INTERVIEW

インタビュー

インターンシップをきっかけに富岡町へ移住。人が集まる町を目指して「まちづくり」への挑戦!

中出彩香さん

出身地 北海道稚内市
勤務先 株式会社ふたば
勤務地 双葉郡富岡町
勤務期間 2021年4月~

日本最北の町・北海道稚内市で育った中出彩香(なかであやか)さんは、2021年4月に福島県双葉郡富岡町に移住しました。「まちづくり」を学びたいと、大学3年の夏休みにインターンシップで富岡町を訪れたことがきっかけです。

インターンシップ後に富岡町で働くことを希望し、大学卒業後「株式会社ふたば」に入社。現在、地域デザイン部で、町の再生に向けて地域住民と一緒にまちづくりに取り組んでいます。

「もともと北海道を出るつもりはなかった」という中出さんですが、福島で就職し移住するまでには、どのような心境の変化があったのでしょうか。

生まれ育った町を元気にしたい

大学で建築を専攻する中出さんが「まちづくり」に関心を持ったのは、育った町への想いからです。

「稚内は日本の最北の町で自然豊かな場所ですが、目に見えるかたちで子どもが減っていたり、高齢化が進んでいたりと地域課題がたくさんあります。大学進学のために町を出て、客観的な視点を持ったとき『この町はこれからどうやって持続していくんだろう……』と思うようになりました。インフラや建築だけでなく、『住みたいと思える町』にすることが大切なのではと考えはじめたんです」

大学でまちづくりについて学び、「地元を元気にしたい!」という気持ちが芽生えた中出さん。将来、北海道でまちづくりに関わる仕事がしたいという目標を持ち、就職活動の一環で実践型インターンシップに参加することを決めました。

インターンシップ先に選んだのは、富岡町のまちづくり会社「とみおかプラス」。

富岡町は原発事故で全町避難となり、2017年4月に一部を除き避難指示が解除されて復興に向けた歩みが進んでいるものの、町に帰還して暮らす人は震災前の2割にも満たない状況です。そんな富岡町での「未来をつくる人材を地域に呼び込むための事業をプロモーションしてほしい」というインターンシップ募集を見つけた中出さんは、すぐに「ここで挑戦してみたい!」と思ったそうです。

「前例のない課題を抱えている町だからこそ、学べることがたくさんあるはず!」と、夏休み1ヶ月間の挑戦に踏み出しました。

被災地を自分の目で見て、知りたかった

中出さんにはインターンシップ先を選んだ理由がもうひとつあります。それは、一度目を逸らしてしまった震災の現実に、向き合いたかったという想いです。

小学校の卒業式を間近に控えていた中出さんは、震災当日、事の重大さを理解するまでに時間がかかったといいます。

「私の住む町は揺れなかったんです。だから、その日は『大丈夫かなぁ』くらいにしか考えられていなくて。でも、テレビから流れてくる映像では信じられないようなことが現実に起きていて、『このまま日本が無くなるのでは』と怖かったことを覚えています」

当時は幼くて現地へ行くことはできなかったけれど、いつか自分の目で見て、知ることをしなければいけないと胸に秘めていたそうです。そんな中出さんが大学生となり、はじめて福島の被災地を訪れて驚いたことは「想像以上に震災の爪痕が残っている」という現実でした。

「9年という月日が流れて復興が進んだように見えていても、時が止まったままの場所が存在するということ、その事実を知らずに今まで過ごしてきたことがとてもショックでした」

「人」が町の魅力をつくる

しかし、中出さんが町に抱いた印象は真逆のものだったといいます。

「町の人たちがすごく前向きだったことに驚きました。辛い過去を背負っている町だからこそ、自分たちの町を無くしたくない!もっと良くしたい!という想いの強い人が多くて、さまざまなアクションを起こしていました。わたしの方が背中を押してもらえたんです」

インターンシップでは、県外の若者に向けた富岡町の視察・研修ツアーの企画に取り組みました。自身が町の魅力を知るために住民へのインタビューを重ねるうちに気づいたことは、町の「人」の魅力だといいます。

「この町で過ごしているとホッとできる安心感があるんです。素敵だなと思える人が周りにたくさんいて、人の温かさを感じられることがこの町の魅力だと思いました」

必要とされる「場」で働きたい

インターンシップを終えて北海道に戻り、普段の学校生活に戻った中出さんですが、福島を思い出す機会が日に日に増えていったといいます。同時に、インターンシップでの経験を北海道で役立てようと思う気持ちから、富岡町で働いてみたいという気持ちへ少しづつ変化していきました。

「町の風景やお世話になった人たちの顔が浮かんで、1ヶ月という短い間でもこんなに町の人たちのことを好きになっていたのかと自分でも驚きましたね」

その後もメールやSNSで「とみおかプラス」との交流は続き、春休みに再び富岡町へ。懐かしい顔と再会し、福島で就職しようか悩んでいることを打ち明けると、とても喜んでもらえたことで背中を押されたといいます。

「若い人材が求められ必要とされている場所で、外からの視点を持つ自分の力を役立ててみたい」。専攻してきた建築に携わる土木業を希望し、2021年4月建設コンサルタントの「株式会社ふたば」に入社。福島の地で新しいチャレンジをスタートさせました。

目指すのは、人が行き交う賑やかな町!

現在、中出さんが取り組む仕事のひとつが富岡町駅東側エリアの活用に向けたまちづくりです。

かつて町の中心だった富岡駅は、津波の直撃を受け駅舎も賑やかだった商店街も壊滅状態となりました。2017年11月にようやく駅舎が再建され、2020年3月には常磐線が全線開通となりましたが、現在でも駅から海までの駅東側エリアは災害危険区域に指定され居住ができません。

町では有志の住民が集まり、被災跡地を活用して人々の集まる憩いの場所にしたいと話し合いを重ねてきました。今回、中出さんは事務局としてエリアの活用方法について話し合うワークショップの運営を任されたそうです。

「エリアを海や川のゾーンなど4つに分けて、将来どんな楽しい場所になってほしいか、今から自分たちができることは何かを話し合いをしました。はじめてワークショップの取りまとめを任せてもらい、告知から開催まで一連のアクションを自分でやってみて、とても大変でしたが手応えを感じました!」

「今後は、町の活性化につながるアクションを起こして人が行き交う賑やかな町にしていきたい」と語る中出さん。

いつか福島で学んだまちづくりのノウハウを北海道で生かす日も来るかもしれません。その笑顔はどんな町も明るく照らしてくれる存在となるはずです。