INTERVIEW

インタビュー

建築×テクノロジーの技術を福島県浪江町から 會澤高圧コンクリート、新天地での挑戦

會澤高圧コンクリート株式会社

専務取締役 會澤 大志さん(写真:左)
開発営業本部 エンジニア 松前 桂さん(写真:右)

「浪江に住んでいて、不便なことは何もないです」と、2022年4月に北海道札幌市から浪江町に 移住したエンジニア・松前桂(まつまえ・けい)さんは笑顔で話します。 専務取締役の會澤大志(あいざわ・たいし)さんも「新規事業や新しいテクノロジーが大好きな 彼は、浪江での事業に一番に手を挙げてくれました。今までの常識にとらわれずに、 浪江町とともに会社も成長できればと思います」と、力強く語ってくれました。

新しい技術の開発を浪江町で

會澤高圧コンクリート株式会社は、北海道苫小牧市に本社を置き、国内に20の事業所、 国内外に14のグループ会社を抱える総合コンクリートメーカー。原料としてのコンクリー トを製造するだけでなく、建設にテクノロジーを活用すべくさまざまな技術開発を 行っています。

技術開発において、會澤高圧コンクリートが重要視しているのは「脱炭素」。同社は今後 の事業を展開していくにあたり2021年8月、福島イノベーション・コースト構想推進地域の ひとつである浪江町と工場立地に関する基本協定を締結しました。現在、浪江町請戸地区の 南産業団地内に建設が進んでいるのは「福島RDMセンター」。研究(Research)・開 発(Development)・生産(Manufacturing)3つの機能を備えた、浪江町内最大級の 工場施設です。

「浪江町が、再エネやロボット産業の最先端の地であることが進出の決め手でしたが、町役 場の人たちと話をしていく中で、東日本大震災と福島第一原子力発電所事故で大きな被害を 受け、ゼロからのまちづくりを進めている浪江町で、新技術を開発・発信していく企業とし て、ともに成長していきたいという気持ちでいます」と話す會澤さん。「浪江のRDMセ ンターでは、研究・開発したものをその場で生産できますので、新しいことをやりたいと思 う若い人たちが集まる場にしていきたいと思います」と意気込みを語りました。

東日本大震災の経験が浪江での事業につながった

東日本大震災が発生した2011年、會澤さんはちょうど大学に進学する年でした。「建築 の学科に進みましたがハード面だけでなく、建築を通してまちづくりや復興にどのようにか かわれるのかということに直面した世代だったと思います」と振り返ります。大学時代の 會澤さんは、建築が空間や地域、防災にどのような意味を持つか学んでいきました。

一方、松前さんは大震災発生時、小学校4年生。それでも、テレビの画面越しに見た 津波の映像の記憶は鮮烈に残っていると言います。「とても怖くて、父の後ろに隠れて見ていまし たね。そういう現場に、自分が今いるのは不思議な感じがします」と松前さん。松前さんは 、2022年4月の浪江町での事業開始時に浪江町に移住しており「浜通り発展の力になりたい 」と力強く語ります。

新しい事業に若い力

會澤高圧コンクリートでは「新しいことをやりたい」という強い気持ちがある社員に事業 をやらせることを大切にしているそうです。新天地である浪江町に、自分たちで新しい工場 をつくるとしたらどのような施設にしたいかを社内で募ったところ、一番に手を挙げたのが 松前さん。二つ返事で浪江町への移住と駐在を引き受けたそうです。「建築とテクノロジ ー・デジタルを掛け合わせた研究、開発を新工場で具現化できるなんてめちゃめちゃ面白そ う!と思いました。自分はエンジニアとしてドローンの開発なども行っているのですが、浪 江でなら面白いことができそうだなと感じています」と笑顔で話す松前さん。會澤さんも 「今までの常識にとらわれず、新しいことにどんどん挑戦し、現場で走り回ってくれる 若手の代表ですね」と松前さんに期待を寄せています。

RDMセンター開業後は、グループ会社の技術研究所の中心メンバーも浪江町で勤務する予 定とのこと。浪江町で開発された最新の技術が會澤高圧コンクリートの全工場に広がって いくことになるそうです。浪江町のRDMセンターが、全国に技術を巡回させる場所となる ことを想定しています。

ともにまちをつくる、まちを守る存在に

會澤高圧コンクリートは、浪江町のRDMセンター建設に先駆けて、南相馬市のロボット テストフィールドにも研究開発室を設置しています。 2022年6月には、ドローンと観測衛星が連携する精密避難支援システム「The Guardian」を 開発。その第1号を、2023年春に浪江町で実装することを決めています。

「今、浪江町に住んでいる人はお年寄りが多いです。また町に帰還する人が少ないことでご 近所づきあいも無くなってしまっている。そんな中、災害が起きた時に、スマートフォン1 つで、ひとりひとりの家やいる場所に合った避難情報を発信できるシステムを開発していま す」と會澤さん。工場が建設される場所が津波の被災地であることにも触れ、 「みんなとても浪江町が好きだったんだと思います。そういう人たちが安心して暮らせたり、 戻って来たいと思えるようなきっかけをつくっていければと思います」

2022年3月「The Guardian」の中核テクノロジーのひとつである防災用大型エンジンドローン と、ドローンが自動的に飛び立てる専用格納庫の実機を浪江町庁舎で披露した様子 (會澤高圧コンクリートホームページより)

まちづくりに関しても、「地域に合った『住みやすさ』を考えていきたい」と話します。「 なんでも一カ所に詰め込むような都心とは違い、浪江では程よい距離感でストレスなく暮ら すことができると思います」と會澤さん。実際に札幌市から浪江町に移住した松前さんも 「住んでいて不便を感じたことはない」と言います。

隣の双葉町にある「東日本大震災・原子力災害伝承館」や、町内にある「震災遺構浪江町立 請戸小学校」に足を運んだり、町の人たちに話を聞くことで、浪江町への思いや文化、伝統 を遺していく重要性も感じているという2人。「震災前の姿に戻すことはできないけれど、 昔のいいところや伝統を受け継ぎつつ、新しい技術も融合させて、人として暮らしやすい町 を、町の人と一緒につくっていきたい。例えば浪江が『住みたい町』『移住したい町』とし てホットな存在になることで、町の人が喜んでくれたら。そんなきっかけをつくっていきた いです」

リアルの場を大切に 口コミで人が集まる、開かれた工場を目指す

まちづくりに役立つ新しい技術の開発を進める會澤高圧コンクリートですが、町の人や開 発に興味を持つ人たちに、自分たちの仕事を見てもらえるよう、RDMセンターは開かれた 場にしたいと考えています。「研究開発自体をオープンにして『なにか面白いことをやって いる会社』というのが口コミで広がってくれればいいなと思っているんです。もちろん、自 社での情報発信はしますが、実際に来て、見てもらって、面白いなと思った人が友人を連れ て来てくれるような。

浪江駅前や、福島国際研究教育機構の開発でこれからたくさんの技術者や若者が浪江に来る と思います。新しい技術に関心のある人が、気軽に、自然に集まってくるような場所を 目指したいですね」と會澤さん。

リアルを大切にしたいというのは、生活の場でも同じだと言います。「今住んでいる場所の 近くに日帰り入浴施設があってよく行くんですけど、サウナで一緒になった町の人から、震 災や昔のことを聞くんです。そういう人たちが暮らしやすい町にしていきたいなと思います ね」と松前さん。會澤さんは「浪江はとにかく、食が豊か。『西内食堂』のうどんは、東 京で出店しても行列の店になるんじゃないかと思います。どの飲食店も、経営者が強い信念 を持って営業をしているのがわかります」と浪江の暮らしに満足している様子。

最後に會澤さんは「実際に浪江に暮らすことで見えてくるものを大切にして、町の人たち とともに『町の姿』を考えながら、浪江に立地する企業として町と一緒に成長していきたい 」と思いを込めて話してくれました。

會澤高圧コンクリートの福島RDMセンターは、2023年4月に操業開始の予定です。若い 力と新技術が、浪江町のまちづくりにどのように関わっていくのか、期待が膨らみますね。