INTERVIEW

インタビュー

飯館村から日本伝統の刃物を。世界へ羽ばたく鍛冶屋「二 瓶刃物」の挑戦(後編)

株式会社二瓶刃物 刃物の館やすらぎ工房

代表取締役 二瓶 貴大 さん

飯館村の「刃物の館 やすらぎ工房」では、鍛造から磨き、箱詰めまで一貫して生産し、約10種類の包丁を製造しています。

代表の二瓶貴大さんは、福島市で刃物販売やメンテナンスを生業にしていましたが、鍛治職人の減少と海外からの需要の高まりを受けて、自らが職人となり飯館村に工場を構えました。

工房をオープンしてから5年、二瓶さんは次の世代も見据え、ものづくりと向き合い続けています。

海外で評価される日本の技術

二瓶さんが作る包丁は、主に海外から高い評価を受けています。北米を筆頭に、ヨーロッパ、香港や台湾などでもニーズが伸びていて、世界中のプロフェッショナルから認められています。

「日本の包丁に変えたら切れ味の違いに驚いたという声もいただいています。伝統工芸は衰退していると言われますが、日本のものづくりは世界にも評価されるほど素晴らしいものです。大量に作って安く売る時代だからこそ、伝統に誇りを持って品質の良いものづくりを目指しています」

工場で製造しているところを見学させてもらうと、カンッカンッカンッと鉄を叩く音とともに勢いよく火の粉が舞い、ものすごい迫力です。

海外の包丁は1種類の鉄から作られるのに対し、日本の包丁は硬い鉄と柔らかい鉄の2種類を組み合わせて作るのだそうです。それにより、切れ味が良く研ぎやすい包丁が出来上がります。

鍛冶の技術を次世代へ伝えたい

二瓶さんは、古くから伝わる日本の鍛冶技術を世界に発信するだけでなく、次世代へ伝えることにも力を入れていきたいと話します。

「鍛冶屋として、刃物の歴史や背景なども伝えられるような役割を担っていけたらと思っています。先輩たちに教えていただいた技術を、次の世代へつなげていきたいです」

しかし、鍛治職人として独立するためには、設備を設置するための知識もお金も必要です。だからこそ、働きやすい環境を整えることは、ものづくりの道へ進むことのハードルを下げ、裾野を広げると考えています。

働きやすい環境を整え、技術を伝え、一緒にものづくりをする仲間を増やしていきたいです」現在、二瓶さんは1人で包丁を作っていますが、受注に生産が追いつかない状態です。海外需要もますます伸びると見込んでいるため、今後は新たに職人を採用し、さらに生産量を増やしていく計画です。

飯館村の暮らしと鍛冶屋の営み

二瓶さんは工房をオープンした後に、空き家となっていた一軒家に夫婦で飯館村に移住しました。村の人たちはパワフルであたたかい人が多く、村での暮らしは楽しいと笑います。

「買い物できる場所は少ないですが、村の人たちがご飯を食べさせてくれたり、玄関に野菜を置いていってくれたりしてくれるので不便は感じません。鍛冶職人としてスタートを切らせてくれた大切な場所なので、恩返しをしていきたいです」

二瓶さんはこの鍛治工場を起点に村を知ってもらうきっかけになればと、鉄づくりのワークショップやイベントも積極的に開催してきました。避難指示解除からまもなく8年、村は少しずつ賑わいを取り戻してきました。

世界から注目が集まる日本の刃物の伝統を守り伝え、飯館村から発信する二瓶さんの挑戦は、まだ始まったばかりです。

  • 取材日:2024年12月
    取材、執筆:奥村サヤ
    写真、コーディネート:中村幸稚