INTERVIEW
インタビュー
「ホップジャパン」が目指す、持続可能な社会づくり。 クラフトビールを軸につくる“循環型テーマパーク”とは
福島県田村市都路町。阿武隈山系のほぼ中央に位置する自然豊かな町に、クラフトビール醸造所「ホップガーデンブルワリー」があります。
運営しているのは「株式会社ホップジャパン」。ここでは、自社栽培のホップを使ってクラフトビールを醸造しているほか、施設内にあるキャンプ場やスポーツ広場の企画運営、季節ごとのイベントを開催しています。
代表の本間誠さんは「クラフトビールを軸に持続可能な社会づくりを目指し、この場所を“循環型テーマパーク”にしたい」と話します。いったい、どのような構想なのでしょう。前回、HOOKで本間さんを取材をしたのは4年前。ブルワリー完成前のことで、建物はまだ内装工事中でした。現在、ホップジャパンのクラフトビールは、県内でその名を知らない人はいないというほど多くのファンを獲得しています。
ですが、本間さんはビールの醸造だけにとどまらず、その先を見据えています。持続可能な社会づくりに向けた想いとホップジャパンが目指す未来について伺いました。
前回の記事はこちら
https://fukushima-hook.jp/interview_honma/
株式会社ホップジャパン
多くの人を笑顔にするクラフトビール
「<人・もの・こと>をつなぎ、人々を笑顔にする」を理念にかかげる「株式会社ホップジャパン」は、代表の本間誠さんがゼロから作り上げてきた会社です。
本間さんは会社員時代に休職制度を利用しアメリカへ留学。そこで出会った個性豊かなクラフトビールと自由なライフスタイルに魅せられ、脱サラして2015年に同社を起業しました。
休眠状態となっていた田村市運営のキャンプ場「グリーンパーク都路」を一部改修し、2020年にクラフトビール醸造所「ホップガーデンブルワリー」を開設。キャンプ場の管理・運営も同社が引き受け、年間数十組程度の利用しかなかった場所は今、作りたてのクラフトビールを楽しめるキャンプ場として、週末には予約でいっぱいになるほどの人気ぶりです。
また、2023年4月には、いわき駅直結の商業施設「エスパルいわき」に直営1号店「ホップジャパンTapRoomいわき」がオープン。工場直送の新鮮なクラフトビールを気軽に味わえるとあって、市内の人はもちろん、出張で訪れたビジネスマンなど多くの人を魅了しています。
クラフトビールで人々を笑顔にしているホップジャパンですが、本間さんが創業当時から想い続けているのが、ビールを軸にして持続可能な社会をつくること。その原点はどこにあるのでしょう。
危機感を抱いた少年時代
山形県天童市で生まれ育った本間さん。幼い頃、家では井戸水を使って生活をしていた為、水のありがたさを身にしみて感じていたそうです。
「井戸で水汲みをするのが、僕の仕事だったんです。だから、温泉なんかに行って大人がジャーっと勢いよく水を出しっぱなしにして無駄に使っているのを見ると許せなくて。子どもながらに片っ端から止めてやりたいという衝動に駆られました(笑)でもね、水を大切にすることは、自然を想うことにつながると思うのです」
子ども時代に感じた違和感は、それだけではありません。
「親戚宅では鶏舎に鶏を入れたまま、卵を産ませるためだけに飼っていました。大地を一度も駆け回ることなく一生を終える鶏の姿を見て、子どもながらにすごくショックを受けてしまったんです」
人間の生活のために生き物を粗末に扱っていいのだろうか……。社会のあり方自体に疑問を持つようになった本間少年は「このままでは、地球がおかしくなってしまう」と、未来に危機感を抱くようになったといいます。
本間さんは電力会社に就職し、環境保全とエネルギーの共存について小学校で出前講座をするなど、エネルギー問題に取り組むようになりました。そんな最中に起きたのが東日本大震災です。
描く未来は、持続可能な循環型社会
震災によって価値観を大きく揺さぶられた本間さんは脱サラし、ホップジャパンを立ち上げました。創業から8年。クラフトビール醸造が軌道に乗った今、本間さんの次なる挑戦は、1次産業から6次産業化をつなげ、地域内で循環を生み出す仕組みをつくることだといいます。
「このサイクルを地域内で展開することで、大量生産・大量廃棄ではない本当のものづくりを目指し、<人・もの・こと>を循環させていきたいんです」
ホップジャパンでは「0次化」にも力を入れていて、ビール醸造時にできるビール粕なども肥料や飼料としていかしています。そうすることで、すべてが循環する仕組みになるのだそうです。
「ビール粕の堆肥や飼料を活用して、有機野菜づくりやチーズ製造を行う予定です。その素材を使った料理を提供するカフェをつくれば、今度は人の流れが生まれますよね。地場産品の買い物を楽しめるような施設もつくって、いつかここを循環型テーマパークにしていきたいんです」
その一歩目としてはじめたのが、養蜂なのだとか。施設内の花々や秋に見ごろとなる赤蕎麦の花から蜂蜜を採取、さらには蜂蜜を原材料としたお酒(ミード)を製造・販売することで循環の仕組みをつくる予定です。
「ピザ窯もつくる予定です。ここで採れた野菜やチーズで作ったピザを、ビールと一緒に食べたら最高でしょう」と楽しそうに語る本間さん。さらに、構想はこれだけでは終わりません。ホップジャパンの拠点である中通りと、海側の浜通りを酒でつなげ、地域を活性化していきたいといいます。
「ホップは高地のほうがよく育つので中通りが適しているのですが、麦の栽培は温暖な気候の浜通りのほうが適しているんです。浜通りにはワイナリーもありますし、クラフト酒をつくる醸造所もあります。せっかくおいしい酒があるので、県内の酒を楽しみながら巡ってもらえるような循環も生み出したいですね。『ビールライン』とか『酒ライン』なんて名付けて観光と組み合わせれば、地域全体を盛り上げていけるんじゃないかな」
一緒に未来をつくる仲間をふやしたい
こんな自由な発想のホップジャパンには、その理念に共感した人たちが集まっています。現在、正社員は10名。そのうち、Uターン・Iターン者が9名。ほとんどが移住者です。
「ビールを軸に、循環を生み出し、笑顔をつないでいきたいという理念に共感して来てくれることがうれしいですね。こうした想いを持つ人がふえることが、持続可能な社会を実現するための道になると思います。だからこそ、これからもどんどん仲間をふやしていきたいです」
本間さんは、スタッフのライフスタイルも充実したものにしていけたらと話します。
「現在はアパートを社宅として借り上げて、そこから通ってもらっています。理想は、古民家を改修してシェアハウスなんかができればいいですね。そうすれば人のつながりも、もっと豊かな循環が生まれるんじゃないかな。ロールモデルが1つできることで、空き家問題の解決にもなり、地域の活性にもつながっていくかもしれません」
今あるものを大切に扱い、よりよい流れを生み出していく。本間さんのアイデアの根底には、常に循環があり、そこから新しい価値が生まれているのです。
ホップジャパンの循環型テーマパークに人々が集い、笑顔でつながる未来。その実現を夢見て、本間さんは今日も走り続けています。
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取材、執筆:奥村サヤ
写真、コーディネート:中村幸稚 -
◆株式会社ホップジャパン◆
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