INTERVIEW

インタビュー

浪江町の林業を守りたい。国内最先端の技術で、福島の木材を全国へ

双葉郡浪江町。豊かな自然に恵まれたこの町は、かつて林業が盛んに行われていました。しかし、東日本大震災の発生で一変。福島第一原発事故の影響により、今でも山に立ち入ることができません。

「この町の林業を途絶えさせてはいけない」

逆境に立ち向かい、福島県の林業の再生、雇用創出を目的に設立されたのが「株式会社ウッドコア」です。海を望む広大な敷地には国内最先端の工場「福島高度集成材製造センター(FLAM)」が建ち、大規模木造向けの大断面集成材を中心に付加価値の高い集成材を製造しています。

ウッドコアとは、どのような企業なのでしょうか。取締役をつとめる朝田英洋さんに、設立に至る背景や現在の取り組み、今後の展望を伺いました。

株式会社ウッドコア

取締役 朝田英洋 さん

最先端工場で持続可能な取り組みを

「株式会社ウッドコア」は、浪江町で製材業を営む「朝田木材産業」と、郡山で中・大断面集成材事業を手がける「藤寿産業」が共同で設立した会社です。福島イノベーション・コースト構想に基づく農林水産プロジェクトとして、県産木材の需要拡大と林業再生、雇用創出のために立ち上がりました。

国内最大規模の原木一貫生産型集成材工場では、伐採した木材から集成材をつくる原料「ラミナ」を製造。それを必要な幅や長さに加工し、中断面、大断面の集成材を生産しています。

ここでつくられた集成材は、学校教育施設や道の駅、木造高層ビルなど中・大規模の木造建築物に使用されるのだそうです。どのように製材されているのか、早速、工場を案内してもらいました。

敷地に入ると、まず目に飛び込んでくるのは丸太の山です。

「ここにある丸太はほとんど福島県産です。安心安全な木材を提供するために、ここでは原木で仕入れたとき、製品製造工程が終わってからの計2回、1本1本放射線を測っています。地道な作業ですが、しっかりと安全を証明して信用を積み重ねていきたいと思っています」と朝田さん。

この工場の特徴の1つに、持続可能な取り組みがあります。

「木って全て利用できるんですよ。捨てるところが1つもないんです」

その言葉どおり、工場で製材する際に出るウッドチップやおがくず、バークといった木片すべてを無駄にすることなく活用しています。

ウッドチップは紙の原料となる製紙用へ、おがくずは牧場へ出荷、バークと言われる樹皮は工場のボイラーで燃やし、木材を乾燥させるための熱源にしているそうです。

「木ってプラマイゼロなんですよね。CO2(二酸化炭素)をたくさん吸って成長し、木製品として使われ、燃やすときにはまたCO2を大気中に排出するんです。そんな木材を活用することは、地球温暖化防止の貢献にもなるんです」と朝田さん。

すべてを有効活用して循環させる仕組みと木材の持つ可能性に驚きました。

最先端の集成材工場では、日本国内初となる高出力高周波プレスを設置しているそうです。通常のプレス機では接着剤をつけてから硬化するまで約8時間かかるところ、加熱接着を行い数10分で完了するのだとか。短期間に量産できる生産体制が構築されていました。

震災を乗り越え、製材業を再開するまで

朝田さんは、浪江町で大正時代から製材業を営む「朝田木材産業」の4代目です。翌年に100周年の節目の年を迎えようとしていた2011年、東日本大震災が発生。福島第一原発の事故により、30名いた社員は全員が避難して全国各地にバラバラになってしまったそうです。

すぐに帰れるだろうと故郷を後にしたその日から、会社があった場所に入るまでには3年の月日がかかりました。雑草で覆われ荒れ果てた建物を見て「この先どうしていこうか……」と愕然としたといいます。

「浪江町はもともと林業が盛んで業者も複数いましたが、震災の影響でほとんどが廃業してしまいました。私も正直、会社をたたんでしまおうかと思ったんです。でも、先祖代々引き継いできた会社を途絶えさせるものかと自分を奮い立たせました」

朝田さんは県内各地、茨城県まで足を伸ばし、再建する場所を探しました。しかし、ここだと思える場所には出会えず、浪江に戻ることを決意します。

浪江町は2017年に「帰還困難区域」を除く区域で避難指示が解除され、町の復興が進んでいます。その一方で森林は手付かずのまま。この町で製材業を営むには、困難が予測できました。しかし朝田さんは、町の林業を復活させたいという一心で前へ進んできたのです。

木材の可能性を未来へ繋いでいく

2018年、新たな木材需要の拡大と林業再生を目指し、朝田木材産業は郡山に拠点を置く藤寿産業と共同で「株式会社ウッドコア」を設立。2021年5月には新工場が完成し、2022年6月JAS認証を取得しました。

「ここまで来るには苦労の連続でしたが、ようやく本格的に稼働するようになってきました」と朝田さんは話します。

従業員ゼロの状態から現在はスタッフが40名にまで増えたそうです。新型コロナウイルスの影響により機械の設備が遅れたり、海外からの技術者が来られなくなったりと、スタートから思うような歩みとはいかなかったものの、朝田木材や藤寿産業へ社員を出向させて技術を磨いてもらい、準備を進めてきました。

「現在、都市部を中心に大型の木造建築が増えています。福島県産の木材を都市部でどんどん使ってもらうために頑張っていきたいです」と意気込みを語ります。

林業と聞くと力仕事をイメージしますが、ウッドコアでは最先端の技術を導入しているので、作業しやすい製造ラインの整備がされているそうです。現在勤務している20代〜60代のスタッフのほとんどの方が未経験からスタートしています。

社宅も完備しており、遠方からの就職希望者にも対応。フォークリフトや玉掛け、クレーンの技能講習代は全額会社が負担し、就業時間中に出勤扱いで資格取得試験に望めます。

ここまで整備を整えるには、林業の担い手を少しでも増やし、福島県・浪江町を再生させたいという強い想いがあるからです。

「町は少しずつ復興の歩みを進め、今後は浪江駅周辺が再開発されます。駅舎は木をふんだんに使用した建物になる予定で、うちの集成材を活用します。浪江は、海も山も川もあって自然豊かな場なんです。これからは、浪江を木の町にもしていきたいと思っているんです」と笑顔を見せます。

現在は、2025年に開催する国際的大イベントのメイン会場に使用する集成材を制作しているのだそうです。「完成したら何回も足を運びたいです!」と話す朝田さん。未来への取り組みは、着実に始まっています。