INTERVIEW

インタビュー

生きやすさを追い求めて流れ着いた。小高区を拠点に活動する新卒パラレルワーカーの働き方

内藤千裕

出身地:新潟県燕市(旧吉田町)
勤務先:株式会社アスノオト
勤務期間:2019年4月~
年齢:24歳

株式会社アスノオトにて、さとのば大学の企画・広報担当として働きながらフリーランスとしても活動する内藤千裕(ないとう・ちひろ)さん。彼女は現在さとのば大学の連携地域のひとつである南相馬市小高区を中心に、複数拠点を行き来する生活を送っている。「新卒パラレルワーカー」というユニークなキャリアを歩んでいる彼女の話には、自分を大事にする「無理しない働き方」のヒントが詰まっていた。

多拠点居住もパラレルワークも「いいとこどり」な生き方

住む場所も、働く場所も多様化する時代。だったら、ひとつの場所に依存しないやり方もある。内藤さんは現在、南相馬市小高区に拠点をおくパラレルワーカーだ。昨年5月までは東京に住んでいたが「パソコンさえあればどこでも働ける」と、企画・広報を務めるさとのば大学の拠点の一つ、小高区に拠点を移した。

小高区では社会人・学生合わせて5人でシェアハウス暮らしをしており、実家がある新潟、パートナーの住む熊本、2020年5月まで拠点を置いていた東京を行き来する生活を送っているという。どんな魅力的な場所であっても、1つの地域で全てが満たされるわけではない。ならば「いいとこどり」で暮らせばいい、ということだ。

「住み始めてまだ1年経っていないのですが、小高は『帰る場所』になりました。小さいコミュニティなので外を歩いていれば知り合いに会いますし、地域の人にも恵まれてすごく居心地が良いです。ゆっくりしたい時は実家のある新潟に帰れば良いし、刺激が欲しければ東京に行けばいい。そうやって自分の求める要素を掛け合わせながら暮らしています」

「自分にあった会社」ではなく「自分にあった働き方」を探す

仕事に対する考え方も同様に柔軟だ。新卒でパラレルワーカーとして働き始めたのも、自分の理想にぴったりと合う会社を探すのではなく、自分にフィットする働き方を模索した結果だった。

内藤さんが大学生だった頃、過労死やパワーハラスメントといった労働環境の問題がメディアを賑わせており、働くことに対してポジティブなイメージが持てなかったという。そんな中で出会ったのが株式会社アスノオトとNPO法人グリーンズだった。事業内容はもちろん、気持ちよく働ける環境を大事にする会社の方針に共感した。両社とも新卒採用は行っていなかったため、インターンとして入社。それぞれ週に数日ずつ出社する形で働き始めた。

「去年は3日はアスノオト、週に2日はグリーンズで働いていました。自分が就職したいと思う企業が正社員を求めていなかったからって、やりたいことを諦めるのは嫌だったんです。企業にも、企業の事情やタイミングがあります。やりたいこと、収入、環境、1つの会社に全てを求めるのは難しいし、それはこちらの都合ですよね。ならば自分の思うバランスを自分でつくればいい。その方が幸せだよなって思ったんです」

現在は、さとのば大学の企画・広報、としての業務がメインだ。その他、小高で活動しているデザイナーの方の手伝いながらデザインを学んだり、個人の仕事をつくる準備をしたりしている。働く上で心がけているのは「やりたいことをやる」、そして「自分を大切にすること」。内藤さんは生理痛が重いこともあり生理予定日はGoogleカレンダーで共有し、冬の時期に気持ちが落ち込みやすいことなど、心身の状態を一緒に働く人にあらかじめ知らせているのだという。

「自分を大事にしないと仕事にも無理が生じてしまいます。グリーンズ、アスノオト、両社の代表がそうした部分を理解してくれていたのでありがたかったですし、働きやすかったですね。また、以前ある上司が『寂しがり屋もスキルだ』って言ってくれたことが心に残っていて。確かに、私は寂しいとすぐ人に連絡をしてしまうけれど、それによってひとが集まる機会になったりするので、その性格はコミュニティづくりの仕事にも合っているのかもって思えたんです。視点を変えることで自分の弱みが強みにもなることがある。そう思えると、気持ちが少し軽くなりますよね」

多様な教育の場をつくり、楽に生きれる人を増やしたい

複数の拠点で、複数のプロジェクトに関わりながらキャリアを広げている内藤さんだが、大学時代からずっと興味を持ち続けているのが教育の分野だ。日本の画一的な学校教育では、子どもたちは義務感から学校に通うようになってしまい、本来もっと楽しいものであるはずの「学び」を敬遠してしまうのではないか。そんな危機感がある。

今後は教育の事業に関わりながら「楽に生きられる人を増やしていきたい」と語る内藤さん。学校はあくまで1つの選択肢にすぎない。多様な学びの場をつくることで、今の学校に適応できずに苦しむひとが減ったり、より自分らしく学び、生きていける人が増えたら。彼女がさとのば大学で働いているのも、そうしたモチベーションが源泉になっている。

「昨年、わたしが運営しているさとのば大学の地域留学で、南相馬に早稲田大学の1年生が2人移住してきたんです。コロナによって授業が全てオンラインになったため、遠隔で大学の授業を受けながら南相馬ではじめてのキャンパスライフを送っているんです。その他にもNext Commons Lab南相馬の起業家さんの手伝いをしたり、動画を製作してYouTubeで配信したりとアクティブに活動しています。コロナ禍の東京で家でひきこもるよりも健全ですし、同世代だけでなく、面白い活動をしている大人と触れ合えるのも贅沢な経験ですよね。さとのば大学の関わる地域がそうした学生の受け皿になれたらと思っています。

ただ、移住はあくまで一つの選択肢です。そうじゃないやり方ももちろんあります。私自身、今後生活の仕方は変わるかもしれませんし、別の拠点に移るかもしれません。いろんなことを実践しながら、楽に生きれる人を増やしていければと思っています」

内藤さんや、南相馬に移住した大学生のように、地方に可能性を感じてアクションを起こす人もいる。一方で、いま自分のいる場所を生きやすい、働きやすい環境にしていくという選択肢もある。どんな選択をするにしても、自分の心に正直でいることが、心地よい暮らしに繋がっていくはずだ。

(2020/12/16取材)