆:七海賢司
    撮影:舟田憲一