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PLACE|地元に音楽を。南相馬唯一のライブハウスの熱き想い「サウンドファクトリースタジオ」

ひと足お先に移住した先輩が、「誰かが移住してきたらまず連れて行きたい!」と思う、とっておきの場所をご紹介。今回は、南相馬市唯一のライブハウスがある「サウンドファクトリースタジオ」。

南相馬市原町区にある音楽スタジオ「サウンドファクトリースタジオ」は、2階には音楽教室と練習スタジオ、1階にはライブハウス「南相馬バックビート」がある。もともと電子工場だった建物を改築し、2002年にオープンした。それより以前は、音響業者として南相馬市小高区で仕事をしていたこともあるそうだ。

約20年近くの歴史を持つ場所だが、震災後半年間は営業を中断せざるを得ない状況に。その年の夏から営業を再開したが、その時のことを代表の松本博憲(まつもと・ひろのり)さんはこう振り返る。

「ここに戻れるようになったのは2011年の8月ごろ。再開したはいいけど、隣町には人がまだいない状況だったし、お客さんはもう集まらないかもしれないと思いましたね」。

しかし、同年12月、あるミュージシャンのライブ開催をきっかけに、再開への意欲を取り戻すことになる。

「昔、ELLEGARDENというバンドをやっていた細美武士さんが、当時ギター1本で被災地のライブハウスをまわって無料のライブをやっていたんですよ。もちろんここにも来てもらって、そしたら、やっぱり人気のある人だから、400人くらいお客さんが来て。それを見て再開しようという意欲が出てきたんです」。

細美武士さんは2011年以降も、12月24日になると毎年クリスマスライブをここで開催する。2018年で7年目にまでなった。また、これをきっかけに知名度のあるミュージシャンたちが、ライブハウスを訪れるようにもなった。

「いろんなミュージシャン同士で声をかけてもらったりして、そうすると、知名度が上がって大物バンドがたくさん来てくれました。若い子に有名なバンドだとHi-STANDARDやTHE BACK HORN。あとは、ゴスペラーズも来たなぁ」。

当初は「なんでこんな人たちがここでやってくれるの?」という驚きもあったそうだが、現在も継続して数多くのミュージシャンたちがこのライブハウスを訪れている。取材した日のすぐ後にも、全国的に知られているバンドのライブが控えていた。

松本さんは南相馬にライブハウスがあることの意義を、地域と音楽の関係性とともに教えてくれた。

「ここがオープンして2年経つくらいまでは、南相馬でライブができる大きなホールはなかったんです。今でも、小中規模のライブをするならここくらいですね。もともとこの町って音楽といえば“来る”のではなく“出て行く”町ではあるんですよね。近くの仙台とかいわきとか郡山に出て行っちゃうから。まずここに来るってことがなかった。だから、このライブハウスがあって、ミュージシャンが身近に来たということは、大きなことなんです」。

ライブには、まずは地元の人に来てもらいたい。そんな思いから、人気バンドのライブが開催される時は、地元の人向けにチケットを1週間先行して販売し、一足早く購入できるようにすることもあるという。松本さんはライブを続けることで、地元の人たちにまずはここを知ってもらえればと願う。

「有名な人に来てもらうことで、地元の人にもこういう場所があるってことに気付いてもらえるでしょ。そしたら、音楽やろうかなとか、見ようかなとか、そういう気持ちが出てくるかもしれないですよね」。

サウンドファクトリースタジオ、そして、バックビートは、南相馬に音楽を届ける役目を担っているのだ。

(2018/12/11取材)

  • 取材:石川ひろみ
    執筆:酒井瑛作
    撮影:小林茂太
  • サウンドファクトリースタジオ
    〒975-0039
    福島県南相馬市原町区青葉町2-6