INTERVIEW
インタビュー

町への想いなんて1ミリもなかった横須賀直生さんが、楢葉町で「liebe table」をオープンするまで(後編)
liebe table(リーベテーブル)
代表 横須賀直生さん
「おかしなお菓子屋さんLiebe」をオープンして5年。
横須賀直生(よこすか・なお)さんは、新たな挑戦に踏み出し、楢葉町に「liebe table(リーベテーブル)」をオープンしました。
カフェレストランという新しい形に踏み出した今、目指すのは「町に人の流れを生み出すこと」。その変化の背景には、母として、経営者として、そして地域の一員として抱いた強い思いがありました。
「豊かな町を次の世代へつなぐ」。その揺るぎない覚悟は、どこから生まれたのでしょうか。
子どもたちに、「楢葉って面白い町だよ」と伝えたい
「おかしなお菓子屋さんLiebe」での歩みを重ねるなか、直生さんの視線は自然と「自分の挑戦」から「町の未来」へ広がっていきました。
浜通り各地の仲間と交流を重ね、PTAや地域のコミュニティなどにも積極的に関わるなかで、「町は誰かがつくるものではなく、自分たちでつくるもの」という意識へ変わったといいます。
「18歳のとき、制服を脱ぎ捨て夢に向かって上京できたのは、当時の大人たちが私たちを守ってくれていたからなんです。そのことに、この町で子育てをしてようやく気づきました。嫌な思いをすることなく『行ってきまーす!』って笑って町を出られた。それって、本当はすごく幸せなことなんですよね」
直生さんは店の営業や子育てのかたわら、「ならは百年祭」で実行委員長という大役を担いました。震災で失われたものを乗り越え、文化や営みを受け継いでいこうという想いから生まれたこの祭りを通して、町と真剣に向き合うようになったといいます。
「百年祭は、楢葉町で100年続く伝統をつくりたいという想いから生まれたお祭りです。大役を任せていただき、みんなで祭りを作り上げる中で、次の100年を見つめれば見つめるほど、今までの100年があってこその未来だよねという大きな気づきがありました。先人たちがいるから、私たちが今こうして暮らせていることを考えると、『何をすべきか』がはっきり見えてきました」
受け取ったバトンを次の世代へ渡すために。そして、子どもたちに「楢葉って、面白い町だよ!」と胸を張って言える未来を残すために。直生さんは、町の新たな魅力を生み出そうと、新店舗の構想を描き始めました。
ワクワクが詰まった空間で、次の夢が動き出す
直生さんは次のステップを見据え、新しい拠点を探しはじめました。けれど、1年以上かけて探しても、なかなか「ここだ」という物件には出会えませんでした。
「国道沿いは家賃が高かったり、イメージする物件がなかったり。そんな中で、一度見てみようと足を運んだのが、ここでした。中へ入った瞬間、すごく広くて、ワクワクが詰まっていそうな空間で、『何かできそう、面白そう!』って直感で感じたんです」
その瞬間、直生さんの頭の中には、ただお店をつくるだけでなく「あの人やこの人を巻き込んで、一緒にやっていこう」という道筋がパッと見えたといいます。
順調に新店舗オープンを迎えようとしているように見える直生さんですが、意外にも不安を口にします。
「これまでは『失敗してもいい』と思って進んできたけど、今はもう『失敗できない』と思ってしまうから不安です。私が自由気ままに挑戦してきたのは、娘に背中を見せたかったから。でも、店の営業や地域活動を続けるうちに、20代の子や移住してきた子たちも、私の背中を見ていてくれることに気づきました。それからは『この子たちをがっかりさせたくない』と思うようになりました」
女性でも起業できるし、子育てをしながら自分の時間を大切にしてもいい。
直生さんは、その姿を見せることが、誰かのリミッターを外すきっかけになると信じています。だからこそ、覚悟を持って、新たなステージへと踏み出しているのです。
守りたい人が増えるほど、私も強くなれる
楢葉町は、原発事故の避難指示解除から10年が経ちました。町も課題も少しずつ形を変えていく中で、直生さんの明るさはどこから生まれるのでしょう。
「楢葉に好きな人がたくさんいるから、モチベーションは下がらないですね。もちろん意見が対立することもあるけど、町って、いろんな考えがあるほうが面白いじゃないですか。何かをはじめるときは、いつも誰かの顔が浮かぶんです。元気なときも、そうじゃないときもあるけど、好きな人たちが周りにいるから私は大丈夫って思えるんです」
町の未来を見据える彼女のまなざしは、やさしく、まっすぐです。
「これからは、一緒に働く仲間をもっと増やしていきたいです。女性は特に、子育てと家庭と仕事のバランスが本当に難しいんですよね。でも、私のそばにいたら、子どもが熱を出したから帰りたいときも、しっかり働いて稼ぎたいときも、ちゃんと尊重してあげられると思うんです。だから、事業を大きくして、利益を出して、安定した経営を続けることが目標です。守りたい人が増えれば増えるほど、私も強くなれる気がするんです」
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取材日:2025年10月
取材、執筆:奥村サヤ
写真、コーディネート:中村幸稚
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liebe table
https://www.instagram.com/liebe_table10/?hl=ja

