INTERVIEW

インタビュー

原町区「バーウィザード」で働くために単身移住。一流を目指す若きバーテンダーの日々

村本彩貴さん

出身地:熊本県
勤務先:バーウィザード
勤務期間:2020年〜
年齢:26歳

福島県南相馬市の原町区にあるバーウィザードは、この地域では数少ないオーセンティックなバー。オーナーの草野聡(くさの・さとし)さんのこだわりがつまったこの場所は、2010年のオープン以来、地元のお客さんやバー好きの方々が遠方からも足を運ぶ人気の名店だ。同店で働くバーテンダーの村本彩貴(むらもと・さき)さんは、今年の2月に熊本県から移住を決意、バーウィザードの門を叩いた。

「草野さんはカクテルの全国大会で毎年入賞するほどの実力者。そんな人の元でもっと腕を磨いて一流のバーテンダーになりたいと思い、このお店で働くことを決めました。南相馬は縁もゆかりもない土地でしたが、迷いはなかったです」

バーウィザードの存在を知り、直感で移住を決めた村本さん。生まれ育った故郷・熊本を離れ南相馬の名店での修行の道へ進んだ彼女に、バーテンダーの仕事の魅力、移住先での修行の日々について伺った。

学ぶことの尽きない奥深い世界に魅せられ、未経験からバーテンダーの道へ

日頃から「やりたいと思った気持ちを大切にしている」という彼女がバーテンダーへの道を歩みだしたのも、そもそも直感が働いてのことだった。きっかけは、2016年。地元阿蘇の旅館の屋上にオープンするバーで働いてみないかと知人に誘われたことだった。周辺地域にはこれまでなかったようなオシャレで洗練されたバーがオープンする。その話を聞き、期待に胸が膨らんだ。バーテンダーは職人的な仕事のイメージがあり、未経験者の自分に務まるのか、できるのかという不安があったものの、好奇心が勝り、そのバーで働くこと決意したという。

入店後は、そんな不安もすぐに吹き飛んでしまうような怒涛の日々。未経験の業界への転職ともなれば、覚えなければならないことは山積みだ。通常業務に加え、オフの時間にも動画サイトでバーの動画を見て独学で知識を身につけていった。当時、親身になって仕事を教えてくれた上司は「この世界は一生勉強だよ」と村本さんにバーの世界の魅力を語ってくれたという。それは、村本さんをバーの世界により深く導くきっかけになる言葉だった。

「バーには様々な種類のお酒がありますが、それぞれのお酒に奥深い世界があります。接客も同様で、いくら学んでもゴールはない。バーテンダーとして、お酒をお客様に提供させていただく責任はとても大きいのだと、その上司の言葉から学びましたね。そして責任が大きい分、おいしいと感じていただける瞬間、お客様の楽しそうな表情に出会った時の喜びも大きい。この世界のことを、もっと深く知り、バーテンダーとして成長していきたいと思うようになりました」

そんな尊敬する上司のもとで、村本さんは約2年間働いた。その後はステップアップするために、より幅広い種類のお酒を取り扱うオーセンティックなバーへの転職し、1年間勤務した。そのバーで働いている時期に日本バーテンダー協会熊本支部主催のカクテルイベントに参加したことが、バーウィザードのオーナー、草野さんとの出会いに繋がった。

熊本でバーテンダーをしていた頃の様子

「働かせてください」と初対面で直談判。背中を押してくれた母の思い

バーの世界では、お互いの技術向上を目的とした様々なイベントが行われている。草野さんはバーテンダーの技能大会に毎年参加しては表彰を受ける腕利きのバーテンダーとして、遠い九州でも有名だったという。村本さんがスタッフとして参加した熊本でのイベントにはゲストバーテンダーとして招かれていた。

イベント前にバーウィザードの求人を目にしていた村本さんは、スタッフとして業務を行いながらひそかに声をかける機会を伺っていたのだという。そしてイベント終了後、バーウィザードで働かせてほしいと直談判。「うちは厳しいよ、それでもよければ」。それが草野さんの返事だった。後日、面接の場が設けられ、村本さんはすぐに飛行機のチケットを予約し南相馬のバーウィザードへ向かった。面接が終わると、その場で内定の通知がなされたという。

トントン拍子で話が進んだかのように思えるが、それは村本さんの熱意があってこそ。バーウィザードへの入店が決まった報告をすると、周囲の人は驚いていたという。しかし、日頃の村本さんの熱心な姿勢を見守っていたお母さんは、心配の表情を見せつつも暖かく背中を押してくれた。

「当時はバーでの勤務に加えて空いた時間は積極的に勉強会などに参加するなど、かなりハードな生活をしていました。そんな私を見て母は心配してくれていましたが、転職の話を伝えると「やりたいことを頑張りなさい」と驚きながらも応援してくれました。ずっと実家で暮らしてきた私にとって移住は大きな決断でしたが、あまり迷いはありませんでした」

移住後まもなく営業自粛。「当たり前」の尊さを実感する日々

2020年2月、村本さんは新天地での暮らしをスタートさせた。移住後にたちまち新型コロナウイルスの感染が拡大してしまったため、お店は一時営業を自粛。思い通りに新生活をスタートすることはできなかったものの、地元・阿蘇と同じく自然に恵まれた環境は心地よく、生活圏内での移動は自転車さえあれば不便になることはないため、移住後の生活にストレスはほとんど感じていないという。「仕事を中心に新しい環境で充実した日々を過ごしています」と笑顔をこぼす。

「初めて南相馬に来たときは、正直、よそ者扱いをされてしまうかな、馴染めないかなという思いもありましたが、温かく迎え入れてもらえて不安は消し飛びました。しかし、移住後すぐにお店に立つことができなくなったのは残念でした。阿蘇時代に熊本地震を経験した時にも感じましたが、普通に働いたり、生活をしたり、当たり前だと思っていたことが決して当たり前じゃなかったのだなと気づかされます。生活や情勢が落ち着いたら、福島県内はもちろん、近県のバーを巡りたいと計画中です」

マスターと同じカウンターに立つことが何より貴重な時間

そんなバーウィザードも今では通常営業を再開。これからは、移住前に思い描いたような本格的な修行の日々が、村本さんを待っている。

「お店の空間や、取り扱うお酒の幅広さ、環境はこれ以上ないぐらい恵まれています。お店に立つと、応援の言葉をいただいたり、ああ、このお店は愛されているのだなと感じますね。そして、なにより草野さんと同じ店に立っているという時間が貴重な経験です。

以前は1人で店に立つ機会が多かったのですが、並んでお店に立ち、草野さんの立ち振る舞いを見ているだけでも勉強になりますね。また、オフの日には茶道や華道のお稽古に通っています。成長するために南相馬にきたのだから、仕事に限らず色々なことに挑戦し、吸収していきたいです」

村本さんはバーウィザードに転職後初めてとなるカクテル技能大会に出場予定だったが、新型コロナウイルスの影響で大会は中止を余儀なくされたそうだ。少し残念そうな表情を覗かせながらも、来年こそは出場して賞を取りたいと目を輝かせた。今日も若きバーテンダーはお店に立ち、腕を磨いている。

(2020/8/27取材)

  • 取材:高橋直貴、宗形悠希
    執筆:高橋直貴
    写真提供:村本彩貴 
  • バーウィザード
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