INTERVIEW

インタビュー

今、富岡町に活力を。図書館で働く若き司書が目指すこと

東山恵美さん

年齢:28歳 
出身地:東京都
勤務先:富岡町図書館 
勤務地:富岡町 
勤務期間:2018年~

東京の図書館で司書として働いていた東山恵美(ひがしやま・めぐみ)さん。富岡町の町立図書館が再開となるタイミングで司書として移住してきた。図書館の空間そのものが好きだと語る彼女が、はるばる移住した理由とは?お話を聞いた。

図書館は自由な空間

東山さんは、大学在学中に「これを一生の仕事にできたら素敵だ」と、図書館で働くことを志すようになる。そのきっかけとなったのが、司書の資格を得るために勉強していた「図書館学」だ。そこで描かれる図書館の姿に強く惹かれたという。

「私が一番いいなと思ったのは、図書館って本を読むだけじゃなくて、目的がなくても来れたり、集まって話ができたりして、誰でも出入りができるすごく自由な空間だということ。世界中のことがあって、過去も現在も未来もある。無料で入れて情報格差のない場所ですよね。そういうところは他にはない場所じゃないかなと思って」。

大学卒業後は、都内の図書館で司書を務めることに。

「当時は嘱託職員という形で非正規雇用でしたが、いろいろな経験を積むことができました。カウンターに出て利用者さんの応対をしたり、イベントの企画や運営をしたりとかですね。児童担当になった時は、おはなし会をやりました。ハンディキャップ担当になると、障がいのある方のお手伝いも」。

「一生の仕事」としての司書

この仕事をずっと続けたいと感じていた東山さんは、正規の職員として働くことのできる図書館を探すことに。それと同時に、図書館司書として働くことの大きな責任も感じていたという。

「図書館司書は、約6割が非正規職員と言われているんです。その中で、自治体が正規の司書として採用することはとても少なくて。しかも、自治体職員になるということは、その土地の人になるということでもあって、もう根を張っていくことになるなと。なので、行った先の土地で、自分でも意味を持っていられる場所を探していました」。

生まれ育った場所を離れることになるかもしれない。そのことに不安はなかったのだろうか?

「本当に司書でやっていこうと思ったら、対象は全国に広げないといけない、その覚悟はありました。ただ、やっぱり住み慣れた街を離れて出ていくということに対して、自分の中でそれ以上の重い意味を持つものを探していましたね」。

そして、全国の募集を見ていく中で富岡町の募集を見つけ、「ここかもしれない」と感じた。

「誰でも来られてお話できて、私が好きな図書館の空間が、この場所で求められているんじゃないかなと感じました。そして、そのために私が一生懸命やれると思えたんです」。

富岡町の風に惹かれ「住める」と思った

富岡町の図書館で働く。心は決まったものの、やはりまだ不安もあった。応募するかどうか迷いがある中、一度、足を運んでみることに。

「その時の富岡町は、今よりは車通りが少なくて、学校もまだ再開していなかったので、子どもの声もしなくて。荒涼とした感じだったのですが、ふと『住めそう』と思ったんです。いけそうかなって(笑)。海の近くに住んだことはなかったのですが、風の感じとか、特有の土地の香りや雰囲気を感じて、暮らしていけると思いました。それに、まっさらだからこそ、これからいろんなことがどんどん生まれていくんだろうというイメージを持てたんです」。

実際に土地の風土に触れることで、具体的なイメージが湧き、不安よりも「やりたい」という気持ちが大きくなった東山さんは、応募を決め、その後、面接を受けることになる。

「ちょうどクリスマスが面接で。その日はめちゃめちゃ風が強くて電車が止まるくらいでした。面接で印象的だったのは、面接官の方の質問が聞き取れなくて、何度も聞き返してしまったこと。気まずかったですね(笑)。その時は、質問の答えとして『人が集まる企画がしたいです』ということをお話して。働いてみると、そんなことはまだまだ先になるなということが分かったのですが、その時は何かを感じていただいて採用していただきました」。

移動図書館でより多くの人に本を届ける

図書館ではどんな仕事をしているのだろうか?この地域ならではの課題と取り組みについて話してくれた。

「”足がない”ということを住民の方がよく言われていて、来たくても難しい方がいる。そういうことがあったので、来れないなら行こう、と。新しい企画として移動図書館を始めることにしました。月に1回、車に600冊くらい積んで、町内や多くの町民の避難先であるいわき市内を回ります」。

いわき市を訪れる際は、本とともに町の様子を伝えるものも持っていくようにしている。夏には、8年ぶりに復活した富岡町の伝統行事「麓山(はやま)の火祭り」の写真をスライドショーで投影した。

「写真を見て『おれも参加したなぁ』と懐かしがって昔の話をしてくれた方もいて。そういう時に、やってよかった、来てよかったなと思いますね。あとは、『借りられてよかった』と言ってもらったり、1冊の本を囲んで何人かでおしゃべりしたりしている様子を見るとうれしいですね」。

図書館のあるべき姿

今後の目標は?と聞いてみると「利用する方が活力をもって充実した日が1日でも多くなること」と答えてくれた。その言葉には、図書館を背負う司書として、そして、この町にある図書館としての意義を考え続ける東山さんの想いが表れている。

「それが文化施設の使命かなと思っています。無気力になったりだとか、周りの人がここに帰ってきていないことに落胆したりだとか、そういうことを聞くのですが、やっぱり今が一番大事じゃないですか。今を作り続ける先にずっと繋がっていくものがあると思うので、今を少しでも充実したものにするということが、図書館の一義的な使命だと思っています」。

東京から富岡町へ来て「いままでで一番、図書館ってどんな場所なのかということを考えています」と話す東山さん。一生の仕事として取り組む彼女がいれば、きっと富岡町の図書館は町の人々にとってかけがえのない存在となるはずだ。

(2018/12/11取材)

  • 取材:石川ひろみ
    執筆:酒井瑛作
    撮影:小林茂太
  • 富岡町図書館
    〒979−1151
    双葉郡富岡町大字本岡字王塚622−1
    詳細ページ: http://www.manamori.jp/custom32.html//