INTERVIEW
インタビュー

福島から東京に発信 メイドイン葛尾のニットを羽ばたかせる人材を
加藤 克典さん
金泉ニット株式会社 福島工場
ゼネラルマネージャー兼福島工場長 加藤 克典さん
スタッフ 小綿 洋勝さん
「『メイドイン葛尾』のニット商品を、1からつくることのできる工場にしたいんです」
金泉ニット株式会社福島工場(以下、金泉ニット福島工場)のゼネラルマネージャーであり、工場長の加藤克典さんは、力を込めて話します。
現在の福島工場での業務のメインは、デザインの決まったニット商品を機械で製造することですが、加藤さんは製造とは別に、「ものづくり」を業務としてやれる環境を作り出そうとしています。そこには、葛尾村の工場という恵まれた環境に、若いクリエイターを集めたいという思いがありました。
ニットをつくるのに適した「軟水」のある村
金泉ニットは、2018年6月に、双葉郡葛尾村の「葛尾村産業団地」に、ニット商品の生産工場を整備しました。同社は愛知県岡崎市に本社を置き、東京事務所では営業を中心とした業務を行っています。
岡崎の本社から生産工場を切り離そうという計画が上がっていたところに、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故が発生しました。金泉ニットは復興支援のため双葉郡での工場立地を計画。当時企業誘致を行っており、ニットを生産するのに適した「軟水」が豊富な葛尾村で、生産工場を操業することになったそうです。
工場長の加藤さんは、ニットの産地として知られる新潟県出身。金泉ニット福島工場でメインにつくっている「ホールガーメント(※ひと針も縫わずに編み上げられる衣服のこと)」の機械を扱っている工場は日本でも少ないそうなのですが、加藤さんは同機種を扱う工場の経営に10年以上関わってきた経験を買われ、2021年から工場長を務めることになりました。現在、単身赴任で葛尾村に暮らしながら、工場運営の向上と、新たな業務づくりに取り組んでいます。
2022年7月現在、金泉ニット福島工場の従業員は13人。4人が移住者で、9人は福島県内在住。2018年の開業から3年間で、28人ほどの雇用を目指していましたが、現地の人手不足は想定以上で、なかなか難しいのが現状です。
葛尾村で業務を行う地元企業として、加藤さんが必要だと感じていることは、「地元企業の横の連携」と、「若い人が村づくりにかかわること」だと言います。
震災と原発事故による避難の影響で、現在、葛尾村の居住人口は400人強。高齢化率は38.9パーセント(2021年3月)と、国や県の平均より高くなっています。そういった村の状況の中、地元企業として、1企業だけでなく連携して村に貢献していくこと、そして村に若い人を呼び込むことが急務だと考えています。
「業務」としてものづくりができる工場へ
金泉ニット福島工場では、採用面接の際に、工場での業務以外に、村づくりへも関わって欲しいということを明確に伝えていると言います。製造業だけではない、交流ややりがいを持って欲しいと考えているからです。
加藤さん自身も業務の中で、地元との連携として、職員が葛尾村役場やむらづくり公社と交流を持つ時間をつくったり、村の年配者から話を聞いたりして「村の人が何を大切に思っているのか」を聞き取るようにしています。そういった中から、地元企業として貢献できること、若手が引き継いでいくことなどを見つけていくのだそうです。
また、ニット商品製造の中でも、若者が活躍できる場をつくることを考えており、それが「メイドイン葛尾」の「福島ブランド(葛尾企画)」の発信だと言います。
金泉ニット福島工場に既にある素材を使って、デザイン・企画から製造、販売計画まで、従業員全員が考えて、自社工場で商品をつくり、販売までを従業員自身が行う、「葛尾企画」。少人数だからこそ、小ロットで試験的な製造ができ、自身がデザインしたものを本人が販売することで、顧客からのフィードバックを直接受けることも出来ます。
ニットの製造業務は機械で行うため、製造自体は単純作業が多いそうですが、自社工場の機械を使って自身の作品を商品化し、発信するというのは、機械と素材の揃っている、ここでしかできないことだと、加藤さんは強調します。
そしてそういったクリエイティブな業務も、すべて業務時間内に行えるというのが金泉ニット福島工場ならではの待遇です。
「今までは、東京でサンプルをつくって、それを福島工場で生産するという形でしたが、コロナ禍で販売の形も大きく変わりました。これからは、「葛尾企画」として商品化し、販売実績をつくったものを東京へ『福島ブランド』として発信するということも考えています」と加藤さん。そのために、東京にいながら「福島ブランド」を発信するスタッフも募集しているとのこと。
「葛尾企画(K.K)」のネームタグも、自社でデザイン
加藤さんは「東京でなければ感じられないこと」は、今はもうほとんど無いと感じているそう。自身の若いころは、週に1度くらい新潟から東京に通って、東京のニーズや情報、流行を取りに行っていたそうですが、金泉ニットには東京事務所があるので、福島(地方)では追いきれない情報も共有されるし、営業も東京側で行えるので問題ないとのこと。
ただ唯一、現場の「匂い」「感覚」は東京にいないとわからないと感じています。そこに関しては、機会をつくって東京事務所に出張することで解消していくと、加藤さん。
「福島のスタッフは今後、製造から販売までをこなすことで、アパレル的感覚が身に着くので、東京に行った時もアパレル販売目線で匂いや感覚を学ぶことができるようになりますよ」と話します。
原宿から葛尾村へ 移住したスタッフの思い
2022年4月から金泉ニット福島工場で働いている、小綿洋勝(こわた・ひろかつ)さんは、葛尾村に来る以前は東京・原宿で働いていました。
キャリアを重ねる中で、デザインや企画は東京じゃなくても出来ると感じ、地方移住を検討していた時期に、葛尾村出身の友人から金泉ニット福島工場の求人を紹介されたそうです。
就職が決まって、葛尾村へ移住。ニット製造は初めてだそうですが、新たに学びながら働けるのはありがたいと話します。これまでも働きながらファッションやデザインの勉強をしてきた小綿さん。いずれは葛尾村でも、経験のあるデザインや企画を立ち上げていきたいとの思いがあり、地方で働く若いクリエイター仲間が増えたらうれしいとのこと。
原宿という都心から福島県葛尾村への移住に関しては、まだ車を持っていないので多少の不便は感じるものの、買い物や食事に行くときは友人・同僚が車に乗せてくれたり、宅配便も不在の場合は職場に届けてくれたりと、地方暮らしならではの、人の親切さを感じているという小綿さん。「東京にいるときから、公園や神社が好きでよく出かけていたので、自然豊かで山に囲まれている葛尾村の環境は気に入っています」とはにかみながら話してくれました。
「糸編」にモチベーションを持ってる人が羽ばたける場所に
「『糸編』に思いを持っている人は、多かれ少なかれ、企画や商品開発に思いを持っていると思うんです」と加藤さん。
「糸編」とは、繊維、綿、絹など、衣服に使用される漢字についている「編」のこと。製造業だと思って入社したとしても、アパレルに興味がある人は、チャンスがあれば商品開発にも関わりたいという気持ちを持っているのでは、と加藤さんは考えています。
金泉ニット福島工場では、製造業としての仕事に加えて、自身が手がけた作品を商品化し、その評価を直接受け取ることができます。
仕事の一環として、クリエイターとしても活動できる職場環境は非常に有難いですし、やりがいにもつながっていくのではないでしょうか。
今後、「葛尾企画」として金泉ニット福島工場で商品化したニット製品は、県内の道の駅などで、スタッフが直接販売する予定です。今まで金泉ニットではレディースをメインに製造していましたが、福島での顧客を考え、メンズや親子で着られるような商品も開発中とのこと。「メイドイン葛尾」の、どんな商品が生まれるのか、とても楽しみです。
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取材、執筆:山根麻衣子
写真:中村幸稚 -
金泉ニット株式会社 福島工場
福島県双葉郡葛尾村
https://www.kinsenknit.com/
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