INTERVIEW

インタビュー

サッカー日本代表の専属シェフが温かい料理で福島を支え続ける

西芳照さん

年齢:56歳 
出身地:南相馬市
勤務先:Jヴィレッジ(元総料理長)、サッカー日本代表 帯同シェフ、株式会社DREAM24(代表取締役) 
勤務地:広野町

楢葉町にあるサッカーのナショナルトレーニングセンター、Jヴィレッジで総料理長を務め、2004年からサッカー日本代表の専属シェフも兼任し、4大会連続でW杯に同行している西芳照(にし・よしてる)さん。東日本大震災後から現在まで、福島のために尽力してきた西さんにこれまでのお話を聞いた。

地元の食材を使った料理で代表選手たちをサポート

東京の京懐石の料理店などで修業し、1997年開設のJヴィレッジで総料理長を務めることに。
「当時子どもが小学生だったのですが、福島のような自然の中で育てたいという思いが以前からありました。そんな時Jヴィレッジが開設し、総料理長として採用されたことを機に地元福島に戻りました。2004年からは日本サッカー協会の依頼で、サッカー日本代表の専属シェフも兼任することに。スポーツ栄養学の研究は常に進んでいるので、新しい情報を頭に入れつつ季節の食材や地のものを使うようにしています。今年行われたロシアW杯に同行した際も、広野町のお米、いわき市や南相馬市のうどん、味噌やのりも地元のものを持って行きました」。

震災後のJヴィレッジで食堂をオープン

勤務中に震災にあったという西さん。南相馬の自宅は住めなくなり、一時東京に避難したそうだ。
「Jヴィレッジをそのままにして避難したので、調理場を片付けるため3月中に何度か戻りました。当時、Jヴィレッジは原発事故を収束するための中継基地になっていたので、寒い中、廊下や階段の踊り場で寝ている作業員の方々がたくさんいた。命懸けで修繕にあたっている人たちを目のあたりにして、何かしなくちゃいけない、温かい料理を食べてもらいたいと思いました。そこで、福島に戻ることを決意し、2011年9月、Jヴィレッジ内で食堂ハーフタイムを開店。500円のバイキング形式にして肉、魚、野菜、副菜、サラダ、ご飯と味噌汁を出しました。同年11月には、広野町の二ツ沼総合公園内の施設にレストラン、アルパインローズも出店して、この頃は毎日が本当に忙しかった。過酷な状況の中で、残った人たちと手を携えて7年間少しずつ頑張ってここまできました」。

変わらないのは福島への想い

その後、状況の変化にともないハーフタイム、アルパインローズは閉店に。経営が困難な時、岡田武史元代表監督の支えがあったという。
「岡田さんには本当にお世話になっています。震災後に出店する話をした際は『いい決断をした』と言ってくれ、大変応援していただきました。経営が行き詰まっている時に、監督が日本代表のスタッフを全員連れてきてくれたこともあります。感謝しかないですね。今も交流は続いており、今週末は岡田さんと愛媛県西予市の野村町に炊き出しのボランティアに行きます。震災時、愛媛から支援をいただいた恩返しです」。

現在、西さんはいわきFCパーク(※1)内にNISHI’S KITCHEN、広野町ひろのてらす(※2)内にくっちぃーなの2店舗を経営している。
「福島産の食材を使ったり、実際に代表選手にふるまったメニューを出したりしています。他にはレストランメニューの監修や土産物の商品開発に携わることも。福島の食材をPRしていきたいですね」。

4年後のカタールW杯への挑戦

2018年7月、Jヴィレッジがリニューアルオープンを果たした。西さんの思いとは?
「震災前のようにJヴィレッジを広く利用してほしいですし、同時に福島の現状を知ってほしいですね。ありえないことが起きる時代なので、もし自分の地域で災害が起きたらということを考える意味でも足を運んでもらえたらと思います。私も日本代表の専属シェフとして、Jヴィレッジに関わっています。震災後、Jヴィレッジを辞めることになったのですが、日本サッカー協会の方々に『引き続きやってほしい、それが福島を応援することになる』とご支援いただいて現在も続けています。次のカタールW杯は4年後なので60歳になっています。ベスト8入りも見たいですし、そこまではやろうかなと。若い人には負けないですよ(笑)」。

お話を聞いていると、西さんもトップアスリートのように挑戦し続けてきた人だと感じた。「少しは休みたいんだけどね」と言っていたが、きっと西さんは走り続けるだろう。今日も西さんの温かい料理が人々に元気を与える。

※1 福島県いわき市に位置する商業施設複合型クラブハウス。東北社会人サッカーリーグ2部南に所属するいわきFCの本拠地となっている。
※2 福島県双葉郡広野町にオープンした公設商業施設。スーパー「イオン広野店」などがメインのテナントとして入居している。

(2018/9/11取材)

  • 取材・執筆:石川ひろみ
    撮影:出川光