COLUMN

連載

COMMUNITY|未完成の小高パイオニアヴィレッジに、地域復興の姿を重ねる

移住する人の周りには、それを支えるコミュニティが必ずある。仕事場や何気ない会話を交わす人の輪。この連載「COMMUNITY」では、変化する福島復興エリアの街をリードし、支えるコミュニティで起きていることと、その可能性を伝えていく。

今回は南相馬市小高区にある「小高パイオニアヴィレッジ」。移住者交流や起業家支援の新たなコミュニティとしてだけでなく、地域復興の象徴的な存在としても期待を集めている。

暗がりの街並みにひときわ目を引く独創的な建物が「小高パイオニアヴィレッジ」だ。外観だけでなく内観も独特だ。

1階にはキッチンと大きなひな壇。ガラス工房で作業に没頭する女性たちの姿も見られる。2階には大きな吹き抜けをぐるりと360度囲むように、デスクが置かれている。そこで思い思いにパソコンに向かう人の姿。代表を務める和田智行(わだ・ともゆき)さんは地元・小高区出身。避難地域初のコワーキングスペース「小高ワーカーズベース」を立ち上げた人物でもある。

「小高パイオニアヴィレッジの目的は、これからこの町で何か新しいことや事業を始めたいと考えている人のコミュニティの場所をつくることです。この地域でいざ起業するとなると、お金の支援だけでは不十分です。地域とつなぐコーディネーターが同じ場所にいることで、事業をやり切ることができると考えています。また、多様な人がここを使うことで仲間やライバルとして切磋琢磨できる関係性が築けるはずです」。

現在は「小高ワーカーズベース」の他にガラスアクセサリー工房の「HARIOランプワークファクトリー」、NPO団体のサテライトオフィス、映像やデザインのクリエイターたちがこの施設を利用している。「移住者はともすると孤独な環境に置かれがちです。同じ思いを持つ移住者同士のコミュニティがあることで、移住のハードルが下がればと思っています」。

宿泊できるスペースがあるのも大きな特徴だ。いきなり移住となると大変だが、ここならその前段階として、滞在しながら現地調査や地元の人とのネットワークをつくることもできる。ビジネスの拠点として、また、将来のチャレンジに向けての準備地点や中継地点として、「小高パイオニアヴィレッジ」の可能性は無限にある。

「この建物のコンセプトは『境界が曖昧な設計』です。空間を区切らず、使用目的を限定しないことで、利用する人たちの間の交流も深まり、そこから新しい化学反応が生まれることを期待するメッセージが込められています。また、この地域がこれから先、どんな復興を遂げるかは誰にも分かりません。この先、新しい機能を後から足せるようにあえて余白のある設計になっています」。未完成で余白のある建物は小高地区の復興の姿とも重なる。ゼロベースの社会が作れる現代のフロンティアから、どんなアイデアやプロジェクトが生まれるのか楽しみにしたい。

(2019/2/6取材)

  • 取材・執筆:七海賢司
    撮影:舟田憲一
  • 小高パイオニアヴィレッジ
    〒979-2124
    福島県南相馬市小高区本町1-87