INTERVIEW

インタビュー

日常に溶け込む一本を目指して。川内村の大地と人が紡ぐ「かわうちワイン」の歩みとこれから(後編)

かわうちワイナリー(かわうちワイン株式会社)

統括マネージャー 遠藤一美さん

耕作放棄地を手作業で耕すところから始まった、かわうちワインの挑戦。 ゼロから積み上げてきた川内村のワインづくりは、長い時間と多くの人の手によって、ようやく実を結び始めました。

そして2024年。国内最大級のワインコンクール「日本ワインコンクール2024」欧州系品種・赤部門において、ヴィラージュ メルロー&カベルネ・ソーヴィニヨン2022が銅賞を受賞。小さな村で育った一本が、ついに全国の舞台で評価されました。

その裏側にあった数々の試行錯誤、そしてかわうちワインが描くこれからの未来について、お話を伺いました。

受賞の裏側にあった日々

「結果発表の時間は、たまたま都内でイベント出店をしていて。その場では確認できなかったんです。そしたら、『日本ワインコンクールで賞に入ったよ!』って連絡が来て……。電話口で、思わず涙が出ましたね」

そう話すのは、かわうちワイン株式会社の統括マネージャーであり、長年このプロジェクトを支えてきた遠藤一美さん。

受賞の知らせを聞いた瞬間、真っ先に思い浮かんだのは、これまで共に畑に立ってきたスタッフや、折に触れて手を貸してくれた村の人たちの顔でした。

「やっぱり、この広大な畑を少人数のスタッフで管理するのは本当に大変でした。作業が追いつかず、畑仕事で体の節々を痛めることもありましたし、夏場は日中の作業が厳しくて、まだ夜が明けない真っ暗なうちから準備をして作業を始めることもありました。もう、振り返ると大変だったことばかり。思い出すと泣きそうになります」

こう話す遠藤さんとともに、かわうちワインをつくり上げてきたのが、栽培・醸造責任者を務める安達貴さんです。

震災後、川内村が新たな産業として推し進めるワイン事業に携わるため、父子で川内村への移住を決めました。

安達さんは、オーストラリアやニュージーランドのワイナリーでファームステイを経験し、山梨県のワイナリーではブドウ栽培と醸造の両方を学びました。その後、青森県でワイナリーの立ち上げにも関わるなど、国内外で幅広い経験を積んできました。

現在は、かわうちワインの醸造を担う中核として現場に立ちながら、川内村での暮らしも子育ても楽しんでいるそうです。

こうした仲間とともに、遠藤さんは現在の生産体制を整えてきました。

かわうちワインの年間生産本数は、2024年には2万本規模に。一本一本の品質と向き合いながら、復興と新たな産業創出のシンボルとして、歩みを重ねてきました。

村への敬意が、一本のデザインになる

ワインがその土地の気候や土の特徴を映し出すものだとしたら、ラベルやロゴは、つくり手の考え方や思いを伝えるもの。かわうちワイナリーでは、そんなブランドづくりにも力を入れてきました。

「今の若い世代って、お酒を飲む人と飲まない人がはっきり分かれるんですよね。だから、どうやって手に取ってもらうかが大事で。まずは気軽に選んでもらえるように、“ジャケ買い”してもらえるラベルづくりも意識しています」

まず、ラベルデザインに取り入れたのは、川内村を象徴する3つのモチーフでした。

村の鳥に指定されているウグイス、ベル型の淡いピンク色の花を咲かせる村の花サラサドウダン、そして村の木であるモミの木。これらをさりげなく配置し、ボトルの中に川内村の風景を映し出すことを目指しました。

さらに、川内村が国の天然記念物「モリアオガエル」の貴重な生息地であることから、ロゴマークにはカエルの姿を取り入れています。一方で、同じく描かれているトンボには、もうひとつの意味が込められているといいます。

「トンボって、自由に飛び回れるじゃないですか。村に新しく来てくれた人や、村の外へ行き挑戦している人、そういう“自由に羽ばたく存在”をイメージしました。オランダ語でトンボは“リベル”というんですけど、その言葉の響きも気に入って、ロゴに取り入れました」

村に受け継がれてきた自然への敬意と、自由に羽ばたく軽やかさ。その両方を映したデザインは、川内村の“これから”を描いているかのようです。

時間をかけて、育んでいきたいもの

かわうちワインの挑戦は、ワインづくりだけにとどまりません。 遠藤さんは、「ここを通して、人づくりをしていきたい」と話します。

「やっぱり、最終的には“人”だと思うんです。ワインづくりを通して、エネルギーがあふれるような人づくりがしたいですね。そのためには、とにかく足を運んでもらって、畑に入ってもらったり、ワイナリーを見てもらったり、そういう体験を積み重ねていくことが大切だと思っています。僕らがここで頑張ってきたことで、“ここでワインづくりに関わりたい”って言ってくれる若い子が出てきました。蒔いてきた種が、少しずつ芽を出し始めている感じがしますね」

50年、100年と続くワイナリーを育てていくために、遠藤さんが見つめているのは、決して派手な未来ではありません。

「率直に言えば、これからも変わらず、ブドウを育てて、きちんと美味しいワインをつくり続けること。それが一番大事だと思っています。真摯にブドウづくりとワインづくりに向き合っていれば、その先に続くものは、自然とついてくるはずです」

現在は醸造と販売が中心ですが、今後は、試飲ができたり、地元の特産品を購入できたり、休憩スペースとして使えたりする場へと広げていく構想もあります。地元食材を使った軽食の提供など、村の内外から人が気軽に立ち寄れる場所としての活用も視野に入れているそうです。

「ワインづくりを通して、村に人が集まり、挑戦が芽生え、未来につながる循環を、これからも少しずつ広げていきたいですね」

確かな手応えを胸に、川内村のワイナリーは、村の食卓に自然と溶け込む“気取らない一本”を追い求めながら、この土地とともに歩み続けています。

  • 取材日:2025年10月
    取材、執筆:奥村サヤ
    写真、コーディネート:中村幸稚
  • かわうちワイナリー
    https://kawauchi-wine.com