INTERVIEW

インタビュー

町の「やどり木」を目指して。広野町にオープンする交流スペース「ぷらっとあっと」代表・大場美奈さんの思い。

大場美奈

出身地:福島県いわき市
勤務先:多世代交流スペースぷらっとあっと
勤務期間:2020年〜
年齢:27歳

2021年4月にオープンする広野町の多世代交流スペース「ぷらっとあっと」の共同代表を務める大場美奈(おおば・みな)さん。「広野町にひとが集まる場所を作りたい」という思いをもった3人で立ち上げた同施設は、自由に利用できる「休憩スペース」、まちのひとがやりたいことを形にする「イベントスペース」、ヨガやパソコンなどの「習い事教室」3つの機能を兼ね備えている。
大場さんは、専門学校へ進学するために地元いわき市から上京。その後、就職を機に広野町へ移り住んだ。一度は「修行のため」と町を離れたが、2019年から再び広野町での生活をスタートさせた。大場さんが「ぷらっとあっと」を立ち上げるまで、そして、「ぷらっとあっと」のこれからについて話をきいた。

広野町へ恋をした

福島県いわき市出身の大場さんと広野町との出会いは、就職活動のタイミングで広野町役場に「拾われた」ことだった。地元いわき市の高校を卒業した後、東京の救急救命士の専門学校へ進学した大場さんだが、同時に「地域と関わる仕事をしたい」という気持ちがあった。専門学校を卒業した後の進路をどうしようかと悩んでいる時期に広野町役場の求人と出会った。入職後は税務課の職員として2年間勤務。入職と同時に広野町での生活をスタートさせた大場さんは、その間に「広野町に恋をした」のだという。

「綺麗だなぁ、と思えるものがこの町には沢山あったんです。みかん畑とかバナナがなっている景色といったちょっとした風景なんですけど、東京やいわきにいたときには感じることのできなかったもので。それからこんなに素敵なまちに住んでいるのはどんな人たちなんだろう、 と人に興味を持つようになって、次第に広野町のことばかりを考えるようになりました」

そんな大場さんだが、広野町役場を退職し広野町を離れ、山形県の南陽市に移住をした。広野町でまちづくりの仕事に関わるにはまだ知識と経験が不足していると感じたからだ。「恋は盲目」というが、広野町に恋をした大場さんの判断は冷静だったというわけだ。南陽市では地域おこし協力隊として2年間活動。地域の課題を解決するための試行錯誤を重ねた。

大場さんが立ち上げた「ひまわり教育」プロジェクト活動時の写真

協力隊として活動を始めてから2年がたった頃、一升瓶に入ったワインを抱えて、広野町から大場さんの元に訪れたふたりの人物がいた。それが「ぷらっとあっと」の運営メンバーである青木さんと磯辺さんだった。「一緒に広野を良くしよう。帰ってきてくれないか」そんなふたりの情熱に心を動かされた大場さんは、広野町へと戻ること決意。2019年、再び広野町での生活がスタートした。

広野町に戻った大場さんが感じたのは「広野町の人は、町の外から来た人と接する機会が少ない」ということだった。そこで大場さんは人が行き交うきっかけとなるようなゲストハウスを立ち上げることを思いつく。しかし、そのアイデアを町の人にプレゼンしてみてもあまり反応は芳しくない。町の人が本当に求めているものはなんなのだろうか? 大場さんは、町の人の声を丁寧に聞くことから始めた。ヒアリングを続ける中で気づいたのは、町の外だけでなく町内の人々が交流できる場がないことだったという。

「話をしていて感じたのは町の人は『発見の機会』を求めているということでした。やりたいことがあってもどうしたら良いのかわからない人、アイデアはあるけど実現するきっかけがない人が沢山いたんです。この町に足りなかったのはその『やりたい』を形にするための場所でした。そこで、共同代表を務めるメンバーと協議した結果、交流施設、イベントスペースを含んだ複合的な施設をつくることしたんです。」

こうした広野町の人々の思いが「ぷらっとあっと」を形づくる骨格になった。

「ぷらっとあっと」制作中の様子

輝きのある町は、子育て世代が活き活きとした町

大場さんが広野町の人の話を聞く中で、とくに気がかりだったのはお母さん世代だという。

「町のお母さん世代はやりたいことがあるのに、育児に追われて思うように時間をとれないまま、自分の気持ちを押さえつけていたんです。疲れている様子の方に『最近いつ1人になりましたか?』と聞くと『なってない』と。お母さんである前にひとりの人間、ひとりの女性じゃないですか。自分でいられる時間をつくらずに過ごしていたら心が乾いてしまうよって、お母さんたちに言ってあげたかったんです」

そうした思いから大場さんは「ぷらっとあっと」のイベントスペースでナイトヨガイベントを開催。町で暮らす多くのお母さんが参加をしてくれたという。

「こういうものを求めていたのだな、と手応えを感じましたね。それに今度、こんなイベントやるよって声をかけると、みんな『いついつ?予定空けとくから!』ってすごい食いついてくれて(笑)活き活きした顔が本当に嬉しかったですね。 」

さらに大場さんはこう続ける。

「子育て世代の生活がもっと充実していなければ次の世代にとって輝きのない町になってしまいます。ただでさえ、広野は小さい町。役場だけでは子育て世代への支援を十分に行うことも、時には難しいかもしれません。だからこそ、ぷらっとあっとが力になれればと思っています」

「ぷらっとあっと」は大きなとまり木でありたい

現在ぷらっとあっとは2021年4月のオープンに向けて準備中だ。大場さんやスタッフが音頭をとり、町の方々を巻き込みながら日々建物のDIYに取り組んでいる。ぷらっとあっとは今後、この町の中でどんな存在に育っていくのだろうか。

「広野町は国道が通っているので、人はたくさん通るんですけど、みんな立ち寄ることなく通過してしまうんです。それって町にとってはすごくもったいないことですよね。こんなにいい町だから、訪れてくれさえすればきっと好きになってもらえる。そのきっかけとなる、町のとまり木のようにしていきたいですね」

恋をしたまちの土地を耕し、根を張り、大きな木に育っていくよう水やりを続ける大場さん。大好きなまちの景色と共に、まちの止まり木として、きっとたくさんの人を広野町へと導いてくれるだろう。

(2021/01/26取材)