INTERVIEW

インタビュー

どんな立場の人でも「気持ちよく働ける場所」を地元に提供する 南相馬市のひばり警備、2代目の挑戦

株式会社ひばり警備

専務取締役 山田紘大さん

「歳を重ねても、障がいがあっても、安心して働ける会社が地元にある。そういう存在にな
れたらと思っているんです」と話すのは、南相馬市原町区に本社を置く警備会社「ひばり警
備」の専務取締役の山田紘大(こうだい)さんです。

「警備=固い仕事」というイメージを少しでも変えていきたい

ひばり警備は2006年、山田さんの父・山田実さんが立ち上げた会社。山田さんはいわゆる2代目ということになります。山田さんは東京の大学を卒業後に南相馬市にUターンし、23歳でひばり警備に入社。専務となった29歳の現在も、現場の各所に自ら足を運ぶ毎日です。

警備会社の仕事は大きく3つ。施設警備、交通誘導警備、雑踏警備(イベント現場の警備)です。ひばり警備では45人の社員の約半分が施設警備につき、半分が交通誘導警備・雑踏警備にあたっています。現場に出る前に20時間の警備に関する法定講習(新任教育)を受講してからの勤務となるので、経験、年齢、性別不問で働き始めることができます。

警備現場のエリアは、福島県沿岸部(浜通り)の、南はいわき市から北の新地町まで浜通り全域ですが、勤務先はなるべく社員の地元から近いところに配属するよう、心がけているそうです。

「弊社を志望した動機をヒアリングしたところ、地元の施設やイベントでひばり警備を見かけたので、という声が多かったのです。地元に根差した会社でありたいという思いと、勤務先までの通勤時間も考慮して、南相馬市在住の社員は南相馬の、相馬市在住なら相馬市の現場、というように配属しています」

警備の仕事は、24時間365日勤務の現場も多いのですが、ひばり警備では「シフト(勤務日数、勤務時間、希望休日)は、ほぼ100パーセント希望通りになるようバランスが取れています」と山田さん。社員のシフト管理も、専務である山田さんが行っているそうです。

「施設警備においては、現在、15カ所の現場があるのですが(2022年12月現在)、そのすべてに足を運び、社員に声掛けしたり、話を聞いたりしています。社員の現状を把握するのはもちろん、会社や私自身の仕事に対する思いも折に触れて伝えています。そうすることで、お互いを思いやる気持ちが育ち、シフトに関しても『お互い様』という思いで対応してもらえるのです」と山田さん。フルタイムだけでなく、時短勤務や、逆に深夜や土日を多めにする勤務など、社員のライフスタイルに合わせた働き方ができることが、ひばり警備の大きな強みだと言えそうです。

「警備の仕事というと固い、きっちりしたというイメージを持たれがちですが、私が社員に伝えるのは『みんな仲良く』『思いやりを忘れずに』ということなんです。思いやりを持つことが良い仕事につながっていきますし、市民に愛される、温かみのある警備会社を目指していきたいです」

会社として一番大切なのは「社員と社員の家族を幸せにすること」

この日の取材では、同社社員の相良さんにも同席していただきました。相良さんは、山田さんからの声掛けで、ひばり警備に入社を決めたとのこと。その経緯にも、山田さんの人柄を感じました。

南相馬市鹿島区出身の相良さんは、東日本大震災前は海沿いで専業農家として働いていたそうです。大震災に伴う津波で農地は流され、原発事故の影響も重なり、農業を続けることができなくなってしまいました。

ひばり警備の現場のひとつである市内の病院で働いていた相良さんですが、ヘルパーなどの資格が無いため、目の前で困っている患者さんがいてもできることが何もないことに無力感を感じ、そんな思いを現場で一緒になる山田さんに打ち明けたそうです。その仕事を辞めることを決め、退社の日に山田さんに挨拶したところ、ひばり警備での勤務を提案されたのです。

「専務は本当に親身になって話を聞いてくださいます。私のような高齢者でも、きちんと働ける環境が整っていることを丁寧にご説明いただきました。専務の人柄に惹かれ、お役に立てるのならと入社を決めました」と相良さん。
相良さんを雇用した経緯について山田さんは、「相良さんは今、工場での施設警備に従事していますが、その現場は24時間365日稼働しており、必ず1人は勤務に就くことになっています。仕事の内容を説明した時、夜間の勤務への不安、またお父様の介護やお孫さんのお世話等もあるため17時には家に着いていたいとの要望がありました。そこで他の従業員に相談し、相良さんとご家族に負担のならない短時間労働での勤務を導入しました」と説明。また業務内容についても、業務を簡略化したり、マニュアルを見易いように整備し直したとのこと。シフトに関しては万が一、当日、本人や家族の方の具合が悪くなってしまった場合でも遠慮せず休めるよう全従業員に「お互い様」の精神を共有し、相良さんに限らず、やむを得ない欠勤に対する負い目を感じさせないようにしているそうです。

ひばり警備の定年は70歳だそうですが、山田さんは「やる気さえあれば、何歳まででも働いてもらいたいと思っている」と話します。

「『企業は社会の公器である(実業家・松下幸之助の言葉)』と言われますが、社会から求められる仕事、市民に求められる会社を追求したいと思っているんです」と山田さん。そのために、3つの柱を掲げています。

1つは、高齢者の雇用機会の増大。実際にひばり警備では、社員45人のうち、60歳以上の社員を15人雇用しています。フルタイムで働けなくても、その人の家庭環境や体調に応じた勤務体系を心がけているそう。人生100年時代と言われる中で、年を重ねても安心して働ける会社が地元にあること、そういったことで地元に貢献したいと考えています。その点で相良さんも「とても恵まれた職場だと思います」と目を細めます。

2つ目は障がい者雇用の展開。まだ多くはありませんが、ひばり警備では軽微の障害を持つ社員も雇用しています。

「いわゆる大企業の障がい者枠ではなく、社員同士がバディを組んで、障がいを持つ社員をサポートしながら一緒に働ける環境を目指しています」。「障がいを持っている人は、日頃『世間に世話になっている』という気持ちを持ってしまいがちなのではないのかと思っていて、そういう人が『警備』という仕事をすることで、自分も社会を守る一員であるということを感じてもらえたらとも思っています」と山田さんは説明します。

3つ目は、地域の発展です。東日本大震災と原発事故による強制避難の影響で、南相馬市も大きく人口が減少し、震災前の人口には大きく及びません。そんな地元を発展させるため、元々住んでいた人はもちろんのこと、移住してきた人たちとも積極的にかかわっていきたいとのこと。

「移住してくる人は、起業だったり、都市からはなれてのんびり過ごしたいと思っている人が多いのではないかと感じていて、そういった方々に『警備会社』は勤務先として選んでもらうのは難しいのではないかと感じてはいるのですが、働く人の環境に合わせて比較的自由に働けるということや、地元に根差した会社であるということをPRして、選ばれる会社になっていきたいと思っています」と山田さん。

「会社にとって一番大切なことは、『社員と社員の家族を幸せにすること』だと、私は思っています。そのことを達成するための、社員に合わせた働き方の提案やアットホームな働きやすい環境を私の代で整えています。まだ年齢的には若い2代目ではありますが、時代や社会に合わせ会社をアップデートさせながら、これからも地元とともに歩んでいきたいと思います」と笑顔を見せてくれた山田さん。

まだ29歳。2代目の挑戦は続きます。