INTERVIEW
インタビュー
小規模でも事業多角化。様々な人が働き続けられる環境を提供する「エムテック・サプライ」
有限会社エムテック・サプライ
小丸勝明さんが1998年に創業したエムテック・サプライという会社を、「〇〇屋さん」と一言で説明するのは少し難しいかもしれません。ホームページに記された業務内容を見ると、土木工事業務、記帳代行・事務代行サービス、計器調整、プラント設計、派遣業務と、多様な事業が並んでいます。小丸さんによれば現在、これらに加えて花卉やキクラゲの栽培など新規ビジネスのアイデアも模索中とのこと。その背景にはどんなストーリーがあるのでしょうか。故郷・南相馬への愛情に支えられたこれまでの道のり、そして目指す会社の姿について伺いました。
震災・原発事故を経て土木事業に参入
小丸さんはもともとサラリーマン。エムテック・サプライを立ち上げる前の十数年間は原子力発電所関係の会社に勤務し、計装士として計器調整の業務に携わっていました。30代初めに独立を決めたとき、同じ仕事を生業とすることは自然な選択だったと言います。
「とはいえお客さんもコネもゼロ。まったく無計画でしたね(笑)。前職の会社から見れば『競合』という立場になったこともあり、なかなか最初は大変でした」
しばらくは一人きりで奮闘した小丸さんですが、多くの人の応援を得ながら少しずつ事業を拡大。2011年の東日本大震災当時は、奥様(専務)が担当する記帳代行サービスも含めて20名近いの従業員を抱え、福島第一原発や女川原発にも常駐スタッフを派遣していたそうです。
地域に大打撃を与えた震災・原発事故の後は、地元の復興に寄与したいと、早くも同年11月から除染業務に従事。ピーク時は100人以上の作業員を集め、南相馬市全域および飯舘村で作業にあたりました。まだインフラ復旧もままならない中、文字通り全国から人材を受け入れ、未経験の除染業務の采配をふるったご苦労は想像に難くありません。
2017年に入ってその除染業務が終盤を迎えると、小丸さんは次の一手として、従来からの計器調整やプラント設計、記帳代行に加えて土木工事への進出を決めます。
「除染の仕事が終わっても会社に残ってくれるという従業員のために、それなりの環境をつくらなければなりませんでしたから。社内にたまたま土木の経験者がいたこともあり、重機購入など必要な設備投資を行って、最初は(南相馬市)小高区の田んぼのU字溝入れから始めました」
人が辞める原因は人間関係。だからコミュニケーションを大切に
そうしてスタートした土木の仕事は、現在ではエムテック・サプライの主要事業のひとつとなっています。
「今でも主な現場は南相馬市内が中心です。うちは現場への直行直帰はしません。朝は全員事務所に集合して健康チェックを行ってから出発し、夕方もみんな揃って事務所に戻ります」
そして一度現場に出た従業員に対して小丸さんは、「ああしろ、こうしろとは言いません。なるべく口を挟まず、すべて現場に任せている」のだそう。こうした従業員への信頼は、現場責任者(職長)の教育に注力していることに加え、「自ら考えて行動せよ。何かあれば社長の自分が腹を切る」という、武士の血を引く小丸さんの覚悟から生まれるものでした。
「従業員の成長は会社の成長」と語る小丸さん。その従業員17名(2023年3月現在)は30代から60代、出身地も地元南相馬だけでなく、市外・県外から来た人もいるそうです。そんな多様なメンバーが集まる会社の雰囲気を、マネージメントディレクターとして社内を統括する坂入早有美さん(取締役)は「アットホーム」と表現します。
「居心地がいいと言ってくれる人は多いですね。社長も専務も困っている人を見ると放っておけないタイプ。特に専務(小丸社長の奥様)は、寮住まいの従業員に手作りの惣菜を持たせたりするような世話好きなんです。だから家族みたいな雰囲気なのかもしれません」(坂入さん)
それでも、筋が通らないことに対してビシっと怒るときの小丸社長は「めっちゃ怖い」という評判なのだとか。その評に対して、「自分は短気なので」と笑う小丸さんですが、次のお話を聞けば、ご本人こそ社内のコミュニケーションに人一倍心を砕いていることがわかります。
「人が辞めていく原因は、仕事そのものよりも人間関係の場合がほとんどでしょう。自分もそうでした。実は社会に出てから20回も転職を経験したのですよ。独立直前の会社には13年勤めましたが、それは人間関係がよかったから」
エムテック・サプライでは、普段の「飲みにケーション」も含め、お花見やバーベキュー大会など社内イベントが多いそうですが、これも小丸さん自身の経験に基づく「人間関係の円滑化」を意図したものなのでした。
小丸さんの趣味はバイク。40年以上乗っている愛車はマニア垂涎もの。今も仲間とツーリングに出かけるそうです。
「大きな会社の小さな歯車より、小さな会社の大きな歯車になれ」
そんなエムテック・サプライのもうひとつの特徴は、事業の多角化を進めてきたからこそ、社内でのキャリアチェンジが可能だということです。
「たとえば、土木工事の現場を経験してみたけれど、やはり自分はパソコンを使う仕事の方がいいと思ったら、そういう職種に変わることも可能です。実際にそうやって部署を異動した人もいます」(坂入さん)
つまり、この職務は自分に合わないとわかっても会社を辞めずに違う仕事に挑戦できるということ。これは、この規模の会社としてはおそらくかなり稀な環境ではないでしょうか。また、小丸さんがこの先、土地を生かした農業の可能性も含めてさらなる多角化を検討しているのは、「どんな状況でも雇用を確保できる環境をつくるため」だとも言います。
「計器調整や土木工事はどうしても元請会社あっての仕事なので、元請に頼らず自社で動けるような事業もつくっていきたい。また、年齢的・体力的に土木現場が難しくなった方でも続けられるような仕事も考えていきたいですね。従業員にも常にアンテナを張って情報収集し、アイデアを出してほしいと伝えているし、提案が採用された人にはインセンティブも用意しています」
また坂入さんによれば、近年は土木や計器調整以外の「人材派遣業や事務代行・記帳代行でもお客様が増えている」とのこと。現在3名いる女性の事務職員は全員が記帳代行などの顧客を受け持ち、「自分の給料は自分で稼いでいる」のだそうです。
事業拡大に向けて人材募集中のエムテック・サプライでは、事務所から10分ほどの場所に寮(一軒家をシェアするスタイル)も用意しており、遠方からの移住者も歓迎しています。求める人材について、小丸さんと坂入さんに伺いました。
「大きな会社の小さな歯車でなく、小さな会社の大きな歯車になりたい、と思う人に来てほしいですね。うちは小さい会社だけど、一人ひとりが役割を持ち、存在感を発揮して大きな歯車になっていけば、会社も強く大きくなれる。だから、従業員の成長は会社の成長なのです」(小丸さん)
「向上心・探究心がある方がいいですね。各種資格取得の支援制度も充実させていますので、スキルアップを目指して学ぶ意欲のある人は全力でバックアップします」(坂入さん)
若いころ職場の人間関係で悩んだ経験、独立後ゼロからスタートした苦労。そして震災と原発事故後を生き延びるために潜り抜けた苦難。変貌していく地域の姿を目の当たりにしつつ、きっと小丸さんの胸には多くの思いが去来していることでしょう。それでも家族の力をあわせ、家族のような従業員と一緒に南相馬で挑戦を続ける理由は、「ここが自分の生まれた故郷だから」。
地域がさらに元気に活気づく姿を目指し、エムテック・サプライは前進を続けます。
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取材、執筆 中川 雅美(良文工房)
撮影、コーディネート 中村 幸稚 -
◆有限会社エムテック・サプライ
https://www.mtec-supply.co.jp/
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