INTERVIEW

インタビュー

米づくり一筋の農業青年が、トマト栽培の道へ

川上祐輔さん

年齢:30歳 
出身地:富山県
勤務先:南相馬復興アグリ株式会社 
勤務地:南相馬市原町区 
勤務期間:2015年~

兼業農家の家庭に生まれ、農業高校へ進んだ川上祐輔(かわかみ・ゆうすけ)さん。卒業後は、富山県の精米機メーカーへ就職し、有機栽培の米づくりから販売までの仕事を経験してきた。お米一筋だった川上さんが、トマト菜園を運営する南相馬復興アグリ株式会社へ転職をして、トマト栽培をすることになった経緯とは?

新たなチャレンジのため富山から南相馬へ

南相馬へ来る以前は、富山の精米機メーカーで営業・サービスを担当し、さらに、農場長として有機栽培でお米づくりも行なっていた川上さん。しかも、両親もお米の農家というから、まさに稲作一筋の人生だった。そんな彼がお米からトマトの道へ進んだ背景には、ある出会いがあった。

「以前勤めていた会社に入社する時に、NPO法人 民間稲作研究所で学んできてほしいと言われ、1年ほど研修を受けたんです。そこで豊田さんという方と出会って、将来的に一緒に農業をやりたいと話すまでの仲になりました。彼は、南相馬市鹿島区の出身。何度か南相馬に遊びに行ったことがあったのですが、知り合って7、8年経ったころ『次のステップとして、南相馬復興アグリでトマト栽培をやらないか』と誘われました」。

いつかは自立して、一から自身の力で農業を立ち上げる。将来の目標を共有する友人の豊田さんからの誘いは、目標に近づくための次なるステップだった。さらに、彼が住む南相馬へ何度も足を運ぶことで、ここで何かできることがあればという想いも生まれた。

「南相馬で何か自分でもできることがあるといいなと思っていました。だけど、僕一人があがいても逆に迷惑がかかるとも思っていて。まずは仕事や住むところを見つけて、自分の身の回りのことをきちんとやってから、まわりの人たちに何かできないかな、と。そんなことを考えていたので、南相馬で仕事として農業をできるのはいいなと思ったんです」。

これからは自分のやりたいことをやる

稲作一家で育った川上さん。トマトの道を進むこと、そして、移住することに対して両親はどう思っていたのだろうか。

「親に反対されることはなかったですね。むしろ、農業高校に通っていた頃の方がいろいろと親に反対されていたことが多くて、いままでは親の言う通りに育ってきていた部分はありました。今回、自分から『こういうことやってみたいんだ』と話をしたら『いままで縛ってきたからこれからは自由に生きていいんじゃないか』と背中を押してくれましたね」。

その後、誘いを受け、2015年4月に南相馬へ移住することになる。入社のタイミングは、南相馬復興アグリの立ち上げ期。まずは1ヶ月ほど研修を受けトマト栽培を学び、立ち上げに尽力した。現在は、菜園ではトマトを育てる「栽培」を担当し、スタッフを束ねている。仕事の効率も徐々に上がってきているそうだ。

「初年度は諦めざるを得ないことがたくさんありましたが、次の年では、予定した工程の通りに終わるようになって。今作は、かなりスピードが上がって、少しずつですが、効率よく仕事ができるようになってきています」

菜園での学び。周りへの影響も

今では立ち上げ参画メンバーとして"古株”となりつつある川上さんだが、いままで経験したことのなかった初めての部下もつき「逆に日々勉強させてもらっています」とまだまだ学ぶこともたくさんある。

「若いスタッフの子が2人いて、人それぞれ捉え方が違うので、2、3パターンくらい教え方を用意するのですが、それにもメリット、デメリットがあるみたいで。『私はそれ聞いてないわ』という意見も時々聞こえてきたり(笑)。なかなか人に指導するって難しいなと思っています。でも、どんなときも怒らないように笑顔は心がけてますね。農業ではこれが結構大事なんですよ」。

トマトの影響は、川上さんの家族にも広がっているそうだ。

「僕がトマトをつくっていることに影響されたのか、両親がトマトの畑を始めたんです。両親はお米の農家なので、トマトは初めてみたいで。なので、実家に帰った時でも『これはどうすればいいんだ』と、トマトの話ばかりになりますね(笑)」。

自給自足生活の夢

南相馬に来てから川上さんには、さらに具体的な夢ができた。

「いつか自給自足をやってみたいんです。野菜全般に興味があるので、育てられるといいなと。あとは、畜産もいいですね。これは、こっちに来てから考えるようになりました。仕事ではなく、生きるために必要な作業をするのって面白いんじゃないかなって」。

もちろん、南相馬復興アグリでもやることはまだまだたくさんある。

「将来的には、今やっている業務だけではなく、ここでできる業務はすべてやってみたいです。そこまでやって一人前だと思うので。順番にやっていければいいなと思っています」。

「今は、いままでよりも農業に没頭できている」と話す川上さん。話を聞いているうちに、畑で何種類もの野菜を育て、まわりをニワトリが走りまわっているイメージを簡単に想像することができた。農業一筋な川上さんであれば、いつかきっと自給自足の夢を実現できるはずだ。

(2018/12/11取材)

  • 取材・執筆:石川ひろみ
    撮影:小林茂太
  • NPO法人 民間稲作研究所
    詳細ページ: https://inasaku.org//