INTERVIEW

インタビュー

南相馬で子育ての安心感づくりを! 子育ての不安解消のために奮闘した10年間

近藤能之さん

年齢:52歳 
出身地:南相馬市
勤務先:社会福祉法人福陽会よつば保育園(副園長)、NPO法人みんな共和国(理事) 
勤務地:南相馬市 
勤務期間:2009年~(よつば保育園)

南相馬市の子育て世代にとって頼もしい道しるべ的な存在が近藤能之(こんどう・よしゆき)さんだ。中学・高校を南相馬で過ごし、東京や北海道で教育関係の仕事に長年携わってきた近藤さんが南相馬に戻ってきたのは2009年のこと。故郷の大きな変化にどう向き合ってきたのか、お話を伺った。

親孝行のため、南相馬へ戻ることを決断

「僕の両親は南相馬で保育園を経営していました。4人兄弟の長男でしたが、とくに跡を継ぐように言われたこともなかったし、弟や妹が保育園の仕事をしてくれたので、好きなことをやっていたんです。それが40歳近くになった頃、戻ってきて一緒に保育園経営をやってほしいと両親から言われて。ちょうど転勤の話も重なっていた時期で、これからは人の会社のために働くより、親の仕事を大きくすることが親孝行にもなるのかなと思い、スイッチを切り替えることにしました」。

当時住んでいた北海道から南相馬に戻ってきたのが2009年のこと。保育園を運営する資格は在学中に取得していた。そして在職時代に幼児教育の重要さを感じていたという。「旧態依然の保育園では時代に取り残される」と、新しい形を導入した保育園運営に取り組んでいた矢先に、震災が起きた。

この町に残る選択をした人たちを支えたい

子育てに関わる仕事なだけに、影響はとりわけ大きかった。 「この地域の人たちは避難するのか、このまま残るかをそれぞれが決断しなければなりませんでした。今でもそうですが、ここにいて絶対大丈夫という言葉を言ったことはありません。答えが出るのは何十年か先になることかもしれません。それでも、ここで子育てを続ける人がいる限り、その人たちをどうやって守れるかを考えて動き続けてきました」。

「この町に残るという選択肢も間違いじゃなかった」。そう思ってもらえるよう、自分ができることをする。決断した近藤さんの動きは迅速だった。震災から2ヶ月後の2011年5月には隣の鹿島区に仮設の保育園を臨時開園。全国へ呼びかけ有志を募り、救援の手も求めた。保育園や乳幼児を持つ家の除染も行政に先駆けて行った。「誰かがやってくれるのを待っていて、苛立ったり依存したり、人のせいにしてしまうのが嫌だったんです」。

クラウドファンディングで子どもたちの遊び場をつくる

クラウドファンディングを活用し、子どもたちの遊び場づくりや安心して子育てをするための環境づくりを次々と行った。「2013年には地元の高見公園に水遊びができるじゃぶじゃぶ池を作りました。クラウドファンディングを活用したのは、お金がなかったことももちろんありましたが、外から見ている人たちがどれくらい子どもたちが外遊びをすることに賛同してくれるかを問いたい気持ちもありました」。

予想を超える支援金が集まり、今では毎年夏になると県外からも親子連れが遊びにくる人気スポットとなっている。翌年には子育て応援カフェ「37cafe@park」もクラウドファンディングで実現してみせた。「この町を離れた人がまた戻ってきています。震災後20人しかいなかった保育園の児童の数も今は200人以上います」。

少しずつ芽生えてきた安心感

「毎年保護者の方に行っている“気持ちのアンケート”で、去年あたりから今の生活は安心できるようになってきたという声がぐっと増えてきました。遊ぶ場所ができても、除染をしっかり行っていても、心を覆っていた不安感が溶けるのには時間が必要だったのだと思います。子どもたちの表情が明るくなった、と言われることが一番嬉しいですね」。

安心感という見えないものをつくるため、時に迅速に、時にゆっくりと丁寧に、子育ての環境づくりに取り組んできた近藤さん。それが出来たのは同じ方向を向いている保育園の職員やNPO等の仲間がいたからだという。
「目線の近いみんながいたからここまでこれたし、これから先もいろんなことを試せる土地だと思います。そういう意味では移住者の人たちが新しいことを始めるのにもぴったりなところだと思いますよ」。

子育て世代の移住希望者に向けて

近藤さん自身、南相馬への想いに何か変化はあったのだろうか? 「震災前は、町のことをあまり意識したことはありませんでした。でも、震災があったことでいろいろな人を町として受け入れる土壌ができたんじゃないかな。移住する人が増えてほしいけれど、いきなりだとハードルが高いだろうから、まずは週末だけとか、遊びに来るだけとか。年に一度の野馬追を見に来るだけでもいいと思うんです」。

最後にこの先、南相馬でやりたいことをこう語った近藤さん。
「冒険遊びができる場所や、自然や動物と触れ合える場所づくり、そして子ども食堂、移住者のコミュニティ創り…。まだまだたくさんありますよ」。

南相馬には安心した気持ちで子育てをしている人たちが確実に増えている。少なくとも近藤さんのような存在がいる限り、この町での子育ての将来は明るい展望が描けるのではないだろうか。

(2019/1/16 取材)