INTERVIEW

インタビュー

予測不能の未来を楽しむ。南相馬市小高区で始めたゼロからのチャレンジ

和田智行さん

年齢:41歳 
出身地:福島県南相馬市
勤務先:小高ワーカーズベース 
勤務地:南相馬 
勤務期間:2014年5月~

南相馬市小高区で小高ワーカーズベースの代表を務める和田智行さんは、小高区出身のUターン移住者。震災後、小高区でゼロから事業を立ち上げ躍進している。次々に前例のないビジネスを成功させる、起業家・和田さんにお話を聞いた。

故郷にUターンし、東京の仕事をこなすワークスタイル

「大学入学を機に上京し、卒業後はITベンチャーに就職。2005年、東京で友人と会社を立ち上げたと同時にUターンし、東京で得た仕事を小高区の自宅でしていました。上京する前からいずれは故郷へ帰りたいと思っていたので、東京で仕事を選ぶときもUターン後に食べていけそうなIT系の仕事につきました」

避難指示区域にコワーキングスペースをオープン

震災後、南相馬市小高区は避難指示区域(※)に指定された。その後、地域に足を踏み入れられるようになったものの、帰還を考えている住民は少ないと状況だったという。
「2014年5月、小高区に帰還する、または帰還を検討している住民を支えるビジネスの創出を目指して、株式会社小高ワーカーズベースを立ち上げました。まず最初に始めたのは、コワーキングスペースの運営。当時、復興支援に興味のある企業や大学などの視察のアテンドを行っていたのですが、やってもやっても何も生まれない状況が続いていました。物理的に腰を落ち着かせる場所がないからでは?と考え、拠点を作ることにしたのです」。

※東京電力福島第一原子力発電所事故に伴い、国が避難を指示した区域。同原発から半径20㎞圏内と、圏外で放射線量が高い区域が設定され、立入りなどが制限された。南相馬市小高区は、2016年7月に指示が解除された。

常識的な環境ではないからこそ生まれる可能性

その後も和田さんは、小高区で次々に事業を立ち上げる。飲食店やスーパーなどの再開目処が立っていない頃、多くの住民、現場で働く人達のために食堂・おだかのひるごはんや、仮設スーパー・東町エンガワ商店をオープンさせた。また、若い人にとって魅力的な仕事を作るため、ガラス工房・HARIOランプワークファクトリー小高を開き、ガラスアクセサリーの生産、販売をしている。
「ここは人間が生きて行くうえで、本質的な課題がたくさんあります。一つ一つは大きなビジネスにならないですが、100個積み上げれば十分ビジネスができるエリアだと考えています。常識的な環境ではないので、非常識なことをやっていくしかないんですよね。でも、それを続けることによって、過不足ない世界とはまったく別のものが生まれるんじゃないかなと。それがここの可能性だと思っています」。

予測不能の事態が起こっても臨機応変に楽しむ

ここに移住してくるには、どんな人が向いているのだろうか?

「地域の課題と対峙し、それにやりがいを感じる人。そしてビジネス的な感覚がある人じゃないでしょうか。一緒にビジネスをやっていただける人には、起業家の募集を行っているNextCommonsLab南相馬(※)のコンセプトである『予測不能な未来を楽しもう』に共感してもらいたい。新しいことを始める時、誰もが結果を逆算して考えると思いますが、いつ何があるかわからない。前提が崩れた時に、臨機応変に楽しめる人がここでチャレンジするのに適しているのかなと思いますね。どんな環境でも価値を見出せるようになったら、環境変化の激しい世界で安心して生きられるんじゃないでしょうか。」

※地域リソースに対する事業創出などを目的とし立ち上げられた団体。地域リソースの発掘と可視化、セクターを超えたパートナーシップ、起業家の誘致や育成、地域での拠点整備など、さまざまな施策に取り組んでいる。

来る2018年12月に、小高ワーカーズスペースは拠点を移しその面積を拡大するという。新たにゲストハウスの機能も設けるそうだ。さらにその先はまた形を変えてシェアオフィスとして機能するかもしれないと話す。環境の変化に合わせて臨機応変に形を変える、和田さんらしい設計だ。小高区が一体どんな町になっていくのか、今後も“予測不能”な活躍から目が離せない。

(2018/7/4 取材)

  • 取材・執筆:石川ひろみ
    撮影:出川光
  • 株式会社小高ワーカーズベース
    住所:福島県南相馬市小高区東町1-37
    詳細ページ:https://owb.jp/