INTERVIEW

インタビュー

家のようにリラックスできるホテル 浪江町「ホテル プレジール・なみえ」の思い

復興を後押しするために2020年にオープンした「ホテル プレジール・なみえ」は、浪江町に訪れる人を温かく迎え入れてくれます。

「家にいるような気持ちでくつろいでほしいんです」

こう話すのは、総支配人の齊藤尚志さん。「ホテル プレジール・なみえ」は、どのような思いでこの町で宿泊業を営んでいるのでしょうか。齊藤さんにホテルの成り立ちから、今後町とともにどう歩んでいきたいかまでお話を伺いました。

ホテル プレジール・なみえ

総支配人 齊藤尚志さん

「おかえりなさい」くつろげるホテルを目指して

国道6号線沿いに建つ「ホテル プレジール・なみえ」は、復興に向けて従事する人々をサポートしようと2020年8月にオープンしました。

2011年東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故のため、全町避難となった浪江町。町の一部地域に戻れるようになったのは、それから6年後のことです。2017年3月に帰還困難区域の一部の避難指示が解除され、復興に向けた歩みが進められてきました。

それにともない、多くの建設作業員も出入りします。しかし当時は、宿泊できる施設が限られていたため、長距離を通って復興作業に来る人も少なくありませんでした。

そこで「復興に向けて従事する人々をサポートしたい」と設立されたのがこのホテルです。

ホテルはシングルルームが全60室。大きく開放的な窓とゆったりとしたセミダブルのベッド、大型テレビなど、生活必需品がひと通り揃えられた空間は安らぎを与えてくれます。

「ここは長期で宿泊する方が多いので、リーズナブルでも快適に過ごせることを重視しているんです」と話すのは、総支配人の齊藤さん。

特に大切にしているのが、お客さまとの距離感だと齊藤さんは言います。「家にいるような気持ちでくつろいでほしいので、長期で宿泊されているお客さまには『おかえりなさい』と自然に挨拶しちゃいますね」

海外のホテルで働き、浪江町へ移住

総支配人をつとめる齊藤さんは、2021年10月に浪江町へ移住しました。東京生まれの齊藤さんが、人口の少ない浪江町に移住することに不安がなかったのかと伺うと、面白い経歴を教えてくれました。

「実は引っ越しを20回以上しているので、移住に対してハードルを感じることはありませんでした。アメリカの大学を卒業後はタイやマレーシア、台湾、ニューカレドニアなど各国のホテルで、営業やバーテンダーを勤め、10年以上海外を転々としてきました」

そんな齊藤さんですが、ホテル業界で働くうちにある思いが膨らんだのだそうです。

「ホテルの営業ではなく“現場”で働いてみたいと思うようになりました。そんなときに知り合いから声をかけられたのがこのホテルです。そのときは海外から戻り千葉で働いていたのですが、自分のやりたいことにマッチしていたことが決め手で浪江町への移住を決心しました」

長年の海外暮らしに比べて刺激が足りないのでは?とふと頭に浮かんだ疑問を聞いてみると、意外にも浪江町での暮らしは「充実している」と話します。

「町の規模は小さいかもしれませんが、だからこそ住みやすさを感じています。私は浪江駅のすぐそばに住んでいるので、徒歩圏内にスーパーや飲食店もあります。東京に比べて車の渋滞がないので快適にドライブできますし、特に不便に感じるようなこともありません。近所の図書館へ行って本を読むのが、週末のお気に入りの過ごし方です」

気持ちよく働ける環境は、お客さまのため

齊藤さんがホテル業界に入ったきっかけは、学生時代のアルバイトでした。バブル絶頂期に宴会場でバイトをしたことで接客の楽しさに気づいたと言います。

それに反して、お客さまに寄り添ったサービスが手薄だった、当時アルバイトをしていたホテルの体制に不満も感じました。

「自分がホテル業界を変えていきたい」

こうしてホテル業界に長年身を置くこととなった齊藤さんですが、営業スタッフ時代の失敗から気づいたことがあると言います。

「営業部長になったとき、怒ってばかりで従業員を泣かせてしまうこともあったんです。チームのパフォーマンスは上がらず、何がいけないんだろうと苦心する日々でした。部下を持つ前から『いい上司になる』ビジネス本は勉強のために読み込んでいたのですが、8割方『褒めること』と書いてあるんです。でも僕は、自分が褒められてもうれしいと思わないタイプなので、正直ピンと来ていませんでした。ですが、試しに実践してみることにしたんです。そうしたら、スタッフのモチベーションがどんどん上がっていくのがわかりました」

それからというもの齊藤さんはスタッフに対して怒ることはせず、伝え方に配慮するようになったそうです。「従業員が気持ちよく働ける環境が、ひいてはお客様へのサービス向上につながると思っています」と笑います。

「ホテルプレジール・なみえ」では、他県からの就労も積極的に受け入れ、希望者がいればオンライン面接を行っているそうです。移住をともなう場合は、町や行政からの支援が手厚く受けられるため、そういった相談や紹介も行っています。

目まぐるしく変化し続ける浪江町

現在、浪江町は「福島水素エネルギー研究フィールド」や「福島ロボット・テストフィールド浪江滑走路」が建設されるなど、先進的な復興まちづくりが行われています。さらに、JR浪江駅周辺では、隈研吾氏らがデザインを担当する駅前再開発が計画されています。

めまぐるしく変化する町で、齊藤さんは何を思うのでしょうか。

「復興はいつか終わりが来ます。終わりが来ることが正解なんです。今は復興を目的に、建設関係の方たちから需要のあるホテルですが、今後はお客さまの層も変わっていくかもしれません。ですので、これからのマーケットに合わせて大浴場やジムなども設置していきたいです。町の変化とともに、ホテルとしての姿もしなやかに変化させていきたいですね」

町を訪れたとき、ほっと安らげる場所がある。それは、どんなに町が変化していっても大切なことではないでしょうか。「ホテル プレジール・なみえ」は家のように心地良く過ごせるホテルを目指して、今日もお客さまを温かくお迎えします。