INTERVIEW

インタビュー

人気カフェを経て浪江町へ。「正解のない仕事」にチャレンジ

引地裕子さん

年齢:45歳 
出身地:相馬市
勤務先:一般社団法人まちづくりなみえ 
勤務地:浪江町 
勤務期間:2018年6月~

「一度の人生、後悔したくない」という想いから18年勤めた会社を辞め、大好きな地元・福島に戻った引地裕子さん(ひきち・ゆうこ)さん。長く続けてきたライフスタイルを大きく変え、浪江町でコミュニティ再生に励んでいる。そんな引地さんの前職から現在の仕事に至るまでを聞いた。

故郷のために活動したいという想い

前職のスターバックス コーヒー ジャパンには18年勤務し、震災時は仙台のスターバックスでストアマネージャーを担当していたという引地さん。震災が起き、故郷である福島への想いが強くなったという。

「スターバックスでは、コーヒーの販売だけでなく、コーヒーを通して地域とつながる活動をしていました。震災後は仮設住宅を訪れて、コーヒーの会をセッティングしたんです。ただ、宮城や岩手での活動がメインだったので、大好きな地元でも何かしたいと思うようになりました」。

肌で感じた浪江町の魅力

そんな想いを抱きながら仕事を続ける中、2017年9月に、地方から日本の未来をつくる社会実験プロジェクト・東北オープンアカデミーへ参加することに。二泊三日で浪江町をフィールドワークする中で、浪江町の魅力を知ることになる。

「とにかく浪江の人たちがすごく熱いところに惹かれました。浪江を残していきたいから帰って来たとおっしゃる方や、町を愛する気持ちを発信し続けている行政区長さんの想いですね。そういう人たちの存在や想いが、まちづくりの一歩なんだなと感じました」。

ある町民の方のこんな言葉が印象に残っているという。

「『理屈抜きで浪江が好き』とおっしゃった方がいて。『はい』としか言いようがなかった(笑)。私も海側で育って、『海のどんなところが好き?』と聞かれても理由はわからない。理屈抜きって感覚は強いですよね」。

まちづくりなみえでの模索の日々

だが、18年勤めた会社を実際に辞めて浪江町に行くまでには大きな葛藤があったという。

「悩みすぎました!スターバックスも大好きで、定年まで働こうと考えていたので、2つ人生があったらいいのに、と思いました。でも定年になって、その先の人生を考えた時に、大好きな地元のために何もしていなかったら後悔すると思って決断しました」。

2018年6月から一般社団法人まちづくりなみえで働くことに。まちづくりなみえも立ち上がって間もないこともあり、探りさぐりの日々を送っているそうだ。

「町内のコミュニティを再生するというのが主な仕事。49ある行政区の区長さんにお話を聞きつつ、毎日町民さんのお宅を訪問しています。お茶と漬物が出てきて、世間話をするなんてこともよくあります。地域づくりの土台はここから始まるんだなと実感しますね。どんどん話しかけていけるのは、スターバックスでの接客経験も生きています」。

2018年のお盆には、お墓参りに来た人たちのために、憩いの場をつくった。

「町民さんと話すなかで、避難している人が町に戻る機会のひとつがお墓参りなんだと伺いました。でも、お参りをして帰るだけだというので、そこでゆっくりお茶でも飲みながら話せる場があったらいいかなと思い、お墓参りの憩いの場を2か所作りました。寄っていかれる方がたくさんいらっしゃって『久しぶり!』という会話を引き出せたのはよかった。笑顔を見られた瞬間が一番うれしいですね」。

浪江町への想い

充実した日々を送る引地さんだが、浪江町に引っ越してきて感じたことはどんなことなのだろうか?

「移住というよりも戻ってきた、という感覚があります。浪江町にも通っている国道6号線が懐かしい感じで大好きなんですよね。あとは、海と山があって、それを見ると幸せだなと感じます。それに浪江町に住んでいると、ここにいるだけでも何か役割があるような気がしてうれしいんです」。

今後、浪江町をどんな町にしていきたいか、そして、仕事をするうえで大切にしていることを聞いてみた。

「まだ半年しか住んでいないのでおこがましいのですが、帰って来た方には『戻ってよかった』と思ってもらいたい。『ただいま』と笑って言ってほしい。活動する時に立ち返るのはこの気持ちですね。どうすればそんな町にしていけるかは、まだまだ模索中です」。

最後に移住や転職を考える方々に、自身の実感とともにこんなことを話してくれた。

「こっちに来て最初の3か月くらいは脳みそがパンクしそうになりました(笑)。でも、このくらいの歳になって、もっともっと勉強したいと思えることが楽しくなってしまいました!町が整いはじめてからではなく、スタートの段階から参加できたのがよかったです。この仕事は正解がないので、いつからでもできるものだと思います」。

町民の方々と毎日交流し、浪江町を明るくする引地さんの笑顔がとても印象的だ。一度しかない人生、いつでも新しいことにチャレンジできると教えてくれた。

(2018/12/10 取材)

  • 取材・執筆:石川ひろみ
    撮影:小林茂太
  • 東北オープンアカデミー
    詳細ページ:https://open-academy.jp/