INTERVIEW

インタビュー

移住して、起業も叶える。「キッチンカー移住チャレンジ 」で実現した自分らしい生き方(後編)

田村市キッチンカー移住チャレンジ

一般社団法人Switch  影山奈美子 さん
むすびめ        河津宏さん

福島県田村市で行われているユニークな移住支援。「田村市キッチンカー移住チャレンジ」は、移住者がキッチンカーで起業し、田村市の農産物や特産品の魅力を発信するというプロジェクトです。

現在までに3名が移住と起業を実現しており、オリジナルのカレーやパンケーキなどのメニュー開発をして活躍しています。そしてこの春新しく仲間に加わるのが「むすびめ」の河津宏さんです。

2025年3月20日(祝)、田村市運動公園で開かれた「ABUKUMAうんめぇFES in 田村市」にてキッチンカーのお披露目をした河津さんに、移住と起業のきっかけやこれまでの道のりを伺いました。

家族との時間を大切にするための挑戦

おにぎり専門キッチンカー「むすびめ」をこの春オープンする河津宏さんは、千葉県出身です。河津さんは25年間サラリーマンを続けてきましたが、全く未経験から飲食業での起業と移住という新しいチャレンジに踏み出しました。

「サラリーマン時代は、朝5時に起きて仕事へ行き、夜は12時を過ぎて帰るという生活でした。自分が頑張れば頑張るほど成果として出るので、それが楽しかった時期もあるのですが、ふと人生を振り返ったときに虚しくなって後悔に駆られたんです」

人生を見つめ直すきっかけは、病気で死別した奥様の存在です。時が経ち、再婚して子どもに恵まれる中で、河津さんの中にある想いが芽生えていきました。

「家族と自分の人生をどういうものにしたいか真剣に考えました。仕事一筋で生きるのではなく、家族のそばにいて子どもの成長を見守りたいという想いが強くなって、今の生活を変えなければと思うようになりました」

決断を後押ししてくれたのは、現在の奥様でした。

「『仕事から帰ってくると、いつも怖い顔をしているよ。そんな顔をして働き続けるなら、もうやめてもいいんじゃない?』と言ってくれたんです。自分としては怖い顔をしているつもりはなかったから驚きました。でもその一言があって、本気で動き出そうと思えたんです」

移住で手に入れた理想の子育て環境

河津さん夫妻は田舎育ちでその良さを知っていることもあり、「いつかは地方で暮らしたいね」と話していたそうです。加えて、当時住んでいた自宅は大通りに面しており、子どもが一歩外に出るだけでも危険を感じる環境に不安を抱いていました。そこで、のびのびと子育てができる環境を第一に求め、移住先を探しはじめました。

特に河津さんが関心を持ったのは、福島県12市町村でした。 震災で特に大きな被害を受けた地域に、何かの形で貢献したいという想いがあったからです。

福島に何度も足を運び、さまざまな地域を検討するなかで、山々に囲まれた田村市の風景に心惹かれました。そこで、移住窓口である一般社団法人Switchに連絡を入れ、サポートしてもらえたことでスムーズに移住することができたのだそうです。

「移住に関しては小さなご相談からお家の紹介まで、さまざまなサポートをさせていただいております。特に力を入れているのが、移住前の不安解消です。縁もゆかりもない土地への移住は、大きな不安がありますよね。そこで移住される前に、ツアー形式で地域を案内して、さまざまな出会いの機会を設けています。移住前から地域との繋がりを作ることで、新しい土地での生活をより具体的にイメージしていただけるのではと思います」と、Switchの影山奈美子 さん 。

事前に住環境を知ることで安心して移住できたという河津さん。どんな地域で、どんな周辺環境なのか念入りに検討を重ね、広い庭のある古民家を新しい住まいに選びました。

「生活は、もう180度変わりましたね。子どもが庭で自転車で走り回ってるんですよ。以前は危なくて自転車遊びもさせてあげられなかったので、自由に庭で遊ぶ姿を見ることができてうれしいです。いつの間にか隣のおばあちゃんの家で一緒にお茶菓子を食べていることもあって、とにかくもう自由です(笑)」

家族の応援で移住と起業に踏み出せた

そしてもう1つ。河津さんは「田村市キッチンカー移住チャレンジ」の制度を利用して、全く未経験である飲食業という新しいチャレンジに踏み出しました。

河津さんが着目したのは、田村市産のおいしいお米です。香り高く、甘くてもちもち食感の「ひとめぼれ」を使ったおにぎりで勝負したいと考え、おにぎり専門のキッチカーで開業することに。それからは各地のおにぎり屋さんを回って、お米が主役になるよう炊き方や握り方にこだわり、研究を重ねてきました。

塩むすび 250円(税込) 香ばし炙り鮭 300円(税込)※イベント、その他の事由により価格は変動することがあります。

「むすびめでは、田村市産の古代米も使用させていただいています。白米よりも栄養価が高く、香ばしい風味が特徴です。先輩移住者の方が古代米を作っているのですが、同じ移住者として応援したい気持ちもありこのメニューを開発しました」

この土地で育まれつつある新しい繋がりを大切にしながら、目標に向かって突き進んでいる河津さん。田村市産のおいしいお米で握るおにぎりと、河津さんの新たな挑戦にぜひご注目ください。

  • 取材日:2024年12月
    取材、執筆:奥村サヤ
    写真、コーディネート:中村幸稚