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PLACE|町民の想いがひとつになって生まれた“みんなの家”「みんなの交流館ならはCANvas」

ひと足お先に移住した先輩が、「誰かが移住してきたらまず連れて行きたい!」と思う、とっておきの場所をご紹介。今回は、楢葉町民の憩いの場「みんなの交流館ならはCANvas」。

「みんなの交流館ならはCANvas」は、2018年、町民参加型のワークショップを通じて、町民の想いをもとに設計された公共施設。楢葉町は、震災によって全町避難となり、当時暮らしていた約8000人の住民が避難を余儀なくされた。2015年に避難指示が解除され、現在の居住者数は、約4000人にまで戻ってきているという。そんな中、楢葉町の復興のシンボルとして「笑(えみ)ふるタウンならは」内に誕生したのがこの施設だ。また、国等から受ける補助金をほとんど使わずに、楢葉町が主体となってつくられた珍しい施設でもある。住民の合意形成を経てつくられた施設のモデルケースとして、全国のまちづくり団体や建築家から注目を集め、視察に訪れる組織や団体も多い。

施設周辺は、徒歩であらゆる機能の施設を行き来できるコンパクトタウンの構想でつくられたエリアとなっており、スーパーをはじめ、ホームセンター、飲食店、理容室、クリーニング店等の計10店舗が入居する「ここなら笑店街」、そのほかこども園や、病院、災害公営住宅が隣接。周辺の市町村はもちろん、ボランティアや仕事のために短期で滞在する方など、さまざまな人が出入りする。子どもたちからは「ならキャン」という愛称で親しまれるこの場所は、近隣住民が集う場となっている。

町内外、世代を超えて人が集い、交流する場所としてつくられたこの施設は、まさに「町の中心にある一軒の大きなお家」。施設内を歩いてみると、コンセプトに込められた想いが随所から伝わってくる。

「家」というイメージのとおり、館内は外履きを脱いで過ごすことになっている。このルールは、開館後、利用者の投票で決まったそうだ。エントランスをくぐると、まず開放感のある「みんなのリビング」が広がる。さまざまな展示や物販が行われる棚、大きなテレビモニターが設置されており、住民たちがすぐそばの団らんスペースでくつろいでいる。一見シンプルだが、設置された家具は特注のもの。用途に合わせて自由に組み替え可能な木製棚、人気ファッションブランド、ミナ・ペルホネンのテキスタイルで彩られたクッションがリビングスペースに暖かい雰囲気を与えている。「リビングのような過ごし方ができる場所」という町民の声に応えた、アットホームな空間だ。

館内を案内してくれた「一般社団法人ならはみらい」の西﨑芽衣さんは「暮らしや心の面での復興を支える場所になれば」と、この場所に込められた想いを話す。

「みんなのリビングでは、町民の方々のハンドメイド雑貨などを展示・販売しています。多くの方の目に触れる場所ということもあり、つくり手にとってはやる気が刺激されるようです。最初はこちらから呼びかけて始めたのですが、今では自主的に新しい作品を持ち込んできてくれたりするようになりました。安心して暮らせることはもちろんですが、生きがいを感じるものがあるというのはすごく重要なことですよね。趣味などを通じて、この町の暮らしをより一層楽しめるようになってほしいと思っています」

楢葉町には屋内で子どもたちが遊べるスペースが少ない。そうした声を受けて設置されたのがこのキッズスペースだ。一般的なキッズスペースのような仕切りを取り払い、オープンな設計。このキッズスペースには和室が隣接する。「見ててあげるから、買い物いってきていいよ」。孫の面倒を見るように、お母さんに声をかける地域の方もいるのだという。

「楢葉町は、震災による全町避難により町の子どもたちが減ってしまったんです。なので、子どもの声が聞こえてくるだけで、みなさん明るい気持ちになるし、特にお年寄りの方は喜んで下さるんですよ。小さい子がハイハイでリビングまで出てきてしまうこともあるのですが、それもみんなで見守ればいいよねって」

画像:「みんなの交流館ならはCANvas」より提供

屋外のデッキは、大きな縁側のような設計となっており、ステージとして利用することができる。平日は子どもたちが元気に走り回る姿を見ることが多いそうだが、週末にはコンサート等様々なイベントが企画・開催されている。

また、映像上映、楽器演奏が可能な小規模ホールもあり、映画の自主上映会、カラオケ大会、写真を映し出して旅行の思い出を語る会などユニークな使い方をする人もいるそう。隣には防音のバンドルームが併設されており、ドラムセット、キーボード、音楽機材、アンプ、マイク、ミキサー、レコーダーなど楽器や充実した関連機材が揃う。ドラムはミュージシャンの竹原ピストルさんの寄付で購入したものだという。

山菜やきのこを採るなど、町民に親しまれてきた楢葉町の郭公山(ほととぎすやま)を眺めながら、のんびりとできる和室。「山を眺めながらお酒を飲みたい」との声から生まれた。仕切りをつけることでオープンにもクローズにもできるため、用途は多様。お茶会やマッサージ施術のイベントのために利用をする人もいるという。

館内をぐるっと回って気づいたことがある。それは、注意書きや張り紙のようなものが一切見当たらないということだ。それもそのはず、「ならはCANvas」内ではルールはみんなの意見で決めていくという方針があるという。これも公共施設としては異例のことだ。

「張り紙は、紙一枚のみでコミュニケーションを終わらせてしまいます。それは交流施設として違うのではと思い、できる限り張り紙は使わないようにしています。子どもがはしゃぎまわっていると、近くにいる人が注意をしたり、声をかけたりすることもあるんですよ。お互いにこの空間で心地良く過ごすためには、会話を重ねることが一番だと思います」

目的も利用の仕方も人それぞれ。公共性の高い場所だからこそ、共通のルールを定めるのではなく、利用者の想いを尊重する。こうした運営方針の背景には、この施設を「やりたいことを実現できる」場所にしたいという考えがある。

「東日本大震災でさまざまなものが失われてしまいましたが、そのひとつに町民の方々の『意欲』があるのかもしれません… 。ある日突然、ずっと続けてきた趣味・畑仕事などの日常が奪われました。その後の避難生活ではたくさんの支援があり、自分たちの想いで何かをすることは減っていました。楢葉町は、目に見える復興はほとんど終わりに近づいている気がします。これからはみなさんの『やりたい』という意欲を形にして、目には見えない、『心の復興』を支えていきたい。だからこそ、スタッフは利用者の方一人ひとりの想いを汲み取れるよう、積極的に会話をしたりと、並走するようにサポートをしています。いつかこの施設を通じて、自分の想いを実現していることに誇りを持てる人をもっと増やしていきたいんです」

運営開始から約一年半。「みんなの交流館ならはCANvas」の存在が口コミで広がり、少しずつ、想いが形になってきた。最近では、いわき市のライブハウスから出張イベントが開催されたり、地域の会議やシンポジウムの会場になるなど、周辺地域との取り組みも徐々に増えているという。利用者とともにつくり上げていくこの場所は、きっと訪れるごとに違った景色を見せてくれる。近隣に訪れた際には、ぜひ足を運び、楢葉町の「今」を感じて欲しい。

(2019/12/11取材)

  • 取材・執筆:高橋直貴
    撮影:小林茂太
  • ならはCANvas
    〒979-0604
    福島県双葉郡楢葉町大字北田字中満260