INTERVIEW

インタビュー

非日常から日常へ。南相馬との距離を縮めてきた日々の中で起きた変化

蒔田志保さん

年齢:25歳 
出身地:愛知県
勤務先:一般社団法人オムスビ  
勤務地:南相馬市  
勤務期間:2018年~

愛知県出身で京都の大学に進学した蒔田志保(まきた・しほ)さん。2018年、結婚を機にご主人が暮らす南相馬市原町区に移住してきた。現在は同市内の小高区のカフェで接客の仕事に就いている。だが、彼女が南相馬での暮らしを決断するまでには様々な葛藤があったという。移住に至るまでの心境の変化や、現在の暮らしぶりについてお話を伺った。

南相馬への移住を一度は断念

大学生時代に震災に関わるボランティア活動を通して南相馬を訪れるようになったという蒔田さん。
「子どもたちの支援活動で来ました。喜んでもらえるのは嬉しかったし、私自身も楽しんで参加していました」。

現在のご主人との出会いもあり、卒業後は南相馬での就職も視野に入れていた。転機になったのは約1ヶ月のインターン生活。当時の小高はまだ避難指示(※)解除前の時期。閑散とした町の様子とそれでもこの町に帰ってきて住み続けるんだという強い思いを持つ人たちの姿に、大きなショックと自分の考えの甘さを感じたという。

「誰かの役に立ちたいという気持ちだけで南相馬に移り住んでも、自分が幸せになれないと思ってしまったんです」。

その時は、南相馬に移住することを断念し、愛知県で飲食店の会社に就職したそうだ。

今なら暮らせる、そう思い移住を決断

愛知県で勤務しながらも、南相馬との交流は続いた。仕事をしながら定期的に南相馬に通い、人とのつながりも広がっていった。

「少しずつ知り合いも増えていきました。町の変化を点ではなく線で感じることができたのが大きかったですね」。離れたところから南相馬の人との出会いや町の変化を感じていくことで、徐々に蒔田さんと南相馬の距離は縮まっていく。元々、結婚するなら蒔田さんが南相馬に行くことは決めていたという。「役場勤めをしている夫の地元への強い思いは知っていましたから」。今なら南相馬で幸せになれる!南相馬での暮らしが「非日常」ではなく、「日常」として自然と描けるようになったことで、2017年に結婚と移住を決断した。

お客さんとの距離の近さが仕事の面白さ

小高駅の駅前通りにあるカフェ「Odaka Micro Stand Bar(=通称:オムスビ)」が蒔田さんの職場だ。ちょうど移住するタイミングとカフェのオープンの時期が重なり、代表を務める森山さんから「一緒に働こう」と声をかけてもらったのがきっかけだという。

「私にとって接客業は天職だと思うくらい好きな仕事です!以前は、忙しくて一人ひとりのお客さんをゆっくり接客する時間をとることが難しかったのですが、ここではお客さんとの距離感の近さを感じています。どこに住んでいるとか、この場所は昔はどうだったとか、趣味は何とか、お話しする時間が圧倒的に増えました」。

お客様との何気ないやり取りの中で町の良さを改めて知ることができるのが面白さだという。

「カフェでする会話って学校の制服の話や花がきれいに咲いた話など普段の暮らしのことなんですよね。数年前までは閑散としていた町で、そういう話ができることが驚きであり楽に暮らせている要因なのかもしれません」。

蒔田さん自身の日常が南相馬にあることを物語っているエピソードだと感じた。

これから先も楽しみがいっぱい

南相馬に移り住んで2年。この町でやりたいことがたくさんあるという蒔田さん。

「カフェの仕事の他に、フリーランスとして自分一人で稼げる働き方に憧れています。今はカフェの仕事の傍ら、ライターとして相双地区のWEB新聞にも寄稿させてもらっています。 新商品の開発や学生、住民の方と一緒に、暮らしを豊かにするいろんな取り組みをしたいです。お店に来てくれるおばあちゃんにお花をを習ったり、お料理を教えてもらったり…そういうことを一人占めするのではなく、シェアしていけるような場づくりをしていきたいです」。

何気ない日常を楽しみながら、新しいことに挑戦したり今の環境の中でやり方を工夫したりと、日々できることを増やしている。

最後に今の蒔田さんにとって南相馬はどんな町に映るのか聞いてみた。

「よく、若い人が戻ってこないなんて言われますが、私の周りは全然そんなことありません!この間もお店に来たお客さんが年も趣味も同じで友達になりました。人間関係が寂しいのかなとも思いましたが全然楽しめてるぞ!って思います。将来的にここで子育てをすることに関しても、子どもの数は少ないかもしれませんが、裏を返せば気にかけてくれる大人が多いということだと思っています」。

はつらつとした蒔田さんを見ていると、本当に毎日を楽しんでいる様子が伝わってくる。充実した移住生活を送るコツは、自分の幸せのために動くことなのかもしれない。

※東京電力福島第一原子力発電所事故に伴い、同原発から半径20㎞圏内と、圏外で放射線量が高い区域が設定され、国により立入りなどが制限された。

(2019/2/5取材)

  • 取材・執筆:七海賢司
    撮影:舟田憲一
  • Odaka Micro Stand Bar
    〒979-2121
    福島県南相馬市小高区東町1-67
    詳細ページ: https://www.xn--kck4a0e4b.com/