INTERVIEW
インタビュー

日常に溶け込む一本を目指して。川内村の大地と人が紡ぐ「かわうちワイン」の歩みとこれから(前編)
かわうちワイナリー(かわうちワイン株式会社)
統括マネージャー 遠藤一美さん
福島県川内村。標高700メートル、阿武隈高地の中央に位置する小さな村で、2016年、ワインづくりへの挑戦が始まりました。
ブドウ畑が広がるのは、村の北西部にあるゆるやかな傾斜地。冷涼な気候と昼夜の寒暖差が、ブドウの糖度と酸のバランスを整え、ワインづくりに理想的な環境を生み出しています。この土地と気候が、力強さと繊細さを併せ持つブドウを育んでいるのです。
「かわうちワインは、村の山菜の天ぷらや、肉厚に育ったしいたけの炭焼きと合わせると、とても良く合うんです」
そう語るのは、かわうちワイン株式会社の統括マネージャー・遠藤一美さん。小さな村で、かわうちワインはどのようにして生まれたのでしょうか。
ゼロから描きはじめた、川内村のワイナリー
「まさかここまでの規模のワイナリーになるとは、全く想像もつきませんでした」
そう語るのは、かわうちワイン株式会社 統括マネージャーであり、川内村役場の職員でもある遠藤一美さん。2016年からワイナリー事業に関わり、2021年にはかわうちワイナリーへ出向。以来、このプロジェクトを最前線で支えてきました。
「村にワイナリーをつくるという話を聞いたときは、全然想像がつかなかったですね。最初は、『ブドウの木を植えるのか〜』ぐらいの受け止め方でした」
当時の川内村には、ワインづくりのノウハウもなければ、醸造施設もありません。
冷涼な気候がワインづくりに適していることは分かっていたものの、知識も経験もない、まさにゼロからの挑戦でした。
かわうちワイナリーは、専門家の助言を受けながら、手探りで一つひとつ工程を学び、少しずつ積み上げていったのです。
なぜ、川内村でワインだったのか
そもそも、ブドウ栽培と無縁だった人口2,000人の川内村で、なぜワインづくりが始まったのでしょう。
「震災と原発事故の影響で全村避難を経験した川内村では、風評を払拭するシンボルが必要でした」と遠藤さんは話します。
復興と産業再生の取り組みの一つとして立ち上がったワイナリープロジェクトは、まず村内で候補地を探すところから始まりました。選ばれたのは、かつて牧草地として使われていたものの、長年手が入らず耕作放棄地となっていた、約3ヘクタールの傾斜地です。
重機が入れない急斜面では、人の力で開墾を進めるしかありませんでした。役場職員やボランティア、村の人たちが集まり、ブドウの苗を植えるために、土に埋まっていた岩を取り除き、草を刈り、木を伐りながら、少しずつ土地を整えていったといいます。
2016年、1年目に植えられたブドウの苗は約2,000本。翌年にはさらに8,000本を植え、畑は合計1万本規模へと広がりました。試行錯誤を重ねた末、2020年に初収穫を迎え、醸造は山梨のワイナリーに委託。
翌2021年、ついに初ビンテージが誕生します。
長い時間と多くの人の手によって積み重ねられてきた努力が、ようやく形になった瞬間でした。
川内村の風土が育てる、気取らないワイン
現在、かわうちワインでは、シャルドネ、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンなど、12種類のワインを販売しています。
ブドウ栽培をスタートした当初に植えたのは10品種ほどでしたが、試験栽培を重ねながら品種を徐々に増やし、2024年現在では約30品種のブドウを栽培しています。
「僕らが作りたいのは、村の野菜や食材に寄り添うワインです。飲み疲れしない、食卓にドンと置いて気軽に楽しんでもらえるような、飲み飽きない、日常に溶け込む一本を目指しています」
ワインというと、敷居が高いイメージを持つ人もいるかもしれません。けれど遠藤さんは、“特別な日のためのお酒”ではなく、もっと日常に近い存在として楽しんでほしいと話します。
「ワインと料理を合わせると、お互いの風味や味わいが引き立ち、単体で味わうよりもぐっとおいしく感じられるんですよ。たとえば、うちのメルローなら、うなぎの蒲焼やマグロの漬けのお寿司。焼き鳥の塩には、シャルドネがよく合います。川内村で育てた食材とも相性がいいんです」
こうした、食材との相性を大切にする姿勢は、かわうちワイナリーの畑づくりにも通じています。
土地の個性を生かしたブドウ栽培を目指し、堆肥には地元の素材を活用。名産のきのこ栽培で出る廃菌床や、地元畜産農家の牛ふんを使うなど、村の資源を循環させる農法に取り組んでいます。
そうして育てたブドウから生まれるワインには、“川内村らしさ”が宿ります。
気取らず、すっと飲める爽やかさ。どこか澄んだ空気を思わせる味わいは、少しずつ全国でも評価されはじめています。
(後編へつづく)
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取材日:2025年10月
取材、執筆:奥村サヤ
写真、コーディネート:中村幸稚
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かわうちワイナリー
https://kawauchi-wine.com

