INTERVIEW
インタビュー
震災を機に福島県に進出 土木の専門技術で復興事業を担う、松蔵技建
松蔵技建株式会社
2023年4月に富岡町に新社屋を開所した松蔵技建。「ため池放射性物質対策」という、専門的な土木業務を行う会社ですが、技術者だけでなく、管理者や事務職の方々など、職員同士の関係が非常にアットホームな職場です。
同社に県外から入社した、吉田一樹さんと伊藤さおりさんに、会社の様子や仕事のやりがいなどを伺いました。
専門的な仕事でも楽しく
松蔵技建は1993年、神奈川県横浜市で「有限会社松原」として創業。建設業を営み、河川工事などを行っていました。東日本大震災と福島第一原子力発電所事故発生後、2012年に農林水産省主導のもと立ち上げられた「ため池等汚染拡散防止実証事業」に参画したことから福島県での事業が始まり、現在も主に相双地域で農業水利施設のため池内に堆積した、放射性物質を含む土砂を除去する事業(「ため池等放射性物質対策」)を行っています。2012年から現在まで、実証事業・本事業併せて、浜通りをはじめとする福島県内250カ所以上のため池の放射性物質対策事業を行ってきました。
会社としては、2016年に「松蔵技建株式会社」と会社名を変更して相馬市に本社を移転し、2023年4月には富岡町に新社屋と社員寮が完成。現在職員は、正社員・パートを合わせて30名。多くの社員が県外出身で、23名が社員寮に暮らしています。
埼玉県出身の吉田さんは、震災前は東京都庁に勤めていましたが、退職して留学している時期に東日本大震災が発生。震災当時日本にいなかったこともあり、帰国後は被災地で働きたいと考え、公務員の経験を活かすことの出来る復興庁の職に応募したそうです。
福島復興局(復興庁)からの応援職員として川俣町職員となった吉田さんは、2015年、「ため池放射性物質対策」の事業立ち上げから関わることとなりました。応援職員の任期終了後は、土地改良事業団で3年ほど勤務。そこでもため池管理業務に就き、2021年からは松蔵技建の職員として働くようになりました。
「ため池から放射性物質を除去するという作業は、専門的な技術や重機が必要な業務です。他ではなかなか見られないような、水陸両用の重機などを保有していますので、近所の方には驚かれることもあります。とは言っても、管理や事務の業務は、未経験の方でもできますし、皆さん事務所では和気あいあいと仕事をしていますよ」と笑顔を見せます。
横浜市から2年前に移住した伊藤さんも、「この間入ったパートさんにも『こんなに冗談ばっかり言って笑い合ってる職場は初めて!』と驚かれるぐらい、みんな仲良しなんですよね」と話します。元々横浜市で創業した松蔵技建は、代表も県外出身者です。「みんないろんなところから富岡に来ています。海外から働きに来ている人もいるし、いろいろな人がいて楽しいですよ」
無いものはつくる!まだまだ利便性に欠ける地元を楽しむには
松蔵技建のある富岡町は、スーパー、コンビニ、学校、病院、飲食店など、最低限の生活インフラは整っているものの、閉店時間が早かったり、営業日が限られていたりと、特に都心から移住してきた人たちにとっては、まだまだ不便なところも多いのが実情です。松蔵技建ではそんな部分を補うため、会社の敷地内に社員寮を新築。1Kで広さは9畳あり、社員の自己負担は月々1万円程だそう。
また、社員用食堂やジムも建設中との事。吉田さんは、「社員の健康管理も、会社の責任だと思っています。どこへ行くにも車が無いと不便な地域なので、みんな運動不足になってしまいがちなんです。でも近くに手頃な運動施設が無いので、そうであればつくってしまおう」と。伊藤さんも「私は娘と2人で移住してきたのですが、『ジムができたら使いたい!』と娘も楽しみにしているんですよ」と話します。
最初の勤務地は川俣町、その後福島市、そして現在は富岡町と福島市の二拠点居住だという吉田さんは、「福島には地元の人は当たり前すぎて気付いていないけれど、いいところがいっぱいある」と言います。「福島の人に『福島っていいところですね』と伝えると、必ず『ありがとうございます』って言うんですよね。それがとても気持ちよくて好きなんです。今住んでいる浜通りだけでなく中通りでも、とにかく魚が新鮮でおいしいですよね。温泉やスキー場にもすぐ行けますし、四季折々の魅力を存分に楽しめます」といきいきとした表情で話してくれました。
一方、横浜の中でも中心市街地から移住してきた伊藤さんは、いわゆる中山間地域である富岡町に移住して来てから慣れるまでには、相当時間がかかったと言います。「まずお店の閉まる時間の早さや、コンビニが24時間営業でないことが驚きでした。私はお酒を飲むのが好きなのですが、飲食店まで車でないと行けないのでタクシーや代行を使わなくてはいけないというのも慣れなくて。高速道路や雪が降った時の運転も怖いですね」
都心とは大きく違う地方の生活ですが、娘さんの方が順応が早いように感じることもあるそうです。「通学はスクールバスなので安心ですし、1学年10人もいない少人数教育は、うちの娘には合っているように思います。毎月スポーツ選手や有名人が小学校に来ているようで、そういったことで刺激を受けているみたいです」また休みの日には、近所の温泉、いわきや郡山にドライブすることも。特に娘さんは、いわきで育てている「フラガール」というミニトマトが大のお気に入りなんだそう。地方での暮らしを母娘で満喫しているようです。
地域とともに、会社とともに
松蔵技建では、社員に対しては資格取得などスキルアップの推進、地域に対しては行事やイベントへの参加、協賛などで地域貢献にも力を入れています。「いま、二つの資格取得に挑戦させてもらっています。私が試験に行くときには、社員のみんなが交代で娘を見てくれるのもとても有難いんです。私がいなくても、娘が『ただいま!』と会社に帰って来られる関係性もうれしいですね」と伊藤さん。また、地元のお祭りやイベントにも積極的に参加しています。「富岡は桜並木が有名だと聞いて、桜まつりに娘と行きました。本当にきれいだったし、人がたくさん来ていて驚きましたね!ほかにも駅前でにぎわいフェスというイベントがあった時は、社長が『みんなで行ってこい!』とポケットマネーをだしてくれたりして、地元を盛り上げよう、という想いの強い会社だと思います」
「強制ではないですが、会社のみんなで地元のイベントに行ったり、社員有志で地元の海に釣りに行って釣った魚を終業後にみんなで食べたりもします。予定が合わなければ断れるさっぱりした関係でありながらも、皆が楽しく働けているのではないかと思います」と吉田さんも話します。
震災がきっかけで福島県に縁ができた松蔵技建。まだまだ続く復興事業の中で、志を持って移住してくる人たちを、気持ちよく受け入れてくれる会社だと感じました。
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取材日:2023年11月
取材、執筆:山根 麻衣子
写真、コーディネート:中村 幸稚
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