INTERVIEW

インタビュー

食、音楽、居場所で地域の繋がりをつくる「Kawamata-BASE」に込められた想い(後篇)

川俣町の中心部に2024年8月にオープンした「Kawamata-BASE(かわまたベース)」は、カフェ&バー、コワーキングスペース、音楽スタジオを兼ね備えた複合施設です。

町のあらたな交流拠点として注目を集めるこの施設を立ち上げた高野樹さんは、震災を経験し、より町への想いを強めるようになったといいます。Kawamata-BASEを運営しながら町の未来を切り拓こうと奮闘する高野さんに、川俣町の魅力やこれから実現していきたいことを伺いました。

株式会社 Kawamata-BASE

代表取締役  高野樹さん
代表取締役  都築魁さん

川俣町を盛り上げるため、起業へ

高野さんは大学卒業後に入職した町職員を退職し、起業の道を選びました。

「交流人口を拡大して町を盛り上げるために、大きな組織で動くよりも、個人で動いた方が自分には向いているのではと考えるようになったんです。僕が生まれる前の川俣町は飲み屋街があったり映画館があったり、とても活気があったそうです。しかし、震災を経て現在は人口流失や少子高齢化が課題です。町に元気を取り戻すためにも、人が集える場所を作りたかったんです」

そこで高野さんが考えたのが、カフェを中心とした交流スペースです。さらに、都築魁さんとの出会いをきっかけに、その構想は予想以上に大きく発展します。都築さんは、東京でITや飲食店、ジムの経営など様々な分野で活躍しながら、川俣町の地域おこし協力隊員として、川俣シャモの流通に向けた活動にも取り組んでいます。そんな都築さんが共同代表としてアドバイスを行い、より多彩な使い方ができるよう、カフェのほかにスタジオやコワーキングスペースを併設することを決めました。空き物件になっていたビルは自分たちで改修。特に内装には力を入れ、若者が集まりやすい雰囲気づくりを意識したといいます。

「料理はもともと得意ではなかったので、料理教室に通って何度も練習しました。オープンから1ヶ月経ちましたが、平日に忙しかったり、反対に週末に穏やかな日があったりと、いまだにお客さんの波が読めなくてこの地域ならではの難しさを感じています」

山木屋太鼓でふるさとを伝え続ける

Kawamata-BASEのオーナーとして奮闘する一方で、高野さんは和太鼓奏者としての顔も持っています。川俣町を拠点に活動している山木屋太鼓に所属し、単独での演奏活動も行っています。

「山木屋太鼓は、山木屋の自然を表現し、太鼓の迫力を感じられるような曲を創作して演奏活動をしています。もともとは地域の夏祭りや盆踊りのための太鼓で、山木屋の子どもといったら、みんな山木屋太鼓を習うのが自然なくらい地域と密接に関わってきました。僕も友だちがいるからという軽い気持ちで小学1年生のときに習い始めました」

太鼓の存在を大きく感じるようになったのは、震災を経てからです。新しい環境に馴染めず孤独なときに高野さんの支えになったのが、太鼓の存在でした。太鼓を通してさまざまな人と出会い、海外公演も果たしました。だからこそ、故郷の伝統を伝えたいと今も太鼓を叩き続けています。

新しい流れを自分たちで生み出す

高野さんはKawamata-BASEを通して、どのような未来を見据えているのでしょうか。

「やっぱり町を活性化するために、地域の方たちが楽しんでくれる居場所作りをしたいです。そのためにも、まずはこのビルに宿泊施設を整備して町中に泊まれる場所を作りたいと思っています。この辺は飲んでも泊まれるところがないので、宿泊できると便利になると思うんですよね。さらに、色々な人を巻き込んでサウナや映画館も作っていきたいです」

「町が移住支援に力を入れていることもあって、移住する方も増えてきているんですよ。実は、このビルの向かい側には、今度移住してきたご夫婦が薬膳料理のお店をオープンする予定で、ますますこれからが楽しみです」

Kawamata-BASEを中心に、町には新しい流れが生まれはじめています。震災という苦難を乗り越え、故郷への想いを原動力に起業した高野さんの挑戦は、まだ始まったばかりです。