INTERVIEW
インタビュー
おらが町のバス会社を目指して。地域に 寄り添い続ける「東北アクセス」
東北アクセス株式会社
常磐道南相馬インターチェンジを降りると目に飛び込んでくる大きな建物。南相馬市に拠点を
置くバス運行会社「東北アクセス」です。
「災害が起きたとき、いつでも頼ることができる地域のランドマークでありたいと想いを込めて建てました。私たちは『おらが町のバス会社』を目指しています。その原点は、あるおじいちゃんの一言なんですよ」
代表取締役の遠藤竜太郎さんは、熱を込めて話します。
遠藤さんは南相馬市で地域の方たちの足になるべく、震災も乗り越えてバスを走らせ続けて
きました。小さな旅行会社から出発した東北アクセスが地域から頼られる存在になるまでには、
どのような軌跡があったのでしょうか。
そのストーリーを紡ぐと、未来へつながる道が見えてきました。
小さなバス会社から出発した東北アクセス
東北アクセスは、1999年に「はらまち旅行」という小さな旅行会社として設立された会社です。
貸切バスをメインにした事業を行っていましたが、経営者が営業中に不慮の事故に遭ってしまったことで、事業継続が困難に。別の大手バス会社に所属していた遠藤さんに声がかかり、
2005年「はらまち旅行」を引き継いで代表取締役になったそうです。
「僕が40歳の時です。まさか自分が代表になるとは思っておらず、最初は戸惑いましたが、
『やるしかない』と気持ちを奮い立たせて引き受けました」
当時、所有していたバスは5台。仕事も運転手もいないところからのスタートでした。遠藤さんは
、大手バス会社を退職した運転手を集め、地域に住む方の足となる近郊送迎の事業を展開。
地域に密着しながら順調に業績を伸ばしてきました。
町の人たちに寄り添い続けることが使命
しかし、穏やかな日々を一瞬で壊す出来事が起きます。2011年3月11日に発生した
東日本大震災です。
「その日は、私たち夫婦にとって特別な日でした。午前中妻から電話が来て、待望の子どもを授
かったことがわかったんです。天にも昇るような心地でしたね。そして、午後にあの地震が起きました」
遠藤さんは奥さんを親戚宅へ避難させると、すぐに南相馬市に引き返します。町から
避難する車で渋滞する反対車線を眺めながら、「もう妻にも子どもにも会うことができない
かもしれない」という覚悟で南相馬に車を走らせたそうです。
東北アクセスは全市民の避難指示が出されるまでの期間、南相馬に残った社員たちと共に町の人
たちのために奔走しました。
「自家用車がある人はすぐに避難できましたが、行くあてがない、車もないという人たちが
町に残されていました。当時は、その方たちを自衛隊の仮設風呂まで送迎したり、避難場所へ
運んだり、その時できる最善のことを引き受けました。我々の中では逃げるという選択はなく、
無我夢中の毎日でしたね」
南相馬市を陸の孤島にさせない。「おらが町のバス会社」の挑戦
4月になると住民が徐々に戻りはじめましたが、東京から仙台までを結ぶ国道6号線は、楢葉町~
南相馬の区間で許可なく立ち入ることができず通行止めに。その上、南相馬市に乗り入れていた
大手バス会社は撤退してしまいました。
「交通が遮断されたら、南相馬は陸の孤島になってしまうかもしれない……。」
遠藤さんは、地元のバス会社としてできることを模索。南相馬市内に残った市民を
孤立させまいと、南相馬市と仙台市を結ぶ路線を新設し路線バスを走らせます。
そうして震災から1年が経ったある日、事務所に一本の電話が入ります。
「福島市までのバスは走らせないのか?」
当時、福島市までを結ぶ路線バスは大手のバス会社から出ていたため、遠藤さんはわざわざ
自分たちのような小さなバス会社が走らせる必要はないと考えていたのだそうです。
ところが、電話の主はこう言うのです。
「違うだろ、おらが町のバス会社だべ?」
「その一言ではじめて町の人から認めてもらった気がしたんです。要は、俺らの足だべ、
味方だべ?って言いたかったわけです。あれは本当に嬉しかった。南相馬に残って
頑張ってきてよかったと心底思いました」
住民の期待に応えるため、東北アクセスは2012年4月に福島線の運行を開始しました。
地域の人にとって安心・安全の場所に
2018年には、南相馬バスターミナルを兼ね備えた新社屋が完成。広々とした事務所や社員が休憩 や仮眠をできる部屋のほか、災害時にはレスキューの拠点となる仕様となっています。
「いざという時のことを常に想定し、地震や台風、水害などの災害があった時に避難所と
なってほしいという思いで建設しました。地域の方がいつでも安心して交通の足の確保を
できる、それでこそ『おらが町のバス会社』なんです」と胸を張ります。
2階にある事務所内は、仕切りがなく風通しの良いオープンオフィス。これにも訳があると、
遠藤さんは教えてくれました。
「事故は運転手だけが起こすものではありません。事務所での管理やバスの整備、従業員が一丸
となって配慮することで未然に事故を防ぐことができるんです。だからこそ、ワンフロアで
情報を共有できるフラットな会社を目指しています。人の命を預かるからこそ安心・安全な
乗り物を提供することが自分たちの使命です」
熱く語る遠藤さんからは、「おらが町」のために走り続けてきた誇りと気迫が伝わってきます。
馬の絵が描かれたバスに一目惚れして転職を決意
東北アクセスに勤務して8年目の高橋大輔さんが移住したのは2014年。
南相馬市に住む祖母の面倒を見たいという母の希望を叶えるため、母と2人で名古屋から
移住することを決意したのだそうです。
「僕が生まれてすぐに祖父が亡くなったのですが、母は看取れなかったことを後悔していました
。それで祖母だけは最後まで一緒に過ごしたいという気持ちを持っていたんです。
母を一人で行かせるには不安がありましたし、ちょうど僕も仕事を辞めたタイミング
だったこともあり移住することにしました」
そうして「まずは新生活の基盤を整えなければ」と考えた高橋さんは、長年の飲食店での
経験を生かし、幹線道路沿いにある和定食の店でアルバイトをはじめたそうです。
ある日、窓側のテーブルを拭いていると、大きな馬の絵が描かれたバスが目の前を横切りました
。高橋さんはそのバスの迫力に心を鷲掴みにされたと言います。
その日から道路を観察していると、馬の絵のバスは1時間おきに通り過ぎていきます。
バスを眺めていると、高橋さんの中で挑戦したい気持ちが芽生えてきました。
「実は子どもの頃から車が好きで、いつか車に関わる仕事をしてみたいなと思っていたんです。 ハローワークへ行って『馬の絵が書いてあるバスの会社』について聞いてみると、 『安心して入社できる会社ですよ』と教えてもらえたので、勇気を出して門を 叩いてみたんです」
免許取得制度を活用し、バス運転手に転職
面接に行くと、遠藤社長から「資格取得支援制度があるから、未経験でもまずは挑戦してごらん
」と言ってもらえたそうです。
東北アクセスでは、大型2種免許の資格取得支援制度を設けています。会社の全額負担で資格を
取得でき、5年間勤務すれば返済義務が免除される制度です。
高橋さんはこの制度を活用し、未経験からバスの運転手に転職しました。仙台線や福島線の
路線バスの運転をこなすようになり、現在では、整備士の資格を取得して整備担当にも
なっているそうです。
「もともと飲食店で勤務していたので接客が好きなんです。なので、お客さんを乗せて走る
運転手という仕事にやりがいを感じていますし、自分が少しでも役に立てていることに
幸せを感じます」と笑顔で語ります。
そんな高橋さんが、移住して一番困ったことは「方言」だそうです。名古屋と福島の沿岸部では
、言葉の壁は想像以上に高かったといいます。
「『駅前』ってお客さんが言っているのに『一枚』って聞こえちゃったり、最初のうちは
大変でした。でも、わからないことはその日のうちに事務所で地元の職員さんに聞くように
していて、だんだん言葉に慣れていきました。方言と言っても、日本語なので意識すれば
ちゃんと伝わりますし、今はバイリンガルの気分ですね(笑)」
いつか南相馬にたくさんの人を呼べる場を作りたい
高橋さんに南相馬に来て変化したことを尋ねると、「アクティブになったこと」と教えて
くれました。それは、この土地の自然の豊かさと運転手という仕事に就いたことが
大きいようです。
「名古屋にいたころは、仕事から帰るとひたすらゲームをしているような生活をしていて、
自分の健康に目を向けることはありませんでした。でも、お客さんの命を扱うバスの運転手に
なったことで、体調を万全に整えるためにしっかり睡眠を取るようになったんです。
リズムの良い生活になったら健康的になり、外に出歩くようになりました。
今では、南相馬の海と山の魅力に惹かれて、キャンプやカメラをはじめるようになり
休日が楽しいです!」
こう話す高橋さんはポジティブな空気を纏っていました。それは「社長の熱」が伝染している
からかもと笑う高橋さん。最後に、今後の展望を伺ってみると意外な答えが返ってきました。
「飲食業をずっと続けてきたこともあり、いつか南相馬でお店を持ちたいと思っているんです。
南相馬にもっと人を呼べるような観光の目玉となるような場を作りたいと考えています。
この仕事はもちろん好きでやりがいを感じていますし、一方で自分の夢を追いかけたい
という気持ちも大切にしています。チャレンジできる懐の大きさはこの土地ならではの
魅力だと思います」
新たな挑戦をしながらも夢に向かう高橋さんは、今後キャリア形成をする上でひとつの
ロールモデルになるかもしれません。そして、生き生きと仕事ができる環境が高橋さんの
人生を後押ししてくれているのだと感じました。
「おらが町のバス会社」は、地域の人と社員を幸せへ導きながら今日も走り続けています。
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取材、執筆:奥村サヤ
写真、コーディネート:中村幸稚 -
東北アクセス株式会社
https://touhoku-access.com/index.php
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