INTERVIEW
インタビュー
初めての旅館業に挑戦。再開した旅館とともにスタートを切る
片岡貴夫さん
2018年5月にリニューアルオープンした南相馬市原町区の旅館・抱月荘。ここで従業員として働く片岡貴夫さんが、笑顔で迎えてくれた。彼は求人検索エンジン「スタンバイ」で抱月荘での仕事を見つけ、3月に四国からこちらに来たばかり。旅館業は未経験だったという。なぜ遠い四国から南相馬市の旅館で働くことになったのだろうか?
大学卒業後は愛媛県で被災者を支援する仕事に
「以前は愛媛県松山市のNPO法人で働いていました。東日本大震災で四国に避難されて来た方々を支援する団体です。きっかけは大学時代、南相馬市から愛媛県に避難されて来た方と知り合ったこと。お話を聞いてテレビの向こう側の出来事が一気にリアルに感じられ、何かできることをしたいという気持ちが一層強くなりました。その方がNPO法人の代表を務められていて、僕も4年間お手伝いしていました。大学卒業のタイミングで、職員にならないかとお誘いいただいて、働くことになったのですが、両親は徳島に帰って来ると思っていたので、かなり反対していました。でも僕の中に迷いはなかったですね」
スタンバイを見て共感した抱月荘・高藤さんの言葉
NPO法人での1年間の勤務を終え、次に進むべき道を模索していたという片岡さん。心境の変化があった。
「福島県には何度か訪れていたのですが、松山市とはそうとう離れているので、情報の伝わり方にギャップがあるなと感じていました。実際に福島県で働いてみたいと思い始めて求人を探していたんですが、やっぱりなかなか踏ん切りがつかない。そんな時、求人検索エンジン「スタンバイ」で抱月荘の求人を見つけて。そこに掲載されていた抱月荘の代表・高藤さんの『旅館を通じて地元の復興をしていきたい』という想いに心を打たれました。また、引越しの費用が軽減されるなど、移住者への支援制度も後押しになりました」
しかし、このタイミングでの移住に不安もあったという。
「正直、7年経って今さら何ができるのか?と思ってしまうところがありました。でも面接で高藤さんに『7年前の震災から、抱月荘は止まっています。一緒のスタートだから、ともに頑張っていきましょう』と言ってもらえて。旅館業も初めてで不安でしたが、それも『大丈夫』と。もうここしかないと思いました。かばん一つでこちらに越して来て、高藤さんに家探しまで手伝っていただきました」
四国から来たことを“強み”に
現在は旅館業に慣れるため、日々奮闘中だ。
「お客さんが泊まるお部屋の準備や、食事の配膳などが主な仕事です。お客さん目線でおもてなしができるように勉強中です。僕、四国からこちらに来たことをちょっとネックに感じてしまうことがあったんですよね。外の人だと思われるかなと。でも高藤さんに『そこが君の強み』と言ってもらったので、『僕は徳島県出身なんですけど、どちらから来られたんですか?』とお客さんに話しかけていこうかなと思います」
これまでの出会いや活動が繋がっていく
最後に今後の目標を聞いた。
「こちらでしか繋がれない人たちとたくさん会って、交流していきたい。ここで働いているだけでも、色々な方とお話できる機会があるので、来てよかったなと思います。最近うれしかったのは、僕が徳島県出身なので、カツオのたたきに徳島産のすだちジュレをつけてくださったり、僕が愛媛県にいた時に繋がりがあった農園のみかんをデザートに使ってくださったりしたことです。一つの支援の形として、メニューとして仕入れて出すということができた時は、やったなと思いました。僕がやりたかったことの一歩が始まっている気がします」
終始笑顔で柔和な印象の片岡さんだが、知らない土地にかばん一つで来てしまう強い行動力に驚かされる。やはり抱月荘の高藤さんとの出会いに、背中を押されたようだ。大きな決断も、誰か一人でも信頼できる人がいれば、不安は少ないのかもしれない。
(2018/7/3 取材)
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取材・執筆:石川ひろみ
撮影:出川光 -
抱月荘
住所:福島県南相馬市原町区馬場川久保3
詳細ページ:https://www.hougetsusou.jp/