INTERVIEW

インタビュー

桜の町・夜の森の新名物。生米粉100%で作る バウムクーヘンが紡ぐ復興への道(後篇)

BAUM HOUSE YONOMORI

代表  遠藤一善さん

福島県富岡町の夜の森地区に2023年8月にオープンした「BAUM HOUSE YONOMORI」。富岡町産の米粉100%で作るもちもちのバウムクーヘンは、この町の新たな名物になっています。

店を立ち上げたのは、商工会長であり建築士でもある遠藤一善さん。避難解除されたばかりの富岡町夜の森地区で、店をオープンさせた想いを伺いました。

ここからはじまる「点」を作りたい

富岡町をどうにか再生したいという想いを持つ遠藤さんは、設計事務所を後輩に譲りバウムクーヘン事業に挑戦する覚悟を決めました。

しかし、オープンするまでの道のりは決して平坦なものではありませんでした。物件探しから難航し、空き物件の交渉では何度も断られたといいます。最終的には、同級生が所有する元歯科医院に決まりました。桜並木のすぐそばにあるその建物は、解体寸前の物件だったそうです。

「構造上の制約が多い木造建築だったのでリフォームはとても大変でしたが、建築士としての知見が役に立ちました。周りからは『避難解除されたばかりの何もない場所で商売をして本当に大丈夫なのか?』という声もたくさんいただきましたが、私としては100年前の町の姿に戻っただけだと思っているんです。だから、まずは何かがなければ始まらない。かといって行政の仕事を待つだけでは遅すぎるので、自分ができる範囲で『点』を作ろうと思ったんです」

点と点がつながって線となり、面になっていけば、町はどんどん面白くなるはず。たとえ今は小さな点でも、地元を離れざるを得なかった人たち、いつか帰りたいと思っている人たち、はじめて町を訪れる人たちが立ち寄れる場所を作りたいという想いが、遠藤さんを後押ししてきました。

人が集まる「場所」がある大切さを実感

2023年8月、「BAUM HOUSE YONOMORI」のオープン日には開店前から行列ができるほどでした。開店から1年が過ぎ、試行錯誤の日々は続いていますが、少しずつ手応えを感じていると遠藤さんは言います。

「予想以上に手土産需要が多く、この地域で働く人たちが『お土産に』と買ってくださいます。お墓参りに帰ってきた人や、いわきや仙台方面からわざわざ足を運んでくれる常連客もできました」

春の桜祭りでは、花場での出店と店舗販売を行いましたが、予想に反して店舗での売れ行きが出店の倍以上でした。商品が足りなくなるほどの売れ行きで、遠藤さんは人が集まる「場所」があることの大切さを、改めて実感したといいます。

人と町をつなぐ夜の森バウムの輪

夜の森地区は2023年4月に避難指示が解除されたばかりであり)、まだまだ更地が目立ちます。そんな中でも、甘い香りに誘われて「バウムハウスヨノモリ」を目指してやって来る人がいる。少しずつですが、遠藤さんが見たかった景色が戻りつつあります。

「富岡町にUターンする以前は、埼玉県川越市のまちづくりに関わってきました。その経験から、まちづくりは時間がかかることを知っています。焦ることなく、着実に歩みを進めていきたいです」と遠藤さん。

厨房では製造の研修が行われていました。富岡産の米で作る商品を少しでもおいしく、多くの人に食べてもらうための努力は怠りません。

「点」から始まったこの挑戦が、いつか町全体の活性化につながることを信じて、遠藤さんは今日も店頭に立ちます。バウムクーヘンの輪が重なるように、町の復興もこの店から少しずつ重なっていくかもしれません。

  • 取材日:2024年11月
    取材、執筆:奥村サヤ
    写真、コーディネート:中村幸稚
  • BAUM HOUSE YONOMORI
    https://www.yonomori-baum.com/