INTERVIEW

インタビュー

食で人と人をつなぐ。楢葉町で飲食店経営に挑戦!

古谷かおりさん

年齢:34歳 
出身地:千葉県
勤務先:木戸の小料理 結(ゆい)のはじまり 
勤務地:楢葉町 
勤務期間:2017年~

楢葉町Jヴィレッジのすぐ近くに2017年9月にオープンした小料理屋「結のはじまり」。明るい笑顔で店を切り盛りするのが、東京から移住してきた古谷かおり(ふるや・かおり)さんだ。前職は建築業に携わっていた中、なぜ楢葉町で飲食店を始めることになったのか、お話を伺った。

必要とされる場所を求めて福島へ

「以前は東京で建築の図面を描く仕事をしていましたが、なかなか自分が思うような仕事ができず、モヤモヤした思いを抱えていました」。

当時、東京で暮らしながら、こうした気持ちを抱えていた古谷さん。福島に移住した理由は何だったのだろう?

「被災地に行けば私でも何か必要としてもらえるのではないかと思ったんです。福島を選んだのは、東京から一番近い被災地だったから。初めは絶対に福島というこだわりはありませんでした」。

そんな古谷さんの大きな転機となったのが『ふくしま復興塾』に参加したことだった。

「2014年に民泊で泊めて頂いた方に紹介されたのが縁で。福島のことを知りたいのなら入ってみればと誘ってもらったんです。復興に対して、志の高い人とも知り合うことができ、福島への想いがどんどん強くなりました」。

2016年には郡山の建築会社での就職が決まり、郡山に移ってきた古谷さんだった。

ふくしま復興塾で生まれた楢葉町との縁

『ふくしま復興塾』は、福島復興の未来を担う人材育成を目的に立ち上げられたプロジェクト。福島のことを知るきっかけになればと、知人の勧めで参加を決めたという古谷さん。

「ここでの活動を通して、福島には志の高い人同士のネットワークがあると感じました。福島ならではの人間関係の輪が、いい形で広がっていったと思います。楢葉町との縁もふくしま復興塾の同期の仲間が古民家を活用して、コミュニケーションの場所づくりを始めたところにあります。古民家の修繕やイベントの企画などを手伝ううちに、毎週末のように楢葉町に行くようになりました。飲食店に興味を持ち始めたのもその頃です。その後、お店をするのにちょうどいい物件が見つかったこともあり、郡山の建築会社を辞めてこちらで働くことを決意しました」。

人と人とをつなぐ交流の場

楢葉町に居場所ができた古谷さんが飲食業という仕事を選んだ理由とは?

「移住した当初は建築を通して人のコミュニティを作りたいと考えていましたが、家を建て直すか建て直さないかの前に、誰が帰ってきて誰が帰ってこないのかも分からない状況。地域のコミュニティが分断されていたので、もっとソフト面で人をつなぐ方法はないかと模索しました。また、県外から来ていた労働者の方たちと町民の間にあった意識のズレも、両者が交流できる場がないところが原因だと思いました。こうした課題と直面していくうちに、直接顔を合わせて会話ができる飲食店を作れないかと考えるようになりました」。

後押しとなった様々な支援

とはいえ、まったく経営経験がない中でお店を始めることに不安はなかったのだろうか?

「お店を始めるときに大きな後押しになったのが、女性起業家に向けて民間企業が行っていた支援金の制度(※)でした。また、他にも低金利で受けられる融資の紹介も受けました。経営のノウハウなどまったくない中で仕事を始めたので、改めて勉強しなければと思っています。」

それでも、人と人を繋げたいという古谷さんの想いは徐々に実を結んでいる。

「県外から来ている労働者の方たちが地元の人たちと一緒に会話を楽しんでいる姿を見ると、少しずつではありますが両者の交流もできてきたのかなと感じますね。最初に楢葉町に来たときはこの町の力になりたいという想いだけで精一杯。将来、どこに暮らすかなんて考えることはありませんでした。でも、今は何となくではありますが、この先もずっと自分は楢葉にいるだろうなって思うんです。それだけたくさんの人にお世話になったし助けてもらいましたから。そのためにも県外から来た労働者の方たちと地元町民の方たちだけでなく、もっといろいろな立場の人をつなげる場を作っていきたいと思っています」。

その筆頭がこの町に今足りていない若い世代の人たちだという。

「ボランティアに参加した大学生や被災地を回るツアーで楢葉町に来た若い人たちの中にも、お店に足を運んでくれる人がいるんです。少しでも滞在時間を長くしてもらって、楢葉町に興味を持ってもらえるようアピールしています」。

人との出会いとつながりから現在の仕事にたどり着いた古谷さん。その背景には必要とされる場所で働きたいという熱意とそれを行動に移す実行力があった。今後は古谷さんを慕って新しい人の輪が広がっていくのが楽しみだ。

(2019/1/15 取材)