INTERVIEW

インタビュー

想いを繋ぐ映像を作りたい。浪江町への移住と共に新しいキャリアをスタートさせた「Link Films」及川裕喜さん

及川裕喜

出身地:岩手県陸前高田市
勤務先:Link Films
勤務期間:2020年〜
年齢:34歳

岩手県陸前高田市出身の及川裕喜(おいかわ・ひろき)さんは2020年4月に浪江町にIターン、2020年5月に映像制作事務所「Link Films」を立ち上げた。作業療法士として10年間のキャリアを歩んできた彼はなぜ新たな道を歩み始めたのだろうか?その背景にある想いと、今後取り組みたい仕事について話を伺った。

浪江町への移住と共に、未経験の映像制作の道へ

及川裕喜さんが浪江町へ移住したきっかけは、奥様の転勤だった。ご夫妻で岩手県陸前高田市で暮らしていたが、奥様の及川里美さんが2018年に単身赴任で浪江町役場へ転勤。1年で帰る予定だったが、地元のためにもっと働きたいという奥様の思いから、引き続き役場で働くことが決まった。最初こそ離れた場所から見守るという形だったが、そんな里美さんの思いを受けて裕喜さんが浪江町に移ることに決めた。

自然に恵まれ、色も豊か。暮らす人々が明るく行動的だというのが浪江町の印象だった。浪江町と陸前高田は町の規模感が近く、特にストレスもなく移住をすることができたという。

専門学校卒業後、病院で10年間働いてきた裕喜さんだが、移住に際して新たな仕事を始めることにした。それが映像制作の仕事だ。YouTubeなどを活用し、独学でスキルを身につけ、まさにゼロからのスタート。なぜ、全く別の分野である映像の仕事を始めたのだろうか。

「作業療法士として働いてきて、自分のなかでやり切ったという思いがありました。うまくいかなかったとしても良い経験にはなると思い、新しい場所で新しい仕事を始めることにしました」

将来のプランよりも、変化に対応できる身軽さを大事に

最初の勤務地であった仙台の病院では作業療法士として5年間勤務した。働き始めたのは東日本大震災の発生直後。初年度はストレスで体調を崩した患者さんのリハビリを担当することが多かったという。怪我や病気で病院を訪れる患者さんと触れ合う中で、徐々に予防医療への興味が湧いた。

地元で働きたいという思いがあった裕喜さんは陸前高田市に予防医療に力を入れている会社があると知り、2016年にUターン。地元である陸前高田市で訪問リハビリステーションで作業療法士として働き始める。また、仕事と並行して、健康運動実践指導者、ピラティスインストラクターの資格を取得。副業として誰でも受けられる運動教室を開き、ストレッチ、筋力トレーニング、ウォーキングなどの基礎的な運動の指導にあたった。

元々は陸前高田市でずっと働いていくという考えもあったが、やりたかった仕事が実現できたこともあり徐々に心境が変化していった。終身雇用が当たり前の時代とは異なり、環境の変化も早い。将来のプランを決めすぎずに柔軟に生きていくことが、今後よりよい人生を育んでいく上で必要とされるのではないか。そんな思いを募らせている時に出会ったのが映像制作のノウハウを発信している動画だった。

「陸前高田や浪江町といった田舎には映像制作を行っている会社は少ないですが、だからといって需要がないわけではありません。町は変わっていって、それを伝えていきたいと思っている人はいる。そうした人達の力になれる仕事だと思いました。全くの未経験でしたが、やってみようと思いました」

町と人の思いを繋ぐ「Link Films」

浪江町に移住した裕喜さんは自主的に映像作品を制作することからスタートした。経験もない、実績もない。ならば作品を制作し、多くの人に観てもらうことが大事だと考えたからだ。しばらくは収益が上がらないことも覚悟していたが、人づてに依頼が舞い込み、想像よりも早く「仕事」として軌道に乗り始めた。

依頼の多くは店舗や商業施設をPRするものだ。移住後すぐに岩手県一関市や浪江町の青年会議所から声がかかり、観光のPR動画やインタビュー動画を作成。その動画を観た人から仕事が舞い込むなど、仕事が新たな仕事を呼ぶ良い循環が生まれてきている。

今後、どんな映像を作っていきたいのかと投げかけると、町の人達の思いを繋ぐ作品をつくっていきたいのだと話す。その思いはLink Filmsという事務所の屋号にもストレートに表現されている。

「そこで働いている人には、その場所への強い想いがある。被災した場所に戻ってきた人は特にその思いが強いかもしれません。そうした思いを引き受けて町の映像を撮らせていただくのはとてもありがたいことです。そこにある伝統や文化、それぞれの想いを映像で繋ぎ、浪江町、双葉郡の活性化につながるような作品をつくっていきたいです」

新天地で映像制作の道を歩み始めた裕喜さん。彼が繋いでいく「想いの輪」の広がりを、映像から感じて欲しい。

(2021/3/12取材)