INTERVIEW

インタビュー

ドラム缶パッキンのシェア率95%の「ミズホ 金属」が南相馬市で描く未来とは(後篇)

ミズホ金属株式会社

代表取締役  岡田真一さん
従業員    門馬克樹さん
従業員    蒔田佑樹さん

南相馬へ工場を新設するまで

南相馬市への進出の誘いに「そんなこと、うちの会社には無理ですよ!」と答えた岡田さんでしたが、誘致説明会などに参加するうちにどんどん現実味が帯びてきたといいます。
しかし、当初は南相馬進出に対して特別な思い入れはありませんでした。

「震災からの復興はもうとっくに終わっていると思っていたんです。仙台なんて震災前より栄えているように見えたし、復興支援という視点は持ち合わせていませんでした」

その視点をぐるりと変えたのは、国道6号線を車で走った時でした。

「僕ね、下道を走るのが好きなんです。それで東京から国道6号線を走るんだけど、富岡町あたりから様子が変わるんですよね。バリケードがあったり、建物もそのまま残されていたり。復興なんてまだまだ進んでもいないことを痛感したんです」

南相馬市に工場を新設することは復興への一助になるかもしれないと考えた岡田さん。しかし、それには大規模な投資を伴います。その経営判断を下してもいいのか、岡田さんは何度も自分に問いかけたと言います。

「自分の動機が本当に正しいものなのか、周りから『すごい』と言われたいだけじゃないのか、毎日毎日自分と向き合いました。そこで導き出したのが、工場新設の3つの目的です。1つは、社会貢献のため。震災後、被災地へ復興支援という名目で足を運ぶこともありましたが、今考えると自己満足で終わっていたんですよね。南相馬へ進出するなら、今度こそ命懸けで工場を運営し、地域のためになることをしたいと考えました。2つ目は、社員満足度の追求。新工場であれば製造工程のスマート化によって、給与を変えずに労働時間を削減することができます。働きやすい環境を整えることで社員の幸福度を高めることができると思ったんです。3つ目は顧客満足度の向上。最新の技術と設備で品質向上と価格維持の両立ができるので、より良い製品の安定供給ができると考えました」

働きやすい環境を整備し、人材を確保

また、南相馬市職員の熱意と真摯な姿勢、地域の人々の温かさも決断の後押しをしたと言います。

「本気で町を良くしたいという人たちに出会いました。それで、純粋に南相馬が好きになったんです。僕は下町でずっと育ってきたんだけど、なんとなく似ているところがあって波長が合うんですよね」

こうして、2023年に南相馬市に新工場『ふくしまスマートファクトリー』が完成。新工場は従来の工場のイメージを一新し、明るく清潔な雰囲気を重視。若い世代や女性でも働きやすい環境を整えました。さらに、オートメーション化を図り、今まで手作業でやっていた工程も全て機械化しました。そうしたことで生産性と品質が向上し、コスト削減も実現できました。

さらに、休憩スペースを充実させるなど職場環境を整えました。そうした数々の工夫の結果、2024年度は新卒者採用6名、中途採用2名と人材確保でも成果を上げています。

自分で考えて行動できることに、やりがいを感じる

新入社員・門馬克樹さんにも話を伺いました。

門馬さんは、南相馬市原町区にある「福島県立テクノアカデミー浜」で機械技術を学び、2024年4月に入社しました。入社から半年が経過した現在、工場はまだ立ち上げ期にあるものの充実した様子です。

「工場自体が新しく、製品生産も始まったばかりですが、上下関係なく気軽に話せる雰囲気があり、『もっとこうしたい』という提案もしやすいので働きやすいです。言われたことをこなすのではなく、自分たちで考えて行動できることにやりがいを感じています。新しい機械の知識も日々増えるので、自分自身の成長にもつながっているという実感があって楽しくやれています」

仕事終わりには、休憩スペースで談笑したり、ご飯を持ち寄って食べたりすることもあるのだそう。「社長がピザを取ってくれてみんなで食べたのも楽しかったです」と門馬さん。今後の目標を伺うと、「社長の教えのように人とのつながりを大切にして、今後入ってくる人たちから頼られる先輩になりたい」とはにかみながら話してくれました。

「ドラム缶部品と言えば南相馬」を目指して

最後に岡田さんに、今後南相馬で実現したいことを伺うとこんな答えが返ってきました。

「『ドラム缶部品と言えば南相馬、南相馬と言えばドラム缶部品』と世の中に認識してもらえるようになりたいです。そんなのは夢だと笑われてしまうかもしれないけど、僕はそれぐらいここで頑張りたいと思っているんです」

南相馬市のある浜通りは、福島ロボットテストフィールドもでき新たな産業文化を育む時に来ています。ミズホ金属は、製造拠点としてではなく、地域とともに発展する企業でありたいとこの町で大きな夢を描き、新たな挑戦に踏み出しています。

  • 取材日:2024年10月
    取材、執筆:奥村サヤ
    写真、コーディネート:中村幸稚
  • ミズホ金属株式会社
    http://mizuho-k.co.jp/