INTERVIEW

インタビュー

失恋から始まった4代目川口商店の物語。

川口雄大さん

年齢:29歳 
出身地:南相馬市
勤務先:川口商店 
勤務地:南相馬市 
勤務期間:2014年~

南相馬市で一番遅くまで営業している飲食店が原町区にある「川口商店」だ。店主の川口雄大(かわぐち・たけひろ)さんは、高校までこの町で生まれ育ち、東京の専門学校へ進むも中退。芸人生活や各地を旅する生活を送りながら、東京でエアコン設置業等の仕事を続けたが、好きな人が住んでいた南相馬にUターンすることに。波乱万丈の川口さんの歩みを伺った。

失恋から未経験の飲食業へ

「ずっと片思いをしていた人が、『好きな人には近くにいてほしい』って言ってたんです。その言葉で南相馬に帰ることを決めました。結局、帰ってきたからといってその恋は実らなかったんですけどね…」。

川口さんのUターン後の生活はちょっと切ないエピソードで幕を開ける。2014年のことだった。退路を断って戻ってきた川口さんにはもう一度東京に、という考えはなかったという。もともと実家は三代続くお米屋さん。当時は震災の影響で休業状態だった。

「失恋のショックがデカくて、一人じゃいられないと思ったんです。飲食店なら話を聞いてもらえるじゃないですか」。場所と屋号はそのままに、飲食店としてお店を始めることに。とはいえ飲食店の経験など全くなかった川口さん。「当時は日本酒と焼酎の違いも分からないくらい。料理も乾きものと缶詰だけでした(笑)」。

南相馬で一番遅くまで営業する店に

ふつうならこれで店を成功させるイメージはなかなか描きづらいかもしれないが、川口さんには秘策があった。

「せっかく店をやるからには何かしらの形で一番になろう!と思っていました。でも自分は料理もできないしお酒に詳しいわけでもない…。なら、一番遅い時間までやってやろうと思いました」。

この戦略がズバリとハマる。同じ飲食業に就く人たちが自分の店の営業後に川口商店に足を運んでくれるようになった。それだけでなく、飲食業の経験がない川口さんに料理の作り方からお酒の選び方まで様々なアドバイスをしてくれたという。 「本当に何にもできないとみんな気にかけて教えてくれるんですよ」。屈託なくそう話すが、全ては川口さんのキャラクターの賜物かもしれない。

川口さん流の街づくりの関わり方

型破りで楽しいことが大好きな川口さんの周りには、自然と人が集まってくる。ゲームやマンガ、おもちゃなどがぎっしり並んだ店内の本棚にもその様子を垣間見ることができた。
「お店の一角にある本棚をレンタルスペースにして作品を展示しているんです。ゲームやパズル、サッカーなど共通の趣味を持つ人が集まって、“部活動”と称して集まったりもしています」。

また、メニュー表のイラストや店内に並ぶ全国各地の珍しいお酒は、飲食との物々交換としてお客さまから提供してもらったものだという。根底にあるのはお客さまと一緒に楽しむ気持ち。「まちづくりと言われても正直自分はピンとこないけど、楽しいことを続けていけば結果的にそうなるんじゃないですかね」。

口に出すだけでなく実現することが大事

今は素敵な縁もあり、結婚し子どももいる川口さん。乾きものと缶詰だけだったとは思えないほど、今ではメニューも充実している。そんな川口さんが貫いているポリシーは、『やりたいことを発信するだけで終わるのではなく、実現までたどり着かせること』だという。

「今は絵本に出てくる料理が食べられるお店作りの計画をしています。絵本を読み聞かせしたら子どもが嫌いな野菜を食べてくれた経験から考えたお店です。そのために、アースバックハウス(※)という家を建てる技術も習得してきたんですよ」。

飄々としているように見えて実はきちんと考えている川口さん。Uターンする前からいつかは南相馬に戻って「川口商店」を継ぐために、東京時代は3つの仕事を掛け持ちしてお金をためていたそうだ。これからも他の人にはできない独自のビジョンと感性で、南相馬の活性化を実現してくれることだろう。

(2019/2/6取材)

※アースバックハウス 中東で、1000年以上前から実践されてきた家造りの方法で、土を中心にして作る建築方法。土嚢袋に土を詰め、それをブロックの代わりに使うのが特徴。

  • 取材・執筆:七海賢司
    撮影:舟田憲一
  • 川口商店
    〒975-0008
    福島県南相馬市原町区3丁目21番地