INTERVIEW

インタビュー

10年ぶりに帰ってきた双葉郡でまちづくり〜一回ゼロになってしまった町は可能性に満ちている〜

小泉 良空さん

出身地 福島県双葉郡大熊町
勤務先 一般社団法人ふたばプロジェクト
勤務地 福島県双葉郡双葉町
勤務期間 2021年5月~

「約10年ぶりに双葉郡に戻ってきました。地元が近いだけで気持ちが落ち着きますね」と話すのは、2021年5月から一般社団法人ふたばプロジェクトでまちづくりに携わっている小泉さん。大熊町出身で、現在は富岡町に居を構えながら双葉町で働いている。約10年ぶりに大熊町や双葉町を含め6町2村から成る双葉郡へ帰ってきた思いやこれからの展望を伺った。

積もり積もった地元への思い

全町避難が続く双葉町では、ようやく特定復興再生拠点区域(復興拠点)の準備宿泊が2022年1月20日(木)から開始し、避難指示解除に向けてゆっくり前進している。

「震災から10年以上経ったあとに私が今帰ってもいいものなのかなっていう不安はありましたね」と帰郷時の胸の内を明かす小泉さん。以前から、「なにか地元のためになることをしたい」という気持ちを抱きながらも、修学の問題で遠ざかってしまった。就職のタイミングでも帰郷への願いは叶わず、まずは福島市内で就職をした。しかし、故郷への思いはますます募っていったと話す。

「大学卒業とともに東京から福島に戻ってきましたけど、県内にいると、双葉郡の情報や活躍している人の話を以前よりよく耳にするようになったんです。そうすると、羨ましい気持ちが出てくるし、同じくらい悔しいって感じたりするんです。」

そして悲しい出来事もあったという。

「知人に『大熊町ってもうないじゃん。』って言われてしまったんです。とても衝撃的で悲しかったですし、外に向けて情報発信する必要性を痛感した瞬間でした。そうした一つ一つのきっかけが、私の地元への思いをどんどん大きくしていって。就職したばかりでしたけど、改めて(大熊町を含める)双葉郡で仕事を探しました。」

そして2021年5月、約10年ぶりに双葉郡へ帰郷した。

可能性に満ちた双葉町でのまちづくり

現在、小泉さんは、双葉郡双葉町のまちづくり公社「一般社団法人ふたばプロジェクト」で関係人口や交流人口を拡大していくため、県内外から訪れる視察の対応や、町の状況に関する情報発信、町外に避難した町民との交流などを行なっている。視察では、震災当時のまま残っている場所と徐々に変化している場所をそれぞれツアー形式で案内し、時には震災の体験を話している。

「中学生のあの当時、避難をあまり深刻に捉えておらず翌日には帰ってこられると思っていたことや、原発に対してあまりにも無知だったことを被災者としてありのまま伝えられるのはいい機会です。」

一方で一個人の体験を話すことには不安もあったと話す。
「この表現で合っているのか、失礼にならないか、不幸自慢に聞こえないかとか、聞き手にどう受け止めてもらえるのかが不安でした。」

そうした不安は、話し終わった後にかけられる「頑張って」の声によって徐々に解消され、頑張ろうと前向きな気持ちになっていった。中には、「頑張ります!」という意外な感想もあったという。
「最初は『頑張ってください』ではなく…?と驚きましたが、自分の話が誰かの一歩につながったことがとても嬉しかったです。」

そうした経験を経ながら、町が歩みを進めるさまざまなシーンに居合わせられていることにやりがいを感じているという。

「正直、普通だったらありえないことに立ち会えているんですよね。世界中を探しても一からまちづくりするところってなかなかないですし。その分、難しい問題がたくさんあるけど、色んな可能性が転がっていて、やろうとすれば色々できちゃう。年配の元町民の方も、自宅に戻ったらやりたいことを色々話してくれるんです。それを聞くと私も頑張ろうって思います。」

双葉町の近隣には、まちづくりの先陣をきっている浪江町や富岡町がある。小泉さんの相談にも気軽に乗ってくれる先輩たちが近くにいるのは、とても心強いという。「この会社に入ってよかったことの一つが、各町にまちづくりの仲間が1人、2人ずつできることです」と嬉しそうに笑う。

思い出が見える新しい双葉町へ

入社から約8ヶ月経ち、さまざまな仕事をこなす小泉さんは、今後、双葉町に行くというハードルをより一層下げていきたいと話す。「双葉町に興味はあるが、どう取り扱っていいかわからない」や「観光と呼んでいいのかわからない」といった外の声に対して、よりオープンに情報発信し、一つ一つハードルを下げる為、双葉町で過ごす1日モデルコースなど楽しみ方をイメージできるコンテンツも作り、観光としても訪れてもらえるようにしたいと目標を掲げた。しかし、可能性に満ちた楽しい双葉町を発信していく一方で、震災の現状も見てほしい気持ちもあるという。

「今は解体が進んでいるんですけど、駅前のすぐ近くには、イベントやお祭りなどで盛り上がっていた商店街の通りがあるんです。そして、まだ何も手をつけられていない家屋があったり、元々人がたくさんいた場所がこういった形で残されている所はなかなか他にないと思うんです。10年経ってもあんまり進んでいないなって感じられる部分もあるので、楽しいとは違うのですが、震災の爪痕が残る双葉町も見てほしいです。」

各所で工事が進む、双葉町。全てが「新しい」に覆われてしまわぬように元町民への心遣いを忘れてはいない小泉さん。

「正直、駅前は特に変わっている場所なんですよね。復興というか前に進むためには仕方ないことでもあるんですけど、元町民からすると、帰ってきた時に知っている場所じゃないと、やっぱりさみしいって感じると思うんですよ。そういうときに、町の中で思い出が見える場所があるっていうのはすごく大事な意味があると思うんです。」

元町民が懐かしく感じる場所として、伝承館の隣で運営するファストフード店「ペンギン」を紹介してくれた。現在は、以前のオーナーの娘と孫が切り盛りしており、特に双葉高校の学生にとっては懐かしい場所なので、元町民の方には来てもらいたいという。

今年6月を目標としている避難指示解除や、8月末予定の町役場仮設庁舎の開所など町がゆっくり前進していく中、小泉さんは、これから一緒に町を盛り上げてくれる将来の仲間や今後のまちづくりについて思いを募らせる。

「人が徐々に入ってきてこれから何をやってくれるんだろうっていうわくわく感がすごくあります。色々な事情があって帰りたいけど、帰らない選択をした元町民が双葉町の盛り上がりを見て、週末行ってみるかぐらいの感覚でまた目を向けてもらえるようにしていきたい。」

そして、出身地・大熊町の帰還も同時に進めば、いずれは実家を再建し、大熊町からの通勤を考える小泉さん。双葉町のまちづくりに励むことは大熊町での未来にも繋がる。

  • 取材・執筆:草野 菜央
    撮影:中村幸稚 
  • 一般社団法人ふたばプロジェクト
    https://futaba-pj.or.jp