INTERVIEW

インタビュー

富岡町で創業した「ニココ」が “おもちゃのサブスク”を通して実現したい未 来とは

株式会社ニココ

代表取締役 中山駿さん

おもちゃのサブスクと聞いてピンとくる人は、いま子育て真っ最中なのではないでしょうか。子どもが遊ぶおもちゃは成長につれてどんどん変わっていくもの。お金はかかるし置き場所にも困る……そんな悩みを解決するのが、毎月定額(サブスク)で玩具をレンタルできるサービスです。このビジネスを立ち上げた東北地方初の企業が、福島県富岡町にある株式会社ニココ。2023年2月創業の新しい会社です。代表・中山駿さんにお話を伺うと、その目指すものは単なるレンタルビジネスを大きく超えたところにありました。

全国でも珍しい施設向け知育玩具レンタル

「おもちゃ(知育玩具)は、子どもが生まれていちばん最初に触れる教育器具。だからとても大事なものなんです」。自らも1歳4か月の娘さんの子育て中という中山さんは、そういって目の前のおもちゃをやさしく手に取りました。

中山さんが立ち上げた株式会社ニココは、こうした幼児用の知育玩具を毎月定額でレンタルするサービスを主な事業としています。取材時点(2023年11月)の取引先は、富岡町地域交流館わんぱくパークと道の駅なみえ(浪江町)キッズスペースの2か所。当面はこうした施設向けの法人営業に集中しており、他にも数か所と商談中とのことでした。

「施設によって常駐スタッフの有無、子どもの年齢層などニーズは様々ですし、時期による変動もあります。お納めする玩具は、季節に応じたものやキャラクターもの、グループで遊べるものなど、都度のご要望をきめ細かく伺って選ぶようにしています」

中山さんによると、こうした法人向けの玩具レンタルは全国でもまだ珍しいとのこと。施設側にとっては、購入したものと違いメンテナンス不要というのが大きなメリットになります。汚れたり壊れたりしたらすぐ交換してもらえるうえ、買い替えのたびに予算申請する手間がないというのも、公共系の施設では喜ばれているとか。

貸出先の一つ、道の駅なみえのキッズスペース。

次のステップとしては、2024年中にも個人向けレンタル事業の開始を目指している中山さん。事業エリアも浜通り地域から福島県全域、さらには東北地方・全国への展開も視野に入れているそうで、まだ創業1年未満ながら着々と体制を整えている姿が印象的でした。

おもちゃから始まる教育格差をなくしたい

とはいえ、おもちゃのレンタル自体は新しいビジネスではありません。特に個人向けについては、すでに首都圏の企業を中心に数社が全国でサービスを提供しています。ただでさえ少子化の進む日本。なかでも福島県の子ども(15歳未満)の割合は全国平均を下回り、ニココの玩具が主な対象とする未就学児(0~5歳)に限れば、さらに少なくなります。勝算はあるのでしょうか。

「実は、日本全体で知育玩具の売上は減少していないんですよ。子どもの数は減っても一人あたりの購入額が増えているということでしょう。でも、そのぶん親の経済的負担も増しているはずです。現実には、子どもの成長にあわせて次々と新しいおもちゃを買い与えられる家庭ばかりではありません。知育は教育。つまり、おもちゃからすでに教育格差が始まってしまっている。私はその問題を解決したいのです」

中山さんがこのビジネスを「ただのレンタル事業ではなく教育事業と考えている」と話す背景には、子育て中の親御さんたちへのエールが存在したのでした。

「法人同様、個人向けでもご要望に合わせてできる限りカスタマイズする予定です。月齢・年齢だけで選んだお仕着せの玩具ではなく、個々のニーズに沿ってこそ『教育』事業ですから。そして、毎月おもちゃをお送りした後のフォローアップも徹底したい。どうしても孤独になりがちな子育て中の親御さんを、きめ細かいコミュニケーションを通じてサポートしたいのです。こうしたホスピタリティを大事にすることで競合との差別化は可能だと考えています」

ニココのスローガンは「おもちゃでつなげる ひとをつなげる」。ニココのおもちゃサブスクサービスに付けられた「コネキン」という名称は、「コネクト(つなげる)」と 「キンダーガーテン(幼稚園)」をつなげた造語。どちらも「つなげる」のがキーワード。

故郷・富岡で教育xサブスク事業を実現するまで

中山さんは富岡町に生まれ育ちました。中学・高校時代の恩師たちの姿にあこがれ、教師を目指して埼玉県の城西大学に進学。1年生の3月には、帰省中に東日本大震災 に遭い、家族と一緒に避難所生活を経験したそうです。故郷の復興に貢献したい思いを胸に、卒業後はすぐ福島県に戻り、講師として進学塾に就職。しかし2年後、思うところあって再生可能エネルギー商社の営業職に転身しました。そこでトップクラスの営業成績を収めるとともに、サブスクリプション(物品やサービスを定額で提供する)ビジネスについても深く学んだことが、後に「教育xサブスク」のビジネスを考えるきっかけとなったといいます。

その後、故郷・富岡町を拠点に、温めてきたおもちゃのサブスク事業構想を実現する機会が訪れたとき、中山さんは出資者を募るため投資家たちへ自らプレゼンテーションを重ねました。最終的に、webマーケティング・広告・教育・保育士転職支援などの事業を行う株式会社ブレイブ(東京都)グループの出資が決定。2023年2月、晴れて株式会社ニココが誕生したのです。

中山さんによれば、人事や経理に関してグループ企業のサポートが得られるほか、親会社からの顧客の紹介も見込んでいるとのこと。スタートアップでありながら親会社のバックアップがあることも、ニココの大きな強みのひとつと言えそうです。

玩具のていねいなクリーニングも大事な業務。

世の中に「親の愛情を注がれて育つ子ども」を増やすために

そんなニココは現在、事業拡大のため積極的に人材を募集中です。法人営業、顧客対応、玩具クリーニングのほか、「たとえば地域のイベントにキッズマットと玩具一式を持ち込み、キッズスペースをまるごと出店するなどの新サービスや、顧客の要望に合わせた新プランの考案をお願いしたい」と中山さん。求める人材像を聞くと、以下のように答えてくれました。

「子どもが大好きとか福島の復興に役立ちたい、といった強い『思い入れ』がなくてもまったく大丈夫です。固く考えず自然体がいいですね。県外からの応募も大歓迎。住まい探しをはじめ、スムースな移住を可能な限りサポートします。震災後、ここはすでにたくさんの移住者がいて、誰でもウェルカムな雰囲気があります。新しく来た方も自然とコミュニティに溶け込めるような環境をつくっていきますので、安心してください」

将来は親から受け継いだ富岡町の土地に家を建て、家族で暮らしたいと語る中山 さん。

この地域は、お店の数が少ない・営業時間が短い、など都会とくらべて生活面の不便さがあることは否定できません。でも、その不便さを補って余りある、かけがえのない経験ができる可能性があります。最後に中山さんの夢を伺いました。

「私の夢はプレゼント文化を変革すること。親から子への贈り物を、モノじゃなくて『体験』に変えていきたいんです。5歳の誕生日に買ってもらったおもちゃは覚えていなくても、家族で行楽に出かけた思い出なら残っているのではないでしょうか。モノよりも一緒に過ごした時間のほうが、親の愛情を感じられるはず。サブスクすることでおもちゃを買わなくてよくなれば、そのぶんを体験に使えます。さらに、サブスクを通じたコミュニケーションで、たとえばワンオペ育児中の心的負担が軽減できれば、その親御さんはもっと余裕をもってお子さんに接することができますよね。愛情を注がれて育つ子どもを世の中にもっともっと増やしていきたい」

「ニコニコの子ども」を増やしてみんな笑顔に。社名に込めた中山さんの夢が、多くの新しい仲間とともに花開いていく未来が楽しみです。