INTERVIEW

インタビュー

「浪江がただ好きだから」。居酒屋『こんどこそ』大清水一輝さんが、それでも店を開き続ける理由(後編)

居酒屋 こんどこそ

店主 大清水一輝さん

2018年、周囲の8割が反対するなか、居酒屋「こんどこそ」の店主・大清水一輝さんは浪江町での営業再開に踏み切りました。

避難指示が解除されたばかりの町に、まだ人影はありません。営業を続けても赤字が続く日々。それでも大清水さんは、町の復興を支える作業員の方々に「あたたかいご飯」を食べてほしいと、ランチ営業も開始しました。

そして今、大清水さんの挑戦は隣町の双葉町へと広がっています。

居酒屋という場を通じて、この町の変化を誰よりも近くで見つめてきた大清水さんに、浪江と双葉の「これから」の姿についてお話を伺いました。

温かいご飯で、浪江町を支える

震災前、浪江町には約21,500人が暮らしていました。2017年に避難指示が解除されたものの、「こんどこそ」を再開した2018年当時、町に戻っていたのはわずか1,000人足らず。かつての5%にも満たない状況でした。

それでも、大清水さんは店を営業し続けました。

もともと夜の営業が中心だった「こんどこそ」ですが、浪江に戻ってからはランチ営業にも力を入れるようになりました。そこには、大清水さんの強い思いがありました。

「当時は、町の復興のために全国から作業員さんたちが集まっていました。でも、飲食店がないため、皆さん現場でコンビニ弁当やカップ麺を食べているような状況だったんです。町を直してくれている人たちに、せめてお昼くらいはゆっくりと温かい手作りのご飯を食べてほしいと思ったんですよね」

とんかつ定食やホルモン焼き、野菜炒め定食など、日替わりでボリューム満点のメニューを提供し始めると、現場の人たちの間で瞬く間に評判になります。

「ある日、ランチに来た作業員さんが『いやー、あったけえ飯が食えるなー』ってつぶやいたのが聞こえたんです。その一言を聞いたとき、本当にやってよかったと、うれしさが込み上げました」

現場で働く作業員さんたちが、これからの浪江を作ってくれる。ならば自分は、彼らを「温かいご飯」で支える。その信念こそが、大清水さんにとって店を続けるための原動力でした。

家族への想いと、双葉町での出店

2025年現在、浪江町の居住人口は約2,200人まで回復しました。少しずつ町に生活音が戻り、営業も軌道に乗るなか、大清水さんはさらなる一歩を踏み出します。隣町・双葉町への進出です。

2026年3月、国道6号沿いに新しくオープンする商業施設内に、新店舗を構えることが決まりました。新たな挑戦を決めた背景には、家族への想いがありました。

「二本松で店を切り盛りしている母ですが、最近は毎週のように浪江の実家まで通って、畑仕事や庭いじりをしているんです。その姿を見ていると、やっぱり地元に帰りたい気持ちはあるはずだし、心から故郷が好きなんだなと感じます。

でも、70代になった母に、ただ『戻ってこい』と言っても、実際に動くには相当なエネルギーが必要です。それよりも『新しく店を出すから、手伝ってほしい』と声をかけたほうが、地元へ帰ってくるための良い『口実』になると思ったんです。故郷で、母が大好きな接客をもう一度楽しんでほしい。そんな場所を作りたかったんですよね」

そして2025年3月31日。「居酒屋こんどこそ 二本松店」は、多くの常連客に惜しまれつつ閉店。それは、大清水さん一家が再び故郷に根を下ろすための前向きな決断でした。

見たことないのない、町の景色を見てみたい

大清水さんは今、居酒屋という場所を守り続けることに、どのような想いを抱いているのでしょう。

「飲食店ができることなんて、そんなに多くないと思っています。ただ、一つだけ確信して言えるのは、店があることで『家から一歩外に出る理由』が作れると思うんですよね。震災後、一番怖いと思ったのは、家の中に閉じこもって、誰とも会わずに孤独になってしまうこと。でも、店があれば『今日は店に行ってみるか』『あったけえ飯を食べに行こうかな』と思ってもらえる。それだけで家を出るきっかけになるし、気晴らしになると思うんです」

浪江に戻って7年。カウンター越しに眺める景色は、少しずつ、けれど確実に変わってきました。

「帰還間もない頃は作業員の方ばかりでしたが、次第に浪江に住む方も増えてきました。最近では作業着姿の方よりも、スーツ姿の方をよく見かけます。町の移り変わりを肌で感じています」

現在、この地域は再開発が進み、新し町づくりが加速しています。変わりゆく故郷の姿を前に、大清水さんが描く町の未来はどのようなものでしょうか。

「『元の浪江に戻ってほしい』とは思っていません。一度まっさらになった町だからこそ、今まで誰も見たことがないような、新しい街づくりができればいいと思います。色々な人に来ていただいて、これまで見たことのない景色が浪江で見られたら、面白いですね」

「こんどこそ」という店名に込められた、何度でも立ち上がる意志。大清水さんはこれからも、カウンター越しに、新しく生まれ変わる故郷の姿を見守り続けていきます。